アスラ魔王国の第一歩
オレとリリーはすべてを報告するため、ローズおばあちゃんの待つ家に2人で帰ることにした。
「早くしろよ。リリー!」
「待ってよ~!」
女性の身支度には時間がかかる。オレは元の服装に戻っている。魔王になってからは、魔王らしい服装を身につけるようにと、セリーヌとブラッドに言われているので、それなりの服を着ているが、城から出るときはいつも通りのラフな格好だ。誰もオレが魔王だとは思わない。
「準備できたわよ。」
「じゃあ、行くぞ!」
「えっ?! 飛翔していくんじゃないの?」
「転移魔法だよ。もう、自重する必要もないからな。」
「やっぱり転移魔法が使えたんだね。」
「まあな。」
リリーと手をつないで転移でローズおばあちゃんの待つ家に帰った。すると、山奥で暮らしているために何も知らないローズおばあちゃんは、いきなりオレ達が現れて驚いている。
「シルバー! あんた、セリーヌと同じように転移魔法が使えるようになったのかい?」
「まあね。今日はリリーと一緒にローズおばあちゃんを迎えに来たんだよ。」
「えっ?! 魔族の国アスラで何があったんだい?」
すると、リリーがローズおばあちゃんに説明を始めた。
「シルバー! リリーの話は本当かい?」
「本当だよ。封印が解除されて、オレの記憶も力も戻ったんだ。」
「やはり、シルバーが・・・」
「そうさ。オレが魔王アンドロメダの生まれ変わりさ。」
「やはりな。お前は子どものころから、魔力が尋常じゃなかったからな。」
「ローズおばあちゃん。世界がまた暗闇の飲み込まれようとしているんだ。オレが魔王になって、この世界を平和にするのさ。」
「なるほどね。だが、一人じゃ無理だろうて。」
「大丈夫よ。おばあちゃん。私達には新たに仲間ができたのよ。私もアスラ魔王国の文部大臣って呼ばれることになったのよ。」
「リリーがかい?」
「そうだよ。リリーは魔族の武闘大会でも活躍したからね。誰も文句を言う者はいないさ。」
「そうなのか! あの小さかったリリーが魔王の側近になるとはのう。お前の亡くなった両親も喜んでおるじゃろうて。」
「それに、シルバーが武闘大会でサタンの手下をコテンパンにやっつけたのよ。おばあちゃんにも見せたかったわ。」
「そうじゃのう。」
「ローズおばあちゃん。一緒にアスラ魔王国に来てほしいんだ。また、一緒に暮らしたいんだ。」
「だが、わしにはここに畑があるからのう。」
ここでローズおばあちゃんもリリーも考え込んでしまった。
「わかったよ。毎日ここに来れるようにすればいいんだよね。」
「そんなことができるのか?」
「オレを誰だと思ってるのさ? 魔王だよ!」
オレは精神を集中して魔法を発動する。
『クリエイト』
すると、目の前に門が現れた。転移門だ。3人で門をくぐると、王都アテナの魔王城の一室に出た。
「この部屋がローズおばあちゃんの部屋さ。これなら、一瞬でここに帰ってこれるだろ?」
「ありがとうな。シルバー! 『口調は変わったが』、やはりお前は優しい子じゃよ。」
するとリリーが余計なことを言う。
「今の口調の方が男らしくていいじゃない。」
「わしにとってはどっちも可愛い孫じゃよ。」
こうして、ローズおばあちゃんも、オレとリリーとともに魔王城で暮らすことになった。
「幹部全員を会議室に集めてくれるか?」
オレは、近くにいたブラッドに声をかけた。
「畏まりました。」
準備ができたようだったので、オレが会議室に行くとすでに全員が席に座っていたが、全員が立ち上がって挨拶をしてきた。オレは全員に座るように指示した。
「早速だが、地下牢に拘束しているエックスの尋問はどうなっている? ブラッド!」
「はい。さすがは悪魔族です。なかなかしぶとい男でしたが、口を割りました。ですが、サタンの具体的な居場所については知らないようです。ただ、人間の国にいるということだけは判明しています。」
すると、グーテが言った。
「魔王様。ブラッドが尋問する間、俺が魔眼で見ていたから間違いないぜ!」
「そうか。2人ともご苦労。」
そして、オレは肝心なことを話し始めた。
「みんな。よく聞いてくれ。オレはこの世界を平和にするようにと、ナルーシャ様に依頼されたんだ。」
すると、全員が驚いた。
「ナルーシャ様って女神様の?」
「ああ、そうだ。オレがこの時代に転生したのもナルーシャ様の意思だ。」
すると、セリーヌが言った。
「なるほど、納得できる話だ。私が、この時代に転生したのも、恐らくナルーシャ様の御意思だろうからな。」
「そこでだ。オレは、世界中を旅しようと思う。みんなには、このアスラ魔王国を守ってもらいたい。人族や他の種族に戦争を仕掛ける者がいないように見張って欲しいんだ。」
オレの話を聞いて、リリーが悲しそうに言った。
「すると、私はお留守番なの?」
「悪いな。リリー!」
「シルバーと離れるなんて、私には我慢できないわ!」
「リリー! ずっとというわけではないんだ。定期的に帰って来るから。その時に、全員の報告を聞くようにするさ。」
悲しんでいるリリーをセリーヌが慰める。
「リリー! 大丈夫だ。シルバーは俺と同じように転移魔法が使えるからな。いつでも戻って来られるさ。」
「わかったわ。本当に定期的に帰って来るんだよね?」
「ああ、1か月に1度は戻るつもりだ。」
「なら、私が学校を作ったら、一緒に旅をしてもいいんだよね?」
「そうだな。考えておく。」
「私、頑張るわ! 一日も早く一緒にいられるように頑張る!」
オレとリリーの関係を知っているトロルドとモモカは、すすり泣きをしていた。
「オレの留守中はブラッドがオレの代理だ。全員、ブラッドに相談しながらすすめて欲しい。」
「ハッ」
会議が終了後、オレは一人でバルコニーにいた。そこに、ブラッドがやってきた。
「魔王様。少しよろしいですか?」
「いいよ。ブラッド。どうした?」
「はい。リリー殿の件ですが。」
「リリー?」
「はい。もしかして、リリー殿は・・・・・じゃないんでしょうか?」
「多分な。ナルーシャ様に感謝しないとな。」
「リリー殿には伝えないのですか?」
「今はまだその時期じゃないだろ。世界が平和になったら、伝えるさ。オレにもお前にも時間が無限にあるんだから。」
「そうですな。」
「ブラッド。お前には悪いことをしたと思ってるよ。お前にも寿命がないことを知っていながら、オレはお前を置き去りにしたんだからな。」
「魔王様。そのようなことをお考えだったんですか。ですが、私は幸せです。こうして再び、魔王様にお会いできたのですから。長生きもまんざらではありませんよ。」
「お前と同じように寿命がないサタンを、オレはあの時完全に消滅させたはずだ。なのに、あいつはどうやって復活したんだろうな。」
「彼は悪魔族です。悪魔族にとって最高の御馳走は、人々の悲しみや苦しみです。人々の心が歪んだり醜かったりすれば、サタンはいつでも復活しますよ。」
「そうだな。だが、サタンが生まれない世界を作れないだろうかなぁ?」
「それは無理でしょう。人々の醜い心がサタンを復活させるのですから。人々が醜い心を持たなければいいのですが。」
「難しい問題だな。」
「はい。」
そして、2か月後、いよいよ本格的にアスラ魔王国が始動した。全員の仕事が順調に進んでいることを確認して、オレはアスラ魔王国を旅立った。




