ロザンヌ、また会う日まで!
セリーヌがエドモント公爵とスチュワート辺境伯に伝えると、2人の動きは速かった。すぐに兵士を集めた。そして、ゲーテはキングコブラのアジトに手紙を渡した。その手紙には、『至急メンバー全員、マルメット公爵の屋敷に集合するように』と書いてあった。
「シルバー様! なんか上が騒々しい様子ですが、何かあったんですかね?」
すると、武装した兵士が2人やって来た。僕とロザンヌを上に連れて行くつもりらしい。
「おい! 両手を後ろに回せ!」
僕とロザンヌは両手を後ろに縛られて、上に連れていかれた。周りを見渡すと、すでに薄暗くなっていて、ところどころで薪がたかれていた。そして、兵士達が武器を持って並んでいる。兵士だけではない。中にはキングコブラのメンバーらしき者達もいた。
「エドモント達の軍勢は何人だ?」
マルメット公爵が、余裕の表情で近くにいた隊長らしき男に聞いた。
「ハッ、恐らく300人ほどと思われます。」
それを聞いて、マルメット公爵がキングコブラの首領のマムシに言った。
「こちらは600人はいる。余裕ではないか。なぁ、マムシよ!」
「さすがはマルメット公爵様ですな。ここで、エドモントとスチュワートを打ち取れば、この国は公爵様のものですぞ。」
「わかっているではないか。ワッハッハッ」
暫くして、地響きと同時に屋敷の外にも大量の松明が見え始めた。どうやら、エドモント公爵とスチュワート辺境伯が到着したようだ。門が開き、完全武装したエドモント公爵とスチュワート辺境伯を先頭に、兵士達が入場してきた。
「マルメット公爵。辺境伯の娘、ロザンヌを返していただこうか?」
すると、両手を縛られたロザンヌが大きな声で叫んだ。
「お父様——!」
スチュワート辺境伯の顔つきが変わっていく。マルメット公爵に対して大声で言った。
「卑怯者! 娘を利用するなど貴族の風上にも置けぬ!」
「黙れ! 娘がどうなってもいいのか!」
マルメット公爵が目で合図をすると、兵士がロザンヌの首元に剣を当てた。
“セリーヌ! この屋敷の地下の獣人達を頼む。上はオレ一人で何とかする!”
“分かった! シルバー!”
僕の口調が変わった。そうだ。僕が魔力を解放したのだ。すると、『バーン』と何かが破裂するような大きな音がし、辺りに黒い靄が漂い始め何も見えなくなる。
「何事だ!」
慌てたマルメット公爵が叫んでいる。兵士達の動揺した声も聞こえてくる。オレは手で靄を払った。靄が晴れ渡ると、マルメット公爵の前には精悍な男へと変化したオレが立っていた。
「貴様は何者だ?」
「オレか? オレのことを知ったら、お前、ただじゃすまないぞ!」
オレの口調が変化したことに、ロザンヌもスチュワートも驚いている。
「ふざけるな! わしはこの国の公爵であるぞ! 貴様ごとき下賤のものが話をしていい相手ではないわ!」
「そうか! ならば教えてやろう。その前に。」
オレが『パチン』と指を鳴らすと、ロザンヌに剣を突き付けている兵士がバタリと倒れた。オレはロザンヌの元まで転移し、ロザンヌを連れて再びスチュワートの元まで転移した。オレの行動を見て、マルメット公爵は信じられないものを見たかのような顔をしている。
「これでいいだろう。」
オレは背中に漆黒の翼を出し、上空に舞い上がった。そして、空中からマルメット公爵を見下ろしている。
「オレの名はシルバー! アスラ魔王国の王だ! お前達が言うところの『魔王』だ! そろそろ正体を現せよ! ゴミムシ!」
オレが手を横に振ると、マルメット公爵の隣にいたマムシの頭が身体から離れて、空中に舞い上がった。頭が落とされたにも関わらず血が出ない。周りの兵士達は恐怖で足が震えていた。味方であるはずのエドモント公爵とスチュワート辺境伯の兵士でさえも震えている。すると、マムシの身体と頭から黒いものが現れ、再び頭と体がくっついた。
「よくわかったな! シルバー! 貴様が魔王だと~! ふざけるな! 魔王を名乗っていいのは我が主のサタン様だけだ! 貴様ごときこのこの悪魔四天王のデビロット様が始末してくれるわ。」
マムシの身体がどんどん大きくなり、背中からはオレと同じように黒い翼が出た。頭には2本の角がある。
「それがお前の本当の姿か? やはり悪魔族だな。臭いぞ!それに汚すぎる!」
オレの挑発にデビロットが怒り狂う。
「許さぬ! 貴様は絶対に許さぬぞ!」
デビロットの手から巨大な黒い渦がオレに放たれた。
「死ねー!」
オレは手を前に出し、魔法を発動する。
『グラトニー』
