イグドラ帝国の武闘大会(1)
そして、いよいよ武闘大会の日がやって来た。帝国中からすべての貴族が闘技場に集まっている。そのため、警備も厳重だ。帝都内には3万を超える兵士達が巡回警備にあたっている。闘技会場付近は大盛り上がりだ。
「ワァ———」
「見て! あの人達、髪が黒いわ! きっと勇者よ!」
「あの女の子、すっごく可愛いじゃねぇか!」
なんか、観客達の反応が凄い。僕が闘技場内を見渡すと、最上階の貴賓席に恰幅のいいマントを羽織った男性がいた。恐らくアルカイック皇帝だろう。試合方法はいきなりトーナメント形式で始まる。大きく分けて2つのパートがあった。Aパートにはリリーと勇者のタイゾウが入った。Bパートには勇者のユウマとミサキ、それにガンマが入った。総勢32名の戦士が試合会場に立っている。
「これより開会式を行います。アルカイック皇帝からお言葉をいただきます。」
司会の言葉が終わると、アルカイック皇帝が貴賓席から音声魔法で会場内に向かって話し始めた。
「我が帝国は世界最強の国だ! 強さこそ正義なのだ! 今回の大会で成績上位者は今まで通り、報酬は思いのままだ。地位、名誉、金、望むものすべてを与えよう。是非、諸君の健闘を祈る!」
軍国主義の皇帝らしい発言だ。そして、いよいよ試合が開始される。1日目は1回戦、2日目は2回戦、3日目は3回戦、4日目は4回戦。そして、最後の5日目に決勝が行われる。リリーは2試合目、勇者のタイゾウは13試合目、勇者のユウマは6試合目、ガンマが11試合目、ミサキが15試合目に登場する。
「さて、試合に行ってくるね。」
「うん。気を付けてね。」
「大丈夫よ。」
リリーが2試合目に闘技場に登場した。対戦相手はあの因縁をつけてきた冒険者のリーダーだった。
「ほう! お前が相手か。ならば1回戦は楽勝だな。怪我をしないように優しくやってやるから、すぐに降参しろよ。」
「遠慮しなくてもいいわよ。本気できなさい!」
「クソガキが、生意気な奴だ!」
「始め!」
この武闘大会では自分の武器を使うことが許されている。そのため、相手に大けがを負わせることも殺すことも許可されている。つまり、何をやっても反則はないのだ。相手が死亡した場合、戦闘が続行不可能になった場合、降参した場合に試合終了となる。
「攻撃してきなさい。」
冒険者のリーダーは真っ赤な顔をしてリリーに襲い掛かる。だが、次の瞬間、口から泡を吹いて地面に倒れた。
「つまんない。もうおしまいなの?」
「勝者リリー!」
リリーは剣も抜かずに拳1発で沈めてしまった。場内は騒然としている。可愛い顔をした少女が、恐ろしい身なりの男をあっという間に倒したのだから、驚くのも無理はない。
「つまんなかった。シルバー! やっぱり、出るのやめた方がよかったかな~。」
すると隣にいたガンマが必死で言ってきた。
「リリー殿。今からでも辞退できますよ! こいつら相手じゃリリー殿を楽しませられる奴なんていませんから。是非、辞退してください。」
「ねえ。ガンマ~! それって、リリーがいたら自分が優勝できないからだろ!」
「わかっちゃいましたか? 師匠。」
「そんな余裕をかましていると、足元をすくわれるよ。ガンマのパートには勇者が2名いるんだからね。」
「はい。気を引き締めます!」
その後、試合を観戦すると、タイゾウは体術、ユウマは剣、ミサキは魔法が得意なようだった。恐らく実力を出していないだろうが、それほど強さは感じなかった。むしろ、サタンに勝てるかどうか心配なレベルだ。当然ガンマも楽勝だったけどね。
「帰ろ! シルバー!」
僕の右側にはリリー、左側にはセリーヌがべったりと纏わりついている。その後ろに一人で寂しそうにガンマがいた。
2日目はリリー、ガンマ、勇者達3人組の全員が何の問題もなく勝ち進んだ。これでベスト8が出そろったことになる。その日も再び魔王城に戻った僕達は、食堂でご飯を食べながら話をしていた。
「明日は3回戦だな。リリーもガンマも順調じゃないか。」
「師匠。俺の明日の対戦相手は勇者の少女なんですよ。なんか、今からドキドキしてます。」
「確かミサキとか言ってたわね。あの子は魔法中心だから厄介よ。」
「そうなんですよ。俺はどっちかというと魔法より剣や体術で勝負する方ですから。」
なんかガンマが自信なさげだ。恐らく、自分が強くなっているという自覚がまだないのだろう。
「ガンマ。お前にはこの指輪をやろう。この指輪はお前の力を10倍以上上げてくれるものだ。この指輪をはめて戦ってみろ。」
「それてインチキじゃないの?」
「そんなことはないだろう。みんなだって剣に魔法を付与して戦ったりしているじゃないか。問題ないさ。」
「なら、私にも頂戴!」
「ダメだ。リリーはそのまま戦え!」
「シルバーのケチ!」
そして、3日目がやって来た。リリー、タイゾウ、ユウマは順調に勝ち進んだ。そして、いよいよ最後のベスト4の座をガンマとミサキが競うことになる。
「なんか、ガンマが緊張してるわね。」
「大丈夫だよ!」
「そうね。彼には指輪があるもんね。」
いよいよ試合が始まりそうだ。
「始め!」
いきなりガンマが剣で斬りかかった。だが、ミサキは瞬時に目の前に結界を張った。
「ガキン」
ガンマは一旦後ろに下がって距離を取った。今度はミサキの魔法攻撃だ。ミサキが手を上にあげると、光の矢が複数現れた。その矢が一斉にガンマに降り注ぐ。ガンマは剣を頭の上で素早く回転させて、それをすべて防いだ。
「あなた、やるわね。」
「おまえもな。」
その後もガンマが攻撃を仕掛けるが、ミサキの結界に防がれてしまう。逆に、ミサキの魔法で少しずつ体に傷を負っていった。
「あなたの身体はそろそろ限界のように見えるんだけど。降参した方がいいんじゃない。」
「ならば、これからは本気モードで行かせてもらうぜ!」
ガンマの身体から闘気が溢れ出た。さすがに竜人族やゴーレムと修行していたのは伊達ではない。
「まだ、そんな力が残っていたなんて。あなたのことを見くびっていたみたいね。」
ガンマの剣から光が溢れ出した。魔法を付与したわけではない。ガンマの闘気が剣にまで伝わっているのだ。ガンマが剣を上段から振り下ろした。ミサキは咄嗟に防御結界を張ったが、『バリッ』と音を立てて結界がはじけ飛んだ。
「バッコン」
ミサキの肩に剣が当たった。ミサキは地面に倒れたが、必死に起き上がろうとしている。剣が当たったはずなのに、ミサキの身体からは血が流れていない。ガンマが、ミネウチで攻撃したのだろう。
「このぐらいじゃやられないわよ。私だって、ダンジョンで死ぬほど訓練したんだから!」
ミサキが立ち上がりながら魔法を放った。凄まじい電流がガンマに襲い掛かる。ガンマは剣を投げて電流の流れを変えた。そして、一気にミサキの前に現れて、腹に拳をめり込ませた。
「グホッ」
ミサキはそのまま気を失った。
「勝者ガンマ————!!!」
「オオ————」
「すげー! あいつ勇者に勝っちまったぜ!」




