魔族の国アスラに向けて出発!
結局、僕とリリーはセリーヌと一緒にアスラに行くことになった。出発は5日後だ。それまでは、家でローズおばあちゃんとリリーと一緒に生活することになった。セリーヌは5日後に迎えに来ると言って、家を出て行ってしまった。
「リリー! 今日は何するの?」
「修行よ! 山に行って魔獣を狩るわよ!」
「うん。付き合うよ。」
僕達は山に行った。今までは魔獣と出会うのに恐怖感があったが、今は逆だ。魔獣を探している。2人は気配感知を発動しながら山の中を歩いている。すると、魔獣の集団が感知に引っ掛かった。
「この反応は、多分シルバーウルフね。」
「そうだね。それで、どうするの?」
「シルバーも訓練したいでしょ?」
「うん。でも、シルバーウルフが10匹ぐらいいるよ。」
「シルバーは嫌なのね? いいわ。なら、私だけでやる!」
リリーは一人で行こうとしている。
「ちょっと待ってよ。僕も行くよ。」
リッチキングとの戦いの後、僕はなるべくリリーの近くに居るようにしている。自分の記憶にはないが、いざという時はリリーを守れるはずだと思った。反応のあった場所まで行くとやはりシルバーウルフだった。何やら食事中のようだ。魔獣のホーンボアを食べていた。だが、近くの高台にいた個体が僕達に気が付いた。
「ワオ————ン」
ホーンボアを食べていたシルバーウルフ達が一斉にこっちを向いた。
「ウウウウウッ」
僕達を威嚇してくる。リリーが剣を抜いてシルバーウルフの群れに突っ込んだ。シルバーウルフ達も、大きな口を開けて鋭い牙をむき出しにしながら、リリーに襲い掛かった。
「1匹も逃がさないんだから!」
シルバーウルフの動きはかなり速い。だが、リリーはそれよりも速い。見る見るうちにシルバーウルフの数が減っていく。そして、最後の1匹も討伐した。
「やっぱり、リリーは強いね。」
「そう。でも、あの程度余裕だわ。」
「魔法を使っていなかったよね。」
「だって、使う必要がないもん。」
「やっぱり、リリーは強いや。」
不思議なことに、リリーの動きは相当に速かったはずだ。だが、僕にはリリーの動きがはっきりと見えた。
「リリーのあの動きは、あれが限界じゃないよね?」
「そうね。余裕はあったわね。」
「なら、やっぱり大分実力が上がったんじゃないかな~。」
「ありがと。」
討伐したシルバーウルフはローズおばあちゃんから借りている魔法袋に仕舞った。そして、いつものように僕達は手をつないで家まで帰った。すると、ローズおばあちゃんがご飯の用意をして待っていた。
「山はどうだった?」
「シルバーウルフを討伐したわよ。」
「なら、明日にでも街に行って毛皮を売ってきな。」
「うん。」
翌日、街に行くとやはり街の中は賑やかだった。するとまた、リリーの悪い癖が出た。
「シルバー! ギルドまで競争よ!」
いきなりリリーが走り始める。もうすぐギルドというところで、リリーがまた大男にぶつかった。
「痛ぇな~! またお前達か! 今度は許さねぇぞ!」
僕は前に出て謝った。
「ごめんなさい。ギルドまで急いでいたんです。」
「すみませんで済むなら警備兵はいらねぇんだよ!」
僕は大男にわざと殴られ、後ろに大きく飛ばされた。そして、今度は大男がリリーに殴りかかった。だが、リリーはさっと避けて大男の足に足をかけた。すると、大男は勢いよく転んだ。
「ドサッ」
「あんた、何するのさ。こっちはちゃんと謝ったでしょ!」
周りにできた見物人達がクスクスと笑っている。大男の怒りは頂点に達したようだ。
「もう、勘弁ならねぇ! お前達も冒険者ならその剣を抜け!」
大男は背中の大きな斧をリリーに向けて振り下ろした。リリーはそれを軽々とよける。すると、大男はさらに大斧を振り回した。リリーはそれを指で受け止めた。そして、炎の魔法を発動すると、大男の斧がドロドロと溶け始めた。
「リリー! だめだよ! こんなところで!」
「ごめん!」
大男が驚いて大きな口を開けて固まっている。その隙に、僕とリリーはその場を後にした。
「シルバー! 大丈夫? 口から血が出てるよ。」
「大丈夫だよ。この程度。それより、リリー! 気を付けなきゃだめだよ。人前では目立たないようにって、ローズおばあちゃんにも言われてるでしょ!」
「ごめん。つい・・・・」
「早くギルドに行って、用事を済ませて家に帰ろ!」
僕達がギルドに行くと、やはり中は酒臭い。
「あらー! 久しぶりね。リリーちゃんにシルバー君!」
「お久しぶりです。アカネさん。」
やはりアカネさんは美人だ。それに大きな胸も魅力的だ。
「痛ぇ!」
何故かリリーにお尻をつねられた。
「今日は何かな?」
「ローズおばあちゃんに言われて、討伐した魔獣を持ってきました。」
「じゃあ、いつもの作業場に行ってちょうだい。」
「は~い。」
僕とリリーは魔法袋を持ってギルドの裏に向かった。
「リリー! 痛いじゃないか! 急に何するんだよ!」
「シルバーが鼻の下を伸ばしていたのが悪いのよ!」
「別に伸ばしてなんかないよ!」
アカネさんがクスクス笑っている。僕は魔法袋からシルバーウルフの死体をすべて取り出して、お金をもらうために受付に戻った。
「はい。じゃあ、これが今回の買取金額ね。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
もらったお金を確認すると、大銀貨2枚あった。渡したシルバーウルフが10匹だから1匹辺り銀貨2枚の計算だ。
「シルバーウルフって意外と安いんだね。1匹銀貨2枚だよ。」
「えっ?!」
リリーが驚いていたので計算方法を説明した。
「シルバーって算術もすごいよね! やっぱりシルバーは頭いいよ。これなら、私達の子どもも期待できるわ。」
「なんのこと?」
「もう知らない!!!」
するとリリーがいきなり不機嫌になった。帰り道、リリーは一度も口をきいてくれなかった。そして、家についてローズおばあちゃんにギルドでもらったお金を渡した。
「ご苦労さんじゃったな。明日はいよいよ出発じゃろ。今日はご馳走にするからな。」
「ヤッター!」
ローズおばあちゃんの『ごちそう』発言を聞いて、リリーが普通に戻った。よかったよかった。
翌朝、セリーヌが迎えに来ていた。どうやら、ここからこの大陸の西端まで転移して、そこから飛翔していくらしい。一気に転移で行きたいが、飛翔も訓練の一環のようだ。
「なら、おばあちゃん。行ってくるね。」
「ちょっと待ちな。2人ともこれを持っていきな。」
ローズおばあちゃんの手には2本の剣があった。1本は細剣、もう1本は普通の剣だ。ただし、どちらもミスリル製だ。
「ローズおばあちゃん。これってミスリルでしょ? 高かったんじゃないの?」
「可愛い孫達のためさ。大したことはしてやれんからな。いいかい! 2人とも! お前達は確かに強くなったかもしれん。じゃが、上には上がいることを忘れてはならんぞ!」
「うん。」
「はい。」
「じゃあ、気を付けて行っておいで!」
「行ってきま~す!」
「セリーヌ! 2人を頼んだぞ!」
「母さん。俺に任せておけって!」
セリーヌの魔法でエドバルド大陸の最西端まで転移した。目の前には広大な海が広がっている。この海の向こうにはマジカル大陸の魔族の国アスラがある。僕はなんか胸がときめいた。




