ケント伯爵
僕とリリーは帝都に向かう途中の森の中でヨハンとジュノンという親子と出会った。僕達が帝都に向かうつもりだと話すとヨハンに相談された。ヨハン達も帝都に行きたいらしい。そこで、僕とリリーと4人家族ということにして旅に同行したいと言ってきたのだ。
「別に構わないわよ。良いでしょ? シルバー。」
「何も問題ないよ。」
「なら、帝都までよろしく頼む。」
「こちらこそ。でも、ジュノンのお母さんはどうしたの?」
「・・・」
「ああ、ごめん。聞いたらまずかったのね。」
「いや、そうじゃないんだ。この子の母親は先の戦争で死んだのさ。だが、俺もジュノンもそれを乗り越えてきたんだ。」
ジュノンが下を向いている。やはり子どもだ。母親のことを思い出すのだろう。
「なら、ジュノン君。私がしばらくジュノン君のお姉ちゃんになるわね。甘えていいわよ。」
リリーがジュノンを抱きしめた。ジュノンも恥ずかしながらも嬉しそうだ。
「最初にバルスの街に行かないとね。ヨハンさん。旅立ちの準備してくれる?」
「わかった。準備も何も少しの着替えぐらいしかないから、すぐに終わるさ。」
ヨハンはボロボロの木の家の中に入って行った。恐らく自分で作ったのだろう。しばらくして出てくると、荷物を背中に背負っている。しかも、両手にまで荷物を持っていた。
「ヨハンさん。それじゃあ何かあった時に戦えないよ。」
「は~! 申し訳ない。だが、どれもこれも捨てるわけにはいかないのでな。」
「なら、この魔法袋を使っていいよ。これ、ヨハンさんにあげるから。」
「えっ?! そんな貴重なものをもらうわけにはいかん。だが、シルバー殿の言う通りだ。何かあった時に困るな。なら、少しの間お借りしよう。」
ヨハンは物凄くまじめな人間のようだ。なんか信用できそうだ。でも、どうして森の中で子どもと二人でいたのだろうか。まるで隠れているかのように。まっ、そのうち分かるさ。
「では、話をすり合わせておこうか。シルバー殿とリリー殿は俺の兄の子どもということでどうだ?」
「わかったわ。なら、私がシルバーのお姉ちゃんね。」
「はいはい。」
「なによ。不服なの?」
「そんなことないよ。」
「二人は仲がいいんだな。」
リリーは頬を赤くしながら僕と手を組んで来た。その後、僕達は小川を越えて旧ペイン王国の王都バルスに向かった。バルスの街にはこの近辺の街から兵士達が集まってきていた。やはり何かあったのだろう。街の中は騒然としていたが、意外にも店は開いていた。それに、占領されてるはずなのに人々は下を向くこともなく街を歩いている。
「なんかこの街にいる兵士達は、旧ガリア王国にいた連中とは違うわね。」
「そうだね。もしかしたら、司令官がそれなりの人物なのかもしれないよ。」
僕達がキョロキョロしながら街を歩いていると、ジュノンが兵士にぶつかってしまった。僕とリリーは慌てて兵士に謝った。
「すみません。」
すると、兵士とその近くにいた仲間の兵士達が僕とリリーをじっと見て言った。
「まあいいさ。ことと次第によっちゃぁ許してやらんでもない。お前達2人が俺達を楽しませてくれるならな。こっちに来い。」
兵士がリリーの手を掴もうとした。だが、リリーがそれを軽々とかわして逆に足をかけた。
「ドテッ」
転んだ兵士は恥ずかしかったのかいきなり態度が豹変させた。
「貴様! この俺様に恥をかかせたな。このままで済むと思うなよ。」
兵士が剣を抜いてリリーに近づいていく。周りには騒ぎを聞きつけて人が集まり出していた。すると、兵士の後ろからきれいな甲冑を着た男が現れた。
「お前達何をしている! 剣を仕舞え!」
「ケント伯爵様!」
男達は顔色を変えその場から立ち去って行った。そして、ケント伯爵が俺達を見て声をかけてきた。
「俺の部下が済まないことした。この通りだ。」
ケント伯爵は平民の僕達に人目もはばからずに頭を下げたのだ。
「こちらこそ申し訳ないことをしました。」
ヨハンが代表して謝罪した。
「本来ならば屋敷に招いて詫びたいところだが、急ぎの用があってな。これから出陣しなければならないのだ。すまんな。」
僕はケント伯爵に聞いた。
「どこかの街を攻めるの?」
「いいや。そうではない。魔獣達からこの街の人々を守るのさ。」
「魔獣?」
「そうだ。この街の西の森から魔獣の大群が攻めてきているのだ。なんとしても人々を守らなければならん。悪いな。」
ケント伯爵は部下の兵士達を連れてその場を去って行った。
「シルバー! やっぱり、ここの司令官はミズーリ侯爵達とは違うわね。」
「そうだね。でも、魔獣か~。大丈夫なのかな~?」
僕とリリーの話をヨハンは聞いてない振りをしているようだった。
「ヨハンさん。帝都に行くのを少し待ってくれるかな?」
「どうしてだ?」
「帝国の連中はともかくとして、この街の人達が魔獣に襲われるのを黙って見ていられないよ。」
「魔獣が来たらどうするんだ? いくら腕に自信があっても、相手は魔獣だ。しかも、この近隣の軍隊を導入するレベルなんだぞ! 俺達が残ったところで何もできないだろ?」
「なら、ヨハンさん達だけで先に行ってくれる? 僕とリリーだけでも残るよ。」
「死ぬつもりなのか?」
するとリリーが怒って言った。
「死ぬつもりなんてないわよ。困っている人がいたら助けたいだけよ。」
するとジュノンがヨハンに言った。
「父上。僕もリリー姉ちゃんやシルバー兄ちゃんと一緒に残ります。僕は民を守るために修行してるんですから。」
ヨハンがジュノンの目を見た。ジュノンの覚悟に納得したようだ。
「わかった。ならば俺も一緒に残ろう。」
兵士達が街から出て行った。どうやら魔獣と戦うようだ。僕達は兵士達の後ろについて行く。
「シルバー! どんな魔獣かな?」
「これだけの軍隊で向かうんだから、相当強いかそれとも相当数が多いんだろうね。」
「魔力感知で見ちゃおうかな~。」
「いいんじゃないの。」




