トロール族の族長トロルド
サウルス島を出発して6時間ほど飛翔したころ、目の前に大陸が見えてきた。
「そろそろだ。俺について来い。」
僕とリリーはセリーヌの後ろについて行った。下を見ると、海には大きな漁船が何艘もいる。
「さあ、着いたぞ。ここからは、歩いていくぞ。」
「どこに行くのよ? 」
「王都に行くのさ。そろそろ、5年に1度の武闘大会の時期だからな。」
「お父さんが殺された大会?」
「ああ、そうだ。あの後、しばらく大会が開かれていなかったが、今回は久しぶりに実施されるらしいんだ。」
僕は気になることを問いかけた。
「もしかしたら、サタンも来るかな?」
「そうだな。あいつの目的が魔王になることなら、その可能性はあるな。」
すると、リリーが堰を切ったように言った。
「セリーヌ! 私もその大会に出るわ!」
「僕も出るよ!」
「多分、お前達ならそう言うと思ったよ。」
「反対しないの?」
「反対したら諦めるのか?」
「・・・・」
「出るからには優勝しろよ!」
「うん。でも、決勝でシルバーに当たったら、私、棄権すると思う。」
リリーが珍しく不安そうな顔で言った。
「どうしてさ。リリーらしくないじゃないか。」
「だって、シルバーとは戦いたくないもん。」
「リリーは、ほんとにシルバーが大切なんだな。」
すると、リリーが真っ赤な顔で僕を見る。僕とリリーは姉弟のように育った。そのため、今の僕には恋という感情は薄い。むしろ、自分の一部のような感覚だ。
「じゃあ、王都に行こうか。」
「うん。」
ここから王都に行くには、いくつかの集落を越えていく必要がある。魔族では力こそ正義という考えがいまだに強い。そのため、出会う魔族とは戦いになることが予想される。ここから王都に行く間も修行の一環なのだ。
「最初はトロールの村だ。奴らは再生能力を持っているからな。気を付けろよ。」
「なら、どうしたらいいの? 殺すのはダメなんでしょ?」
「ああ、そうだ。トロールを服従させるには、絶対的な力の違いを見せつける必要がある。相手が戦う気力をなくすほどにな。」
「なかなか、難しいわね。それって。」
「武闘大会で優勝するには、その程度何とかしなければ無理だぞ!」
「リリー! 頑張ろうよ。」
「うん。」
3人はしばらく森の中を歩いた。すると、身体の大きな魔族が僕達を取り囲むようにして、声をかけてきた。
「貴様らは何者だ?」
「俺達は王都に向かう旅のものだ!」
「そうか。武闘大会だな。よし、ならば俺達についてきてもらおう。」
僕達は素直について行くことにした。トロールの村に着くと、さすがにどの家も大きい。当たり前だが、トロールの平均身長が3mあるのだ。当然、家もその他のすべてが人族のものよりも大きくなる。
「ここで待っていろ!」
リーダーらしき男に言われて、僕達は村の中央広場のようなところで待たされた。しばらくして、リーダーらしき男が僕達を呼びに来た。
「我が族長のトロルド様が待っている。ついて来い。」
僕達が案内された場所は訓練場のような場所だ。ぞろぞろと見物人達も集まってきた。
「よくきただ! 戦士よ! 俺様は族長のトロルドだ。俺様の相手をしてくれるのはどいつだ!」
セリーヌの言った通りだ。いきなり戦闘することになってしまった。ここでリリーに怪我をさせるわけにはいかない。
「僕が相手をするよ。」
すると、リリーが横から前に出て言った。
「私が相手をするわ。」
「シルバー! あなたには無理よ。セリーヌと一緒に後ろで見ていて。」
すると、トロルドが大声で言った。
「俺様は強い。2人一緒でも構わないぞ!」
「いいえ。私が戦うわ。」
「では、魔族の掟にのっとって、相手が戦闘不能になるか降参するまで戦うことにしよう。」
「わかったわ。」
トロルドは手に大きな金棒を持っている。リリーは腰の剣を抜いた。すると、トロルドがいきなり攻撃してきた。
「行くぞ!」
体が大きい癖に動きが速い。恐らく人間の目では追いかけられないだろう。だが、リリーは違う。トロルドがリリーめがけて金棒を振り下ろした。だが、リリーは素早く避けて、剣でトロルドの手を切り落とした。周りからの反応がすごい。
「オオ——————!!!」
「やるではないか。少しは楽しめそうだな。」
セリーヌが言った通り、すぐにトロルドの手は再生する。そして再び金棒を手に持ち、リリーに向かって突っ込んでくる。と同時に魔法を発動したようだ。地面が大きく揺れた。リリーは避けようと思ったが、足元が揺らいで避けられない。
「ガキーン」
トロルドが、ふらついているリリーに金棒を振り下ろした。リリーはすかさず剣で金棒を受け止めたが、そのまま勢いよく地面に叩きつけられた。
「良く受け止めたな。俺様の攻撃をここまで防いだのは、お前が初めてだ。」
「痛いわねぇ!」
リリーの言葉にトロルドはにやにや笑っている。リリーの身体から闘気が溢れだし、リリーの身体の周りに漆黒のオーラが出始めた。
「どうやら、本気で戦いたいようだな。」
トロルドの身体からも凄まじい闘気が溢れ出る。
「行くぞ!」
再び地面が揺れるが、今度はリリーが翼を広げて飛翔した。だが、次の瞬間、地面から勢いよく土の槍が何本も襲い掛かる。リリーは必死に避けるが、身体のところどころから血が流れた。
『シャドウアロー』
今度はリリーが魔法を発動する。上空に無数の黒い矢が現れ、トロルド目がけて放たれた。だが、トロルドは土の壁を作ってそれを防ぐ。
「ハーハ―ハー」
「口ほどにもない。この程度で、肩で息をしているではないか!」
トロルドは見物人を見渡しながら言った。
「そうだそうだ!」
「死にたくなければ、負けを認めろー!」
見物人達からヤジが飛んだ。僕の目の前には身体から血を流したリリーがいる。何故か僕の身体から力が溢れだそうとしていた。




