ヨハンとケント伯爵に正体を明かす!
僕達4人はケント伯爵と一緒にバルスの街のケント伯爵の屋敷に向かった。屋敷は旧王城の近くにある元貴族の屋敷跡だった。応接室に通されて、僕達は今みんなで座っている。
さっそく僕は気になることを聞いてみた。
「ケント伯爵はどうしてこの街の王城に住まないの?」
「あそこはペイン王家のものだ。俺があそこに住むのは筋違いだ。」
どうやらケント伯爵は他の貴族達とは大違いのようだ。
「ケント伯爵はイグドラ帝国にしては珍しいわね。」
「どういう意味だ?」
「イグドラ帝国の貴族達は、みんな他国を侵略して金品を略奪したり女を犯したりする連中ばっかりだと思ってたからよ。ねっ、シルバー!」
「リリー殿は歯に衣着せぬ方だな。これでも俺はイグドラ帝国の伯爵なんだぞ。他の貴族達の前では言わないほうがいいな。」
すると、ヨハンが話に入ってきた。
「この国はアルカイックが皇帝になってからおかしくなったのさ。元々あったアケメネ王国ではこのように他国を亡ぼしたりなどしなかったし、貴族達ももっと紳士的だったさ。ケント!」
ケント伯爵がヨハンの顔をじっと見つめた。そして、急にヨハンに向かって片膝をついた。急にどうしたのだろう。
「ヨハン王子。ご無事でしたか?」
「ああ。父上が何とか逃がしてくれたさ。だが、マーガレットは逃げている途中で奴らに殺されたよ。今は、ここにいるジュノンと2人だけだ。」
どうやら、ヨハンとケント伯爵は知り合いのようだ。だが、『王子』とはどういうことだろう。
「どういうこと?」
すると、ケント伯爵が説明してくれた。
「イグドラ帝国は、本来アケメネス王国という人々が平和に暮らす国だったのだ。だが、アルカイックがクーデターを起こして皇帝になってからは他国を侵略する国に変わったのだ。ここにおられるヨハン様は、アケメネス王国の第2王子だ。クーデターの際姿が見えなくなって、アルカイックが率いる兵士達が血眼になって探したがとうとう見つからなかったのだ。」
「じゃあ、ヨハンさんはアケメネス王国の王子で、ケント伯爵はアケメネス王国の貴族だったってこと?」
「そうだ。クーデターの後、わが父や他の貴族もアルカイックに従うことで家族を守ったのだ。だが、俺はあのアルカイックのやり方がどうしても許せない。それに、後から成りあがって貴族になった連中は、リリー殿が言ったような振る舞いをする者もいる。何とかしなければいけないと思っていたのだ。」
ケント伯爵は皇帝アルカイックのことをよく思っていないようだ。彼の話しぶりからもそれが分かった。すると、ケント伯爵が僕とリリーに突然懇願してきた。
「シルバー殿。リリー殿。どうか俺に、いや私に力をお貸しいただきたい。この帝国を元の平和な国にしたいのだ。すっと悩んでいたが、ヨハン様が生きていることが分かった以上私の覚悟も決まった。お願いだ!」
ケント伯爵はかなり真剣だ。どうやら本気で帝国と戦うつもりらしい。だが、まだケント伯爵の真意が分からない。もしかしたら、帝国側の人間かもしれないのだ。
「僕達にそんな力はないよ。それに、僕達は武闘大会に出るために帝都に向かってるんだから。」
すると、ケント伯爵が言った。
「私の部下が入手した情報だが、どうやら旧ガリア王国内でレジスタンスが各都市を奪還していると聞いた。ミズーリ侯爵も討たれたらしい。今がチャンスなのだ。今を逃したら、帝国はもっと他の国にも攻め入るだろう。頼む! 力を貸してくれ!」
すると、ヨハンが驚いた。ヨハンは先ほど、僕とリリーがミズーリ侯爵の話をしていたのを聞いていたのだ。
