3人の勇者達
武闘大会は準決勝の2試合が行われ、リリーと勇者のユウマが勝ち残った。明日の決勝の前に勇者達3人とどうしても話をしておきたかったので、僕達は闘技場の前で待っていた。そして、勇者達を連れてローズおばあちゃんの家まで転移した。
「落ち着いて聞いてね。」
「わかってるわ。」
「実はガンマ以外は魔族なんだよ。」
「やはりな。リリーとかいう娘は人族にしては強すぎるからな! 怪しいとは思っていたさ。」
「因みに僕はアスラ魔王国の王シルバーだよ。」
「それもうすうすわかっていたさ。名前が同じだからな。」
すると、ミサキが聞いてきた。
「魔王や魔族がどうして帝国にいたの?」
「君達は知らないかもしれないけど、帝国は小さな国を武力で滅ぼして領土を広げているんだよ。滅ぼされた国では、悲惨な状態なんだ。女性は帝国兵におもちゃにされて、酷い有様だよ。」
「俺達にその話を信じろというのか?」
「そうだね。君達には信じてもらうしかないけどね。僕はこの世界の最高神ナルーシャ様からこの世界の平和を託されたんだ。だから、平和を乱すものは処分しなければいけないんだ。」
「ならば、皇帝アルカイックも処分するつもりなのか?」
「そうさ。恐らく彼は悪魔族だよ。」
「悪魔族?」
「君達はイングス聖教国で召喚されたんだよね? そこで何を聞いたか知らないけど、魔族はそもそも悪ではないんだよ。本当の悪は、魔族の中でも邪悪な存在である悪魔族だけなんだ。その悪魔族の頂点にいるのがサタンなんだよ。恐らく、アルカイックはサタンの手下だろうね。」
「俺達が大司教から聞いた話と全然違うけどな。俺達はアスラ魔王国に魔王シルバーが誕生したから呼ばれたと聞いた。そして、魔王シルバーを倒せばこの世界が平和になる。そしたら、俺達も元の世界に戻れるって聞いたぞ!」
ここまで黙っていたリリーが、怒りながら猛烈な勢いで言った。
「あなた達、あの女の子達を見たでしょ? シルバーが邪悪な存在なら、あんなに懐かないわよ!」
ここで勇者達が考え込んでしまった。リリーはミーア達を呼びに行った。
「ミーア、キャロット、ヨーコ。この人達にあなた達が知っている魔族やシルバーのことを教えてあげて!」
「うん。わかったにゃ。」
ここで3人娘は自分達が人族に誘拐されたこと。それをシルバーとセリーヌに助けられたこと。アスラ魔王国の様子。アマゾル大陸での出来事。すべてを話した。3人は信じられないという様子で聞いていた。
「どう? これでもシルバーが『悪』の存在だと思う?」
「どうやら俺達は誤解していたようだ。」
「そうね。やっぱり自分の目で確かめた方が間違いないよね。」
「すまない。シルバーさん。リリーさん。セリーヌさん。俺も3人が魔族と聞いて、疑っていた。」
勇者達が納得したようだったので、ここで本題に入ることにした。
「君達が帝国の武闘大会に招待されたのは、恐らく皇帝アルカイックが君達を仲間に引き入れようと思ったからさ。」
「でも、俺達は初めから彼らの仲間になるつもりはなかったけどな。」
「君達にそのつもりがなくても、相手は悪魔族だ。君達の意識を支配して従わせることだってできるさ。」
「そんなことができるの?」
ここでセリーヌが説明を始めた。
「悪魔族は本来肉体を持たない。そのため、精神攻撃が得意なんだ。あいつらにとってお前達の身体は魅力的だろうさ。勇者としていろんな能力を持っているんだからな。体を乗っ取られないように注意しろよ!」
「そんな~!」
ミサキが恐怖を感じたようだ。
「俺達はどうしたらいいんだ?」
「明日の試合は普通にリリーと戦えばいいよ。恐らく、その後皇帝から呼び出しがあると思うんだ。当然、リリーもね。その時が勝負さ。」
「どういうことだ?」
勇者達は僕達の計画を知らない。なので、これからの計画を説明することにした。
「皇帝と対面したらその場で皇帝を倒すよ。そうすると、帝国の兵士達が混乱状態になるから、仲間のケント伯爵が帝国軍達を鎮圧する手はずになっているだよ。その後で、帝国が滅ぼしたアケメネス王国の王子ヨハンが国王になって、この国を治めるんだよ。」
「そんな計画があるなんて知らなかった。」
「私達は何をすればいいの?」
「黙って見ていればいいよ。」
「シルバーさん。帝国の悪行を知った以上、俺達も黙っていられないぜ!」
ここで、セリーヌが言った。
「俺はお前達のことをイングス聖教国からずっと見ていた。今日の戦いもそうだが、お前達には足りない物があるんだ。何かわかるか?」
3人は黙って考えた。何も思いつかないようだ。
「ユウマとか言ったな。お前は強い。だが、強いお前がなぜガンマと引き分けたかわかるか? それは覚悟だ! ガンマは帝国に滅ぼされたガリア王国の騎士だ。こいつは自分の家族や仲間の仇を取るために必死なんだよ! それに、お前達は人を殺したことがあるのか?」
3人は黙り込んでしまった。恐らく、戦争のない平和な世界から召喚されたのだろう。
「お前達がいた世界は知らないが、この世界では正義のために人を殺すことが必要なんだ。お前達にその覚悟はあるのか?」
しばらく考え込んでいたが、ユウマが小さな声で言った。
「俺には人は殺せないかもしれない。相手が魔王だと聞いていたから頑張って来たけど。」
ここで僕が正直な気持ちを伝えた。
「僕も人を殺すのは嫌なんだよ。だから、誰も殺したり殺されたりしない世界を作りたいんだ。そのためには、僕は『魔王』にだってなんだってなるよ。」
ここでセリーヌが話し始めた。
「大昔の時代に、この世界では人族が他の種族を奴隷にしたり、虐殺したりしていたんだ。そんな世界を変えようとした男がいた。魔王アンドロメダさ。彼は仲間の魔族とともに人族に戦争を仕掛けたんだ。その戦争で魔王アンドロメダは人族を大勢殺したのさ。結果、世界は平和になったんだが、魔王アンドロメダは人々から恐怖の象徴にされ、この世界に居場所を失ったんだ。人々は彼を英雄どころか悪の象徴にしたてあげたんだ。それが今のイングス聖教国の教えになっているのさ。」
「酷い! ひどすぎるわ!」
僕は3人に言った。
「人を殺めずに平和にできるならそれが一番いいけど、僕にはその力がないんだよ。情けないよね。」
勇者3人が真剣な顔で言ってきた。
「シルバーさん。俺達にどこまで協力できるか分からないけど、でも協力します。いや、協力させてください。」
「ありがとう。なら、君達には魔王を討伐してもらうよ。」
「シルバーさんをですか?」
「違うわよ。もうわかったでしょ? シルバーは『善』の魔王なのよ。あなた達は『悪』の魔王を討伐するのよ。」
「わかりました! 悪魔族のサタンのことですね。討伐できるように頑張ります。」
するとセリーヌが一言言った。
「無理だな。お前達は弱すぎる。サタンに会ったら5秒もしないうちに殺されるな!」
「サタンはそんなに強いんですか?」
「俺やシルバーから見れば弱いさ。恐らく、リリーといい勝負じゃないか?」
「なら、明日俺がリリーさんに勝てれば可能性があるってことですよね?」
「勝てればね!」
勇者3人の顔が上を向いた。何かを決意した顔だ。




