フローレンスの街
僕とセリーヌはゴルドバ達の持っていたお金とお宝を回収して、その半分をジャッカルの足元に置いておいた。残り半分だけいただいたが、それでも結構な金額だった。
「今日はフローレンスで何か美味しいものでも食べようよ。」
「そうだな。」
「セリーヌはフローレンスには行ったことがあるの?」
「まあな。でも、一度だけだ。」
「なら、美味しい店なんて知らないね。」
「ギルドで聞いた方が間違いないだろうな。」
僕達はフローレンスの街まで急いだ。正直、僕はいくら走っても疲れることはない。だがセリーヌは違う。
「シルバー! 少し休むぞ!」
「ごめんごめん。」
「やはり凄いな。お前! それで、自分の種族は思い出したのか?」
「いいや。昔も今もわからないままだよ。ナルーシャ様も教えてくれなかったしね。」
「なんか。俺やリリーとお前は似てる気がするんだがな。」
「堕天使族ってこと?」
「ああ。そうさ。でも、堕天使族にしちゃぁ、お前は強すぎる気がするがな。」
「そのうちわかる時が来ると思うよ。」
少し休んで再び走り始めた。フローレンスに近づくにつれてすれ違う人が多くなってきた。中には荷馬車の人もいる。少し先に、大きな門が見えてきた。恐らく、入場門だ。
「凄い列だね。」
「時間はあるし、待つかないだろう。」
すると、並んでいる人達のひそひそ話が聞こえてくる。僕やセリーヌにとってはいい情報源だ。こういう場合は、大抵魔法で聞こえやすくしている。
「おい。聞いたか? 辺境伯様のお姫様が病気らしいぜ!」
「本当か?」
「姫様はいつも街中を歩いていたじゃないか。俺、好きだったんだけどな~。可愛らしくて。」
「俺もだぞ! あの方は、気取らずに何時も平民の俺達に声をかけてきてくれたからな。」
「辺境伯様も悲しんでるだろうな!」
「ああ。なんか、病気を治せる者を国中で探してるらしいぜ。」
「だろうな。」
前の男達の話を聞いていると、僕達の順番が近づいてきた。
「どうした?」
「なんか、気になるな~。今の話。」
「よくあることじゃないか?」
「そうかな~。」
僕達は冒険者カードを見せて中に入った。門をくぐって中に入ると、フローレンスの街は活気にあふれていた。街行く人々はみんな笑顔だ。恐らく、この街を収めている辺境伯の人柄なんだろう。すると、余計にさっきの話が気になった。
「セリーヌ! ギルドに行こうよ。」
「そうだな。」
僕達は冒険者ギルドに向かった。ギルドに入ると、いつものように酒臭い。僕はお酒の匂いが苦手だ。受付に行くと、珍しく男性の職員だった。
「何か御用ですか? きれいなお嬢様方!」
すると、セリーヌが後ろを向いて噴き出している。面倒なので、僕はもう否定しない。
「この街で美味しい店を教えてくれる?」
「それなら、この先にある『黄色い帽子亭』がおすすめですよ。」
今度はセリーヌが聞いた。
「もう一つ聞きたいんだが。」
「なんでしょうか?」
「辺境伯様ってどんな方だ?」
「そんなことを聞いてどうするんですか?」
なんか怪しまれているようだ。僕は並んでいるときに聞いた話をした。
「ここに来る途中で、お姫様が病気って聞いたんです。何か人に恨まれることでもあったのかなって。」
すると、男性職員の顔色が変わった。
「シー! 下手なことを言うと捕まりますよ。」
「でも、お姫様が可愛そうです。」
「そうですね。辺境伯様は実直で正直者なんです。曲がったことが大嫌いで、いつも我々庶民のことを気にかけてくれる方なんですよ。それに、奴隷制度に反対していましたから。その分、貴族達の中には辺境伯様を恨んでる方も多いと思いますよ。」
「そうなのか。なら、お姫様が病気かどうかも疑わしいな。シルバー。」
「そうだね。」
「私が話したことは内緒ですからね。お願いしますよ。」
「うん。ありがとう。」
「どういたしまして。」
最後に僕は受付の男性職員に言った。
「僕は男だからね。間違えないでね。」
「えっ?!」
僕とセリーヌはギルドを後にした。
「セリーヌ! 笑いすぎだから。」
いまだにセリーヌが笑っている。
「だって、いつも女の子に間違えられるじゃないか! 私よりシルバーがフリル付きの服を着た方がいいんじゃないのか?」
「ふん!」
「悪い悪い! 怒るなよ!」
「別にいいけどね。」
なんか似たようなことが以前にもあった。あの時はリリーと一緒だった。今頃リリーは何をしてるだろうか。
その頃、アスラ魔王国ではリリーの指揮のもと学校の建築が終了して、学科やコース、教える科目の検討に入っていた。協力してくれているのは、主に天狗族の女性達だ。彼女達は知識の宝庫だ。それに魔法にも造詣が深い。他の種族の教員は現在募集している最中だ。
「あ~あ。シルバーは何をしてるかな~? 浮気したら承知しないんだから!」
僕はセリーヌと一緒に、ギルドで紹介されたレストランに行った。お金には余裕があったので、レストランでは好きなものを頼んだ。僕はどうしても野菜系のメニューが多い。リリーもそうだったが、セリーヌも肉食系だ。肉料理を注文していた。
「ここの料理も美味しいね。」
「そうだな。だが、ばあさんの料理が一番だな。」
「僕もそう思う。」
そんな話をしながら料理を食べていると、他の客の話が聞こえてきた。
「やっぱり、ロザンヌ様はお目覚めにならないのかしらね。」
「なんか、国中の医者が見たけど分からないらしいわよ。」
「毒でももられたんじゃない!」
「声が大きいわよ。聞こえたら大変よ。」
「でも、お可哀そうよね。」
恐らくロザンヌ様というのは辺境伯のところの姫様だろう。
「シルバー! そんなに気になるなら、探ってみるか?」
「そうだね。」




