魔族の国アスラの王都散策
鬼人族の村で歓迎を受けた翌日、僕とリリーとセリーヌ、トロルド、モモカの4人は王都に向かって歩き始めた。その後、いくつか村を通過したが、トロルドやモモカが僕に従っているのを見て、全員が僕に恭順の意を示した。そして、僕達は王都に到着した。王都と言っても、魔王がいるわけではない。よって、すでに魔王城もない。この王都の政治は、ほんの一握りの実力者が行っている。アラクネ族と竜人族、ダークエルフ族、バンパイア族だ。
「シルバー! なんか、人族の街に比べて静かだね。」
「そうだね。なんかお店も少ないよ。」
「当たり前だ。魔族のほとんどは、自給自足で暮らしているからな。それに、魔法を使うから服も長持ちするんだ。」
「それでトロルドさんの村にも、モモカさんの村にもお店が少なかったんだね。」
「そうですね。魔獣も大きいので食べ応えがあるんですよ。一度、討伐すれば何日も暮らせますよ。」
「我がトロールの村では、大食いが多いから毎日狩りに行きますがな。アッハッハッ」
さすがはトロール族だ。体が大きい分食べる量も半端ないのだろう。
リリーが不安そうに聞いた。
「これからどうするの? セリーヌ!」
「とりあえず、大会本部に参加の申し込みに行くさ。」
「その後は?」
「数少ない食堂で飯でも食って、宿屋を探すさ。」
僕達は大会本部に行った。大勢の魔族達が列を作っている。モモカとトロルドを見て、全員が驚いていた。
「おい! あれは鬼人族のモモカじゃねぇか?」
「間違いない! 鬼人族のモモカだ! しかも後ろにはトロール族のトロルドもいるぞ!」
「あいつらも今回は参加するのか?」
「魔王が不在になってから久しいからな。みんな魔王の座を狙ってるんだろ!」
すると、前方からバンパイア族の連中が歩いてきた。みんな、端によって道を開ける。
「これはこれはモモカ殿にトロルド殿ではありませんか? 貴殿らも今回の大会に参加するのですかな?」
話しかけてきたのは、いかにも紳士という服装をした男性だった。
「バンパイア族のブラッドか。俺達は出ないさ。」
「私達は主様の御伴よ。」
「主様? お前達はいつから族長をやめたのだ?」
「族長はやめていないさ。」
すると、鋭い眼光でブラッドが僕を睨んだ。そして、ブラッドの表情は驚きに変わった。
「ま、ま、まさか?! アンドロメダ様?」
ブラッドはバンパイア族の始祖だ。モモカやトロルドと違って、太古の時代から生きている。昔、僕がアンドロメダだった頃の仲間だ。
「ブラッド! 何を寝ぼけているの? こちらはわが主のシルバー様よ。」
「シルバー? フッ! そうか! 気のせいだな! では、武闘大会で再び会おうか。」
ブラッドは部下を引き連れて、そのまま行ってしまった。僕達の周りにいた魔族達が今の話を聞いていた。全員が驚きの様子で僕を見ている。僕はわざとリリーに甘えた。
「リリー! 手を繋いでよ! 早く済ませて食事に行こうよ。」
「どうしたのよ! 急に!」
「いいから~! セリーヌも早く登録してきて!」
「わかったから、そこで待ってろ! すぐに行ってくるから!」
しばらくしてセリーヌが帰ってきた。僕達はその場を後にして、街の食堂に入った。それぞれが好きなものを注文する。そして、目の前には見慣れない料理が大量に運ばれてきた。リリーとトロルドが口元の涎を拭いている。僕は話が漏れないように周りに結界を張った。
「みんな聞いて! 僕達、監視されてるみたいなんだ。」
すると、リリーが驚いた。
「いつからよ?」
「バンパイア族のブラッドと話をした後からだと思う。多分、他の参加者か、もしくは・・・」
「サタンね? サタンの手下が変装して紛れているのね?」
「そうかも。」
すると、セリーヌが言ってきた。
「大会は2日後だ。これからどうするんだ?」
「悟られないように、みんなで街を見物して過ごそうよ。」
もしサタンの手下がいるなら、是非捕まえたい。うまくすればサタンの居場所を聞き出せるかもしれない。
「シルバー! このお肉も美味しいよ!」
「リリー! そんなに口に詰め込むとのどに詰まらせるよ!」
リリーはいつものように口一杯に料理を入れて、リスのような顔になっている。すごく可愛い。僕はそんな無邪気なリリーが大好きだ。記憶を取り戻した今も、やはりリリーが近くにいると落ち着く。
「リリーちゃん。王都には魔族の服屋があるのよ。」
「モモカさん! 本当? 行きた~い!」
するとセリーヌから厳しい言葉が出た。
「でも、リリー! お前、魔族のお金を持っていないだろ!」
「そうだった~。」
しょぼくれたリリーにトロルドが言った。
「お金なら気にしなくてよいですぞ! このトロルドが支払いましょう。」
「トロルドさん! だ~い好き!」
それから、僕達はモモカの案内で服屋に行った。どうせなので、僕も服を買う。リリーはTシャツとショートパンツだ。超かわいい! 僕は何故かマントのようなものを買わされた。
「お二人ともお似合いですよ!」
「さすがはシルバー様。まさしく魔王の威厳が漂っています。」
なんか、トロルドはどうしても僕を魔王にしたいみたいだ。僕もナルーシャ様に頼まれたことを成し遂げるためには、魔王になった方がいいかもと思い始めている。店から出て、大通りを歩いていると、トロルドよりは少し小さいが、恰幅のいい筋肉の塊のような男性とすれ違った。そして、後ろからその男性に声をかけられた。
「待たれよ。もしかしたら、そなたの名はシルバー殿ではないか。」
「そうですけど。どちら様ですか?」
「わしは竜人族のロンという。バンパイア族のブラッドから聞いてな。今回の武闘大会には、トロール族の族長と鬼人族の族長を従えた人物が出場するとな。」
「別に従えているわけじゃないよ。僕達は友人だもん。」
「そうか。ブラッドの言う通りだな。隠しているようだが、そなたからは凄まじい力を感じるぞ。大会でそなたと戦うのを楽しみにしているぞ!」
ロンは一方的に話して、そのまま行ってしまった。僕は誰にも気づかれないように魔力を抑えている。だが、ブラッドやロンのようなレベルの高い者達にはばれているようだ。
「セリーヌ! 魔族って戦うのが好きな連中ばっかりなの?」
すると、トロルドとモモカが恥ずかしそうにしていた。
「以前も話しただろう。魔族は力がすべてだ。強者が弱者を従える。そういう種族なのだ。」
そこで、僕はふざけたような言い方で本音を言った。
「でもさ~! 僕が魔王になれたら、そういう考えはお終いだね。だって、全員が安心して暮らせた方が楽しいもん。強い者は、僕みたいに弱い者をいじめるんじゃなくて、守ってあげなきゃ。そんな思いやりにあふれた国にしたいな。」
すると、リリーが言った。
「なら、私は魔王夫人になるのね。ワクワクするわ!」
「どうしてそうなるの? リリーは僕の姉でしょ?」
「だって、血が繋がってないじゃない。それともシルバーは嫌なの?」
「べ、別にそういうわけじゃないけど。」
セリーヌもトロルドもモモカもニコニコしている。僕が自分の口から『魔王になる』と行ったことが嬉しいようだ。




