辺境伯の娘ロザンヌ
探るといっても何の当てもない。そこで、辺境伯の家を見張ることにした。毒をもられたとしたら、恐らく内部に犯人がいるはずだ。内部にいる犯人は外部の仲間と連絡を取る可能性がある。僕とセリーヌは、人目に着かないように自分達に『気配遮断』の魔法をかけて監視した。監視を始めて2日ほどした時、一人のメイドらしき女性が外に出てきた。買い物かもしれないが、僕が後を付けることにした。
「セリーヌ。僕はあのメイドの後を付けるけど、ここで監視しててね。」
「わかった。」
メイドは街の大通りを歩いている。どうやら市場に向かうようだ。今のところ不自然な動きは見られない。そして、市場に入って行くと、肉屋や野菜屋に寄った。そして、周りを確認するような仕草をして、薬屋に入って行った。僕は『気配遮断』で姿を消して、後をついて行く。すると、メイドは店の奥の個室に入った。
「どうだ? 薬の効き目は?」
「はい。そろそろだと思います。」
「そうか。すぐに殺すとあまりにも疑わしい。こうして、少しずつ毒を与えて徐々に弱らせていけば病死と区別できまい。」
「はい。大勢の医者が確認していますが、不明だと言われています。」
「ならば、今回はこれを全部飲ませろ! これで、辺境伯の娘もお陀仏だ。」
「どうしてそこまで?」
「お前はそんなこと知らなくともよい。今回の件が終われば、お前もお前の父親のコンドル男爵にも報酬が出るから、期待していろよ。」
「あのお方には、私のことはちゃんと報告してくれてるんでしょうね?」
「当たり前だ。だから、報酬を期待しろと言ってるんだ!」
「ウフフ。楽しみだわ。お父様もこれで子爵ね。上級貴族の仲間入りだわ。」
メイドは薬屋から出てきた。そして、屋敷へと戻っていった。僕はすべてをセリーヌに伝えた。
「そうか。シルバーの言った通りだったな。」
「まあね。でも、あのメイド、許せないよ~。」
「それで、どうするんだ?」
「僕に考えがある。ついてきて。」
「わかった。」
僕とセリーヌは『気配遮断』で姿を消して、辺境伯の屋敷に忍び込んだ。屋敷の外は、厳重に警備されていて、大勢の兵士達がいた。だが、屋敷の中は警備が甘く、使用人とメイドだけだ。僕達は辺境伯のいる部屋まで行った。辺境伯は、机に向かって考え事をしているようだ。そこで、僕は姿を隠したまま、辺境伯に話しかけた。
「辺境伯さん!」
「誰だ?」
辺境伯は誰もいないのに突然話しかけられて驚いている。
「この屋敷のメイドがあなたの娘に毒を飲ませてるよ。恐らく、今日、その薬であなたの娘の命を奪うつもりさ。すぐに、薬の投与をやめさせた方がいいんじゃない。」
「何者だ? 姿を見せろ! 姿も見ずに信じられるか!」
しょうがない。僕とセリーヌは辺境伯の前に姿を現した。
「貴様達は何者だ?」
「僕達が何者でもいいでしょ! それより、あなたの娘さんを助けることの方が大事じゃないの?」
すると、辺境伯は僕とリリーをじっくりと見た。そして、僕が気にしていることを言ってきた。
「もしかして、お前は男なのか?」
「僕は男だから! それより、早くしないと手遅れになるよ!」
辺境伯は半信半疑で娘の寝ている部屋に急いだ。僕とセリーヌも後からついて行く。すると、メイドがまさに薬を飲ませようとしているところだった。僕は魔法で時間を止めた。
『タイムストップ』
僕とセリーヌ以外の時間が止まる。メイドの持っている薬を取り上げて、再び時間を動かした。すると、メイドは、手に持っていたはずの薬がないことに気付いて驚きの声をあげた。
「えっ?! 何?!」
メイドは周りをキョロキョロしている。辺境伯も同じだ。
「一体何がどうなっているんだ?」
「辺境伯さん。落ち着いて。この薬が毒なんだよ。そうだよね? メイドさん。」
僕はメイドの前に出て、メイドの持っていた薬を見せた。
「毒? 何のことですか? それよりあなた方は何者なんですか?」
「へ~! これ、毒じゃないんだね。なら、飲んでみてよ。」
「いきなり、失礼じゃないですか? それに、ここはお嬢様の部屋ですよ。辺境伯様! この怪しい人達を捕まえた方がよろしいかと思いますが。」
メイドはあくまでも惚ける気だ。ならば考えがある。
「なら、僕が君に飲ませてあげるね。また、時間を止めるから、確実だよ。」
「時間を止める? そんなことができるはずが・・・・」
再び僕は時間を止めた。そして、手から普通の水を出してメイドの口に入れ、再び時間が動き始める。メイドの口からは水が流れ出している。
「ぺッ ぺッ いきなり何をするんですか?」
「もう遅いよ。君はこの薬を全部飲んだんだからね!」
メイドの顔がだんだん青白くなっていく。
「た、た、助けて! お願い! 助けて! 死にたくない!」
「勝手なこと言ってるよね。君はその少女を殺そうとしたんだよ。なのに、自分は助かりたいなんておかしくない?」
メイドは体を震わせながら、恐怖のあまりその場で失禁して気を失った。
「これでわかったでしょ? 辺境伯さん。」
「あなた達は神の使いなのか?」
「違うよ。」
「時間を止めるなど聞いたことがない! そんなことが現実にできるなんて、神以外に考えられない。」
セリーヌが僕に目で合図を送ってきた。
「辺境伯さん。娘さんの様子を見せてもらっていいかな?」
辺境伯の返事を待たずに僕はロザンヌのところに行って魔法をかけた。
『デトックス』
すると、ロザンヌの口から黒いものが雲のようにどんどん出てくる。僕はそれを魔法で回収する。
『グラトニー』
僕の手から黒い渦が出て、黒い雲を回収する。
「これで、娘さんは大丈夫。すぐに目を覚ますよ。」
「それは誠か?」
僕は指を鳴らした。
「パチン」
するとロザンヌが目を覚ました。半年もの間眠り続けたロザンヌが目を覚ましたのだ。
「き、き、奇跡だ!」
辺境伯は大きな声をあげて、ベッドで寝ていたロザンヌを抱き起した。
「お父様! いきなりどうしたの?」
「ロザンヌ! お前は毒を盛られて半年の間、眠っていたのだよ。この方達がお前を助けてくれたんだ。」
辺境伯はロザンヌを抱きしめて泣いている。
「シルバー! そろそろ行くか!」
「そうだね。」




