エルフの少女達の傷を癒す!
僕達は港町ハベルの奪還作戦を立てた後、魔王城に戻った。そこには久しぶりに会うローズおばあちゃんがいた。久しぶりに和気あいあいと過ごした僕達は、その日はぐっすりと休むことができた。そして翌朝、僕達は再びハベルの街のレジスタンス達のもとに行った。
「おはよう。ユーサさん。」
「おはようございます。みな様。」
「今日、これから僕がここにエルフ達を連れてくるから保護してくれるかな?」
「わかりました。ですがどうやって連れてくるんですか? 大勢いるんですよね?」
「大丈夫よ。シルバーに任せおきなさい!」
「はい。」
ユーサが不安そうにしている。するとテキーラが言った。
「大丈夫よ。シルバーさんを信じましょ。」
僕は、今朝ゲーテから渡された地図を見た。マークのある建物の中にエルフ達がいるようだ。どの建物も貴族の屋敷らしい。恐らく、ミズーリ侯爵がこのハベルを第2の首都にともくろんでいるのかもしれない。そのために、エルフ達をここに屋敷を構える貴族に与えているのだろう。僕はマークの付いた屋敷の上空まで行って屋敷内に転移した。エルフの魔力を知っている僕にとっては、屋敷内のエルフのいる場所まで転移するのは簡単だ。僕はエルフ達を驚かせないように、敢えてエルフの姿に変身することにした。
「あなたは誰?」
エルフの少女達はみんな同じ反応をする。当然だが、目の前に突然同族のエルフが現れるのだから、驚くのも無理はない。僕はみんなを安心させるために、敢えてエルフ族の女王フェアリアルの名前を出すことにした。
「僕はシルバーさ。君達を助けるようにフェアリアルさんに頼まれたんだよ。」
「女王様に?!」
「そうだよ。この屋敷内には君一人だね。」
「はい。」
「なら、行くよ。」
僕はエルフの少女の手を掴んでリリーの元まで転移した。
「まずは一人ね。」
「うん。」
「シルバー! どのくらいのエルフがいるの?」
「20人ぐらいかな?」
「そんなに~?」
「大丈夫だよ。場所は分かってるから。」
すると、僕達の隣にいたユーサが驚いた顔で聞いてきた。
「シルバー様! 今、どこから現れたんですか?」
「転移してきたんだよ。」
「転移?!」
ユーサが目を見開いたまま固まってしまった。
「シルバー! 急いで!」
「うん。」
僕は再びハベルの街の上空に転移した。そして、次々とエルフ達をリリーのもとに送り届けた。
「次が最後だよ。」
「わかったわ。気を付けてね。」
「うん。」
僕が向かったのはミズーリ侯爵の弟オルゴン伯爵の屋敷だ。だが、まずいことにエルフの近くに誰かがいるようだ。仕方がないので、見つかったら何とかしようと思いながらそのまま転移した。すると、目の前にはデブの男が裸でエルフの少女の上にまたがっている。
「やめて!」
「ボコッ」
「バコッ」
デブの男がエルフの少女を殴っているようだ。
「もっと泣き叫べ! 誰も助けになんか来ないぞ! 美しいものを征服するのがこんなに楽しいとは思わなかったぞ! 兄上に感謝しないとな。」
目の前の光景に僕の我慢が限界を超えた。少女のような姿の僕は、精悍な顔つきのオレに変化した。そして、体中から真っ黒なオーラが溢れ出る。部屋全体が凍り付くように寒くなった。
「貴様は何者だ? ま、ま、魔族?!」
「ああ、そうだ。オレは魔王シルバーだ!」
「魔王だと?!」
「貴様には生きる価値がなさそうだ。だが、ただでは殺さん。地獄の苦しみを味わうがいい!」
「ま、待て! 待ってくれ! 金か? 女か? お前の欲しいものは何でもやる! だから待ってくれ!」
「オレの欲しいものはお前の惨たらしい死だ! 死ね!」
『ダムネーション』
オレが魔法を発動すると、オルゴン伯爵の周りに黒い影が現れた。その影がオルゴン伯爵を飲み込んでいく。オルゴン伯爵は飲み込まれた影の中で、凶暴な鬼達に何度も殺されては生き返る。その繰り返しだ。そして、とうとうオルゴン伯爵はもがき苦しみながら絶命した。オレは、裸の少女に服を着せてリリーの元まで転移した。
「どうして魔族が?! もしかして、シルバー様なのか?」
「そうだ! オレはアスラ魔王国の魔王シルバーだ!」
本来ならば魔王と聞いて怯えるのが普通だ。だが、ここにいるエルフの少女達もレジスタンス達もだれも怯えない。オレの本質を知っているからなのだろう。レジスタンスのリーダーのユーサが前に出て言ってきた。
「まさかシルバー様が魔王だったとは驚きです。本来魔王とは恐ろしい存在だと信じられていました。ですが、シルバー様からは恐怖は感じません。それどころか、まるで神々の石像の前にいるときのような神聖なものを感じます。」
オレが褒められてことがよほど嬉しかったのだろう。ここでリリーがニコニコしながら言った。
「当たり前でしょ! シルバーはこの世界を平和にするようにナルーシャ様に依頼されているんだから。」
「確かにそうなんですが。ところで、リリーさんも魔族なんですか?」
「そうよ。どうして?」
「シルバー様もリリーさんも人間の姿でいましたから、全然気づきませんでした。」
「そうね。でも、オーラを隠すのって結構大変なのよ。」
「そうでしたか。」
エルフ達を見ると全員が暗い顔をしている。当たり前だ。人族の男達におもちゃのように扱われたのだ。僕はエルフ族の少女達に聞いた。
「オレはおまえ達の身体の傷を完全に治すことができる。だが、心の傷までは治せない。もし心の傷を治す方法があるとしたら、それはおまえ達の記憶を消去するしかない。おまえ達はそれを望むか?」
しばらく沈黙が続いた。全員が思い思いに考えているようだ。そして、一人の少女が立ち上がった。オルゴン伯爵に殴られていた少女だ。
「殺して! 私を殺してください! あの記憶がある限り、私は地獄の中にいます! お願いです! 私を殺してください!」
彼女の態度や言葉から、彼女がどれほどひどい仕打ちを受けたのか想像がついた。他のエルフ達も同じなんだろう。リリーの目にもテキーラの目にも涙が浮かんでいた。そして、彼女達の手は固く握りしめられていた。
「決めた! オレは君達を治すよ! 体も心も新品にね!」
周りでなにか言っている者もいたがもう迷わない。オレは魔法を発動した。
『リカバリー』
『ロストメモリー』
オレの身体が眩しく光り始めた。その光がエルフの少女達も包み込んでいく。なんと慈愛に満ちた光だろうか。光の中では、白い翼を付けた小さな天使達がエルフの少女達の周りを飛び回っていた。エルフの少女達の目から大粒の涙がこぼれる。そして、光が収まった時、彼女達は不思議そうな顔でオレ達を見た。
「ここはどこ? どうして人族と魔族がいるの?」
リリーが優しく声をかける。
「何も覚えてないんだね。」
「はい。でも、不思議。人族や魔族は恐ろしいはずなのに、あなた達は怖くはないわ!」
「そう。それはよかった。なら、エルフの国エルグランに戻ろうか。」