すると、巨大な黒い渦がオレの手に吸い込まれていく。デビロットは自分の攻撃が通用しなかったことで動揺し始めた。
「馬鹿な?!」
「お前の攻撃はその程度か? もしかして、お前は自分が悪魔族だから不滅だとでも思っているのか?」
「我ら悪魔族は死ぬことはない。つまり、貴様がいかに強かろうと、俺様を倒すことはできないということだ。」
「教えてやろう。太古の魔王アンドロメダは、悪魔族であろうとサタンであろうと完全に消滅させることができたらしいぞ!」
「確かにな。だが、この時代にアンドロメダは存在しない!」
デビロットが魔法を発動する。デビロットの身体から出た無数の黒い蛇がオレに襲い掛かる。オレは何もしない。
「ふん! 油断したな!」
オレは全身の闘気を爆散させる。全身から眩しい光が放たれ、黒い蛇達はその場で燃えて消滅した。
「くだらないな。では、そろそろ終わりにしようか。」
「待て! その強大な魔力、その圧倒的な強さ。ま、ま、まさかお前は・・・」
デビロットが何かを言いかけたが、オレは魔法を発動した。
『アナイアレーション』
すると、デビロットの身体が黒い光に包まれ、足からどんどん消えていく。
「サタン様——————!!!」
マムシことデビロットは完全に消滅した。オレは、マルメット公爵を睨んだ。
「次はお前の番だ! マルメット! お前には生きる資格はない!」
「ま、待ってくれ! 何が希望だ? 金か? 財宝か? 女か?」
オレがパチンと指を鳴らすとマルメットの右腕が吹き飛んだ。
「ギャー」
マルメットは失禁しながら地面を転がる。オレはマルメットの頭を踏みつけた。
「貴様は、他の種族に同じことをしたんだろう! 人族が特別などと誰が決めた! すべての種族は平等であらねばならぬのだ!」
「悪かった。わしが悪かった! だから許してくれ!」
周りの兵士達はただ茫然と見ているだけだ。オレに向かって来ようとする者は誰一人いない。動きたくても恐怖で動けないのだ。オレはエドモント公爵を見た。彼とは無駄な殺しをしないと約束している。オレはエドモント公爵に言った。
「こいつらを任せてもよいか?」
エドモント公爵は静かに頷いた。あまりの出来事に声が出ないのだ。すると、スチュワート辺境伯が兵士達に声をかけた。
「反乱分子どもを捕えろ!」
「ハッ」
スチュワート辺境伯の指示で、兵士達がマルメットを始め、キングコブラのメンバー、反乱軍を全員拘束した。それを確かめて、オレは元の姿に戻った。当然口調もだ。僕はロザンヌの近くに行った。
「ロザンヌ。怖い思いをさせてごめんね。」
「・・・・・」
当たり前だ。僕の正体を知った以上、もう今までのようにはいかない。そこに、セリーヌが獣人族の子ども達を連れて現れた。
「シルバー! 獣人族の子ども達はどうする?」
「そうだね。一旦、アスラに戻ってリリーに預けようか? それから彼らの故郷まで連れて行くさ。」
「わかった。」
エドモント公爵とスチュワート辺境伯が、僕の前に来て片膝をついて挨拶をしてきた。
「魔王陛下とは知らずにご無礼しました。」
「やめてよ。僕はただのシルバーだよ。それに、魔王なんだよ。」
すると、スチュワート辺境伯が言った。
「いいえ。魔王陛下は我らの恩人です。我が娘ロザンヌを2度にわたってまで助けていただきました。このご恩は生涯忘れません。」
いまだにロザンヌは立ったまま呆然としている。頭の整理がつかないのだろう。
「エドモントさん。約束したよね。僕は約束を守ったよ。次はエドモントさんの番だよ。この国の王となって、奴隷制度を廃止して、すべての種族と友好関係を築くって。」
「お任せください。私も男です。魔王陛下との約束、見事成し遂げましょう。」
「お願いだよ。そうしないと、僕はこの国を滅ぼさなければいけなくなるからね。」
僕の言葉にエドモント公爵もスチュワート辺境伯も真剣な顔つきでいる。
「そろそろ僕、行かなきゃ。機会があったらまた会うかもね。」
僕はロザンヌのところまで行った。そして一言話した。
「親切にしてくれて、ありがとう。楽しかったよ。」
僕は振り返ってセリーヌ達のところに行く。
「セリーヌ。そろそろ帰るよ。」
「そうだな。」
僕が獣人の子達3人を連れて転移しようとしたときに、ロザンヌが泣きながら大きな声で叫んだ。
「好き! 好き! 魔王でもいい! 大好きで~す! シルバー様~! ありがとう~ございました~!」
ロザンヌが手を振っている。僕も手を振った。そして、僕達の姿はそこから消えた。