「その話は本当か? ミズーリ侯爵と言えば武闘大会で毎年優勝している強者ではないか。そのような強者を一体だれが・・・先ほど、シルバー殿とリリー殿がミズーリ侯爵の話をしていたのが聞こえてきたが、もしや、シルバー殿とリリー殿が討伐したのか?」
ヨハンとケント伯爵が僕とリリーを見た。それは、僕とリリーに期待する眼差しだった。
「もう一度聞くが、シルバー殿とリリー殿の仕業なのか?」
「どうかな~?」
僕が惚けたように答えると、今度はヨハンが真剣な口調で言ってきた。
「やはり、2人の仕業に間違いないようだな。シルバー殿もリリー殿も只者ではないとは思っていたが。まさか、あのミズーリ侯爵を倒せる実力者だとは思いもしなかった。私からもお願いだ。我らに力を貸してくれないか?」
リリーが僕の顔を見た。すると、ジュノンがリリーのところに行って上目遣いをしながら言った。
「リリー姉ちゃん。父上のお願いを聞いてあげて。」
どうやら、子ども好きのリリーはジュノンの眼差しにやられたようだ。しかたない。どうせ皇帝アルカイックは討伐する予定なのだ。協力することにしよう。ただ、事前に僕らのことを伝えておかなければならない。
「わかったよ。協力するよ。でも、一つ条件があるんだけど。」
「条件とは? 報酬のことですか?」
「違うよ。僕もリリーもお金には興味ないからね。それよりも、これから大事なことを話すからしっかり聞いてね。」
「わかった。」
「確かにミズーリ侯爵を討伐したのは僕だよ。テキーラに頼まれたからね。あっ、テキーラっていうのはガリア王国の王女エリザベトのことね。」
「やはり、そうだったのか。」
「条件っていうのはね、僕とリリーのことを知っても怖がらないで欲しいんだ。」
「怖がる? どういうことだ?」
「僕とリリーの正体を知ったらみんな怖がるからさ。」
「シルバー殿やリリー殿は優しい方ではないか。どうして怖がることがあるのだ。」
「なら、僕とリリーが今から本当の姿を見せるよ。」
「本当の姿?」
僕とリリーは魔族の姿に戻った。僕は精悍な男性の顔つきになって背中から漆黒の翼を出し、リリーも同じように背中から漆黒の翼を出した。
「ま、ま、魔族?!」
「そうだ。オレもリリーも魔族だ。これでも大丈夫か?」
やはり怖いのだろう。ケント伯爵が声を震わせながら答えた。
「まあ、驚きはしたが別に怖いとは思わないですな。」
その様子を見てリリーが追い打ちをかける。
「言っておくけど、シルバーはアスラ魔王国の王。つまり魔王だからね。」
「ええ——————!!! 魔王————?!」
「そうだ。オレは魔王シルバーだ。」
さすがに、ヨハンもケント伯爵も恐怖に耐えかねたのか後ずさりした。
「何故、魔王が帝国にいるんだ?」
「この世界を平和にするようにナルーシャ様に頼まれたからな。」
「まさか。それは本当か? ナルーシャ様といえば最高神様ではないか! シルバー殿はナルーシャ様の使徒なのか?」
「別に使徒ではない。ただ、頼まれただけだ。」
「ということは、ナルーシャ様にお会いになったのか?」
「そうだが。」
「やはり、シルバー殿におすがりするしかないようだ。お願いです。是非、我々に協力してください。」
オレの言葉を聞いてケント伯爵もヨハンも冷や汗をかいている。あまり怖がらせてもいけないので、オレとリリーは元の姿に戻った。
「言っておくけど、シルバーは魔王の姿になると口調も変わるのよ。気にしないでね。」
ヨハンが納得していた。オレが魔王だとわかったせいなのか、それともナルーシャ様の名前を出したせいなのか、ヨハンもケント伯爵も急に口調が変化した。
「そうでしたか。確かに普段のシルバー殿からは想像もできませんな。私が伯爵だと知っても、口調を変えなかった理由が分かった気がします。」
その日は解散して、翌日これからのことを話し合うことにした。




