魔王城でのひと時
オレはリリーを連れてアマゾル大陸に行くことを決めた。だが、リリーはアスラ魔王国の文部大臣だ。後任を選ばなければリリーを連れて行くことができない。そこで宰相のブラッドに相談した。すると、ブラッドはしばらく考えてから答えた。
「ダークエルフ族のエルメスがふさわしいと思います。ダークエルフ族は本来エルフ族の血を引いています。長生きにして、知識の宝庫のような存在です。彼ならば、見事役目を果たすことができると具申します。」
「わかった。すぐにエルメスを呼んでくれ。」
「畏まりました。」
しばらくして、エルメスがやって来た。以前の尖った部分は見られない。本来ダークエルフ族は、バンパイア族と同じで紳士的な種族だ。
「お呼びでしょうか。魔王様。」
「よく来てくれた。エルメス。明日からお前はこのアスラ魔王国の文部大臣だ。明日、オレは王立学園に行くつもりだが、そこに同席して欲しい。生徒達にお前の紹介をしたいんだ。」
今まで無役だったエルメスの顔が輝いた。そして、感無量の様子で泣き始めた。
「どうしたのだ?」
「申し訳ございません。各種族の代表が幹部としてそれぞれ重要な役割を与えられる中、同じ幹部の私だけが無役でしたので、みんなが羨ましくて羨ましくて。これで、やっと私もこの国のため、魔王様のためにお役に立つことができます。」
「お前にそんな思いをさせているとは思わなかった。すまなかったな。」
「何を仰せですか。魔王様。魔王様が謝ることはありません。魔王様は適材適所で役割をお決めになりました。私にその力がなかっただけのことでございます。」
「そうか。そう言ってくれると助かる。」
この状況の中、本当は忘れていただけなんて口が裂けても言えない。ここで、ブラッドがエルメスに声をかけた。
「エルフ族もダークエルフ族も『森の賢者』と呼ばれる種族だ。魔王様がお前に大いに期待しているのだ。頑張れよ。エルメス!」
「ありがとうな。ブラッド!」
男の友情もいいものだ。あらためてそう思う瞬間だった。それから、オレとリリーは夕食を食べるために食堂に行った。そこにはローズおばあちゃんと獣人族の3人娘がいた。
「おや。リリーにシルバーじゃないか。丁度よかった。久しぶりに一緒に食べようかねぇ。」
「ローズおばあちゃん。庭の野菜はどう?」
「ありがとうよ。たくさん採れるさね。今日、これから出てくる野菜もわしが庭で育てた物じゃよ。」
「よかった~。」
「何じゃ。シルバー! わしのことを心配してくれていたんか? 心配せんでもいい。わしら堕天使族には寿命があって無いようなもんじゃからな。」
「そうだけどね。」
すると、ローズおばあちゃんが隣の席のミーアの頭をなでた。
「懐かしいのう。リリーもシルバーも以前はこうじゃったからな。」
頭をなでられたミーアは不思議そうな顔でローズおばあちゃんを見た。
「魔王様もリリー様も小さい時があったのかにゃ?」
「ああ、そうだよ。お前達ぐらいの時があったんじゃよ。」
「へぇ~」
すると、ここでキャロットが爆弾発言だ。
「私、大きくなったら魔王様の奥さんにしてもらうぴょん。」
「ずる~いにゃ。私も魔王様の奥さんになりたいにゃ!」
「私もですコン。」
なんか賑やかな食卓だ。そんな中、料理が運ばれて来た。どれも美味しそうだ。一口食べると懐かしい味だ。
「どうだい? シルバー!」
「もしかして、この料理は・・・」
「そうさ。わしがこの城の料理人達に教えたのさ。」
自然とオレの目から涙が溢れる。オレがこの世界で初めて食べた味だ。記憶を失って不安だらけのオレを、暖かく迎え入れてくれたあの優しい味だ。
「魔王様が泣いてるぴょん。」
「泣き虫魔王様にゃ。」
「泣かないでコン。」
「ほら、シルバー! せっかくの料理が冷めちゃうわよ!」
オレはリリーに言われて再び食べ始めた。そして、食後にはデザートが出てきた。冷たく冷やされた甘いクリームだ。もの凄く美味しい。獣人族の子ども達も顔をクリームだらけにしながら食べている。リリーの顔にもクリームがついている。オレはリリーの鼻に付いたクリームを手で取って食べた。すると、子ども達が騒ぎ出した。
「リリー様だけずるいにゃ!」
「私のも食べて欲しいぴょん。」
「私は直接舐められたいコン。」
なんかヨーコだけ発想がおかしい。
みんなで食事をした後、それぞれの部屋に戻った。オレは久しぶりにゆっくりと風呂につかっている。なんせこの魔王城の風呂は室内にあるが、空間魔法で拡張してものすごく広くなっている。しかも、露天風呂のような作りとなっているのだ。まるで森の中にいるように、たくさんの木々が生えている。すると、湯気の向こうから誰かが入って来た。よく見るとリリーだ。
「キャー」
リリーはオレを見るとタオルで前を隠した。でも、しっかり見えたけどね。
「何でシルバーがいるのよ~!」
「何でって言われても、ここは魔王城だからね。」
「仕方ないわね~!」
そのまま出るかと思いきや、リリーは後ろ向きで軽く体を流して浴槽に入って来た。
「懐かしいわね。昔はこうして、私とシルバーとおばあちゃんで一緒にお風呂に入ったもんね。よく背中を洗いっこしたよね。」
「そうだね。でも、少しは成長したじゃないか。」
真っ赤な顔でリリーが怒鳴った。
「当たり前でしょ! 私だってもう15歳よ。堕天使族でも成人なんだからね。」
「そうなんだ~。でも、セリーヌはこれからどうするのかな~? 彼女は時間を止めてるんだろ?」
「そうね。彼女は自分の時間を止めてるのよね~。」
すると、どこからともなく声が聞こえた。
「再び、時間を動かしたぞ!」
声のする方を見ると、奥の湯気の中からセリーヌの顔が見えた。
「いつからいたのさ。」
「お前が入ってくる前からだな!」
「何で黙ってるのさ!」
「恥ずかしいじゃないか!」
すると、オレとリリーがハモッた。
「えっ————! 恥ずかしい————?」
「当たり前だ。俺も女だぞ!」
「なら、リリーと同じようにこれから成長するんだね!」
「シルバー! お前、失礼だぞ!」
「そうよ! 失礼よ!」
リリーもセリーヌの味方だ。だが、その味方意識も一瞬で崩れる。
「残念だが、俺はシルバーと同じで自分の姿をいくらでも変えられるんだ。小娘のリリーと一緒にするな。」
リリーが落ち込んでしまった。
「大丈夫さ。リリー。リリーだっていつか成長するんだし。」
「バシッ」
リリーが怒って出て行ってしまった。
「お前は女心をもっと勉強した方がよさそうだな。」
セリーヌも出て行ってしまった。オレは一人で寂しく、のぼせるまで風呂にはいった。




