キソ商会のゴルドバ
そして翌日早朝、いよいよ出発だ。馬車3台にキソ商会の従業員とゴルドバが分乗する。1番目と2番目の馬車を『天空の嵐』が、僕とセリーヌが3番目の馬車を警護することになった。
「この街道って辺境伯の領都フローレンスまで行くんだよね。」
「そうだけど。どうしてだ?」
「なんか人通りが少ない気がするんだけど。」
「確かにな。」
そんな話をしていると、先頭を歩いているジャッカルの大きな叫び声が聞こえた。
「盗賊だ~!」
「シルバー! 後ろは頼んだ!」
「うん。」
気が付くと、右の森の中からぞろぞろと人相の悪い男達が出てきた。どうして、盗賊と呼ばれる人達は人相が悪くなるのだろう。総勢20人規模の盗賊だ。普通なら殺されてお終いだろう。だが、今回は違う。僕とセリーヌがいるからだ。
「ギャー」
前の方から悲鳴が聞こえた。冒険者の誰かがやられたのかもしれない。後ろでは、男達がにやにやしながら僕に近づいてくる。
「おい! 見ろよ! こいつはスゲ~上玉じゃねぇか。お頭の言った通りだぜ!」
“お頭? 誰のことだ?”
「おい! 傷つけるなよ! 無傷で捕まえるように言われてるんだからな!」
盗賊達がにやにやしながら僕に近づいてきた。
「もしかして、おじさん達は何か勘違いしてない?」
「いいから、おとなしく武器を捨てろ。そうすれば痛い目は見ないぜ!」
僕は剣を抜いて、盗賊達に向かって構えた。すると、後ろから針のようなものが飛んできた。それをかわして後ろを見ると、馬車の中のキソ商会の従業員達が僕に向かって吹き矢をふいてきたのだ。
「おじさん達グルだったの?」
すると、中からゴルドバが出てきた。
「今頃気付いたか?」
「どうしてこんなことするの?」
「そんなこと、決まっているだろう。女を捕まえて売り飛ばすのさ。」
このゴルドバがお頭なのだろう。僕のことを女と思っている可能性が高い。そう思うとだんだん怒りが込み上げてきた。
「キャー」
隣の馬車では、魔法使いのジュリーと弓使いのセプトが吹き矢でやられて気を失って倒れている。僕はセリーヌに念話を送った。
“セリーヌ! 馬車の連中もグルだよ。女が目当てみたい。そっちの状況はどう?”
“剣士のマーチと盾のジュンがやられた。立っているのはリーダーのジャッカルだけだ。”
“なら、もういいね。全員、僕が片づけるよ!”
“ジャッカルはどうするんだ? 見られる可能性があるぞ!”
“仕方ないよ。後で、記憶を消去すればいいさ。”
“わかった。”
オレは魔力を解放した。すると、背中には漆黒の翼が出て、顔つきも精悍な男へと変化していく。オレの変わりように、盗賊達の顔色が変わった。
「き、貴様は魔族だったのか? しかも男ではないか?!」
「それがどうした。下種ども。お前達には生きる資格などない。今までにも同じように女を売り飛ばしてきたんだろ!」
「恐れるな! 相手は一人だ! やっちまえ!」
「お前、何か誤解していないか? 確かにオレは一人だ! だが、オレはアスラ魔王国の王だ。」
「アスラ魔王国?! 王?! もしかして、お前は新たに誕生したという魔王なのか?」
ゴルドバの言葉を聞いて、他の盗賊達の顔色が変わっていく。
「ま、ま、魔王?!」
オレが魔王だとわかって、盗賊達は逃げ始めた。
『パチン』
オレが指を鳴らすと、逃げだした盗賊達はその場で身体がばらばらに吹き飛んだ。残った盗賊達は、腰を抜かして地べたにしゃがみこんで失禁している。中には大きい方を漏らしている者もいた。
「た、た、助けてくれ、いや、ください。お金ならいくらでも・・・」
「最初に言っただろう。お前達には生きる資格はないと!」
オレは剣を腰に収め、手を横に振った。
『風裂斬』
すると、盗賊達の頭が身体から離れた。辺りには血の匂いが漂っている。
「シルバー! 死体はどうする?」
「燃やすさ!」
気絶して倒れている『天空の嵐』のメンバーを脇に移動させ、馬車から馬を逃がした。そして、魔法を発動する。
『ファイアーバニッシュ』
すると、馬車と死体が炎に包まれ、跡形もなく消え去った。その様子を腰を抜かしてみている者がいた。『天空の嵐』のリーダーのジャッカルだ。オレとセリーヌはジャッカルの元まで行った。
「ど、ど、どうか、命ばかりはお助けください。」
オレは薬で眠らされている女性と、怪我をして意識のない男性の仲間に魔法をかける。
『リカバリー』
すると、全員の傷が見る見るうちに治っていく。人族の中にはこれほど完璧な治癒魔法を使えるものはいない。ジャッカルは平伏して頭を地面に伏せている。オレもセリーヌも元の姿に戻った。
「僕達があなた達を害することはないよ。」
すると、ジャッカルが顔を上にあげた。そこには子どもの姿の僕とセリーヌがいた。
「まさか?」
「ジャッカルさん。あなたの記憶を少しいじらせてもらうね。」
『イレイズメモリー』
すると、ジャッカルもその場で意識を失った。僕は、魔物に襲われないようにジャッカル達に結界魔法をかけて、セリーヌと一緒に領都フローレンスに向かった。
「あれで良かったのか?」
「いいんじゃないかな。僕達のことは覚えてないし。」
「そうか。これで、女の敵が少し減ったな。」
セリーヌも満足そうだ。




