テキーラとベータとガンマ
僕達はせっかくなので掲示板を見にいった。意外に討伐系の依頼が多い。どうやら、国境の街だけあって冒険者が足りてないようだ。僕達はCランクなので、比較的容易とされているゴブリンの討伐依頼を受けることにした。掲示板から依頼の紙をはがして、受付に持って行った。
「はい。確かに受け付けたわ。討伐証明の魔石を持ってきてね。最低5体よ。」
「わかったよ。行ってくるね。」
どうやらゴブリンは西の森の中にいるらしい。たまに森から出てきて畑を荒らすようだ。これには農家の人達もホトホト手を焼いている。しかも、質の悪いことに、ここのゴブリンは人を襲うことがある。そのため、落ち着いて畑仕事ができないと、農家の人達も困っていると聞いた。
「リリー! 行こうか。」
すると、ギルドを出たところで先ほどの女性冒険者のテキーラと、スキンヘッドのガンマ、優男のベータが声をかけてきた。
「あんた達、この街の狩りは初めてなんだろ? 私達がついて行ってあげるわ。心配だからね。」
なんか、見かけによらずいい人達だ。僕達は5人で西の森に入って行った。僕とリリーは魔力が溢れ出ないように制御している。普通にしていると、魔力が溢れ出してゴブリン達が逃げてしまうからだ。
「いないわねぇ!」
僕は気配感知の魔法を発動して広範囲で確認した。すると、森の奥2㎞の地点に100体以上の魔物の反応があった。
「リリー! こっちが怪しいから、行ってみようよ。」
「うん。」
森の奥に進んでいくと、目の前に岩山が見えてきた。『ギャー ギャー』とゴブリン達の騒ぐ声も聞こえてきた。すると、テキーラが僕達を止めた。
「おい! 待て! この先にゴブリンの集落がありそうだ。ここから様子を見るぞ!」
言われた通り、僕達はその場からゴブリン達の様子をうかがった。すると、ゴブリン達はホーンウルフの群れと交戦していた。数の上ではゴブリンの方が多いが、ホーンウルフが鋭い牙と足の爪でゴブリンを倒している。ホーンウルフは20匹ぐらいいそうだ。
「おい。お前達! 今日はダメだ! 引き返すぞ!」
それを見てテキーラが言った。するとリリーが不思議そうに首を傾けて聞いた。
「どうして?」
「お前! 見てわかるだろう! 100匹近いゴブリンに20匹のホーンウルフがいるんだぞ! 応援を呼んで50人くらいで来ないと、こっちが殺されちまうぞ!」
テキーラに言われた通り引き返そうとすると、どうやら遅かったようだ。すでに、僕達の後ろにもゴブリン達がいた。ベータがテキーラに聞いた。
「姉御! どうする?」
「そうだね~。私達だけなら逃げ切れるだろうけど、この子達がいるからね。」
「僕達なら心配いらないよ。お姉さんたちだけで逃げていいよ。」
「何言ってるんだい! あんたは男だからどうでもいいけど、そっちのリリーとかいう女の子には怪我させられないよ。」
よくわからない理屈だ。僕は剣を抜いて、前にいるゴブリンとホーンウルフの群れに突っ込んでいった。
「あの子バカだね! 死んじゃうよ!」
「シルバーは強いのよ。多分、すぐに片が付くと思うわ。」
3人はリリーの言葉を信じられないという顔をしている。そして、リリーとテキーラ達は後ろのゴブリン達の相手を始めた。テキーラが剣でゴブリンの頭をはねる。ベータも何とかゴブリンを討伐している。ガンマはかなり慣れているらしく、大剣でゴブリンを一刀両断していた。リリーはほとんど何もしないで、その様子を見ていた。返り血を浴びるのがイヤなのだろう。
「ホブゴブリンが来るわよ。」
リリーの指さす方向に、ゴブリンよりも2回りほど体格のいいゴブリンが10体いた。
「まずいわね。」
「姉御! どうしますか?」
「姉後! このままじゃまずいですぜ! 逃げましょう! もう、あのシルバーって小僧も殺されたに違いないですぜ!」
「だめよ! まだ、ここに女の子がいるんだから!」
どうやら、テキーラという女性はどうしてもリリーを守りたいらしい。だが、相手はホブゴブリン10体だ。とても彼らに勝ち目はない。そこで、リリーが言った。
「こいつらは私が討伐するから、みんなは下がってて!」
「無茶だ!」
リリーは腰の剣を抜いて、剣に魔法を付与しながら剣を横に振った。
『水刃斬』
すると、剣の軌道に水の刃が飛んでいく。あっという間にホブゴブリンの頭が地面に落ちた。そして、その後も、一方的に剣でホブゴブリンを切り裂いていく。気付けば、目の前にいたホブゴブリン10体が全滅していた。
「あなた! 何者なの?」
テキーラが驚いた様子でリリーに言った。
「お待たせ! 終わったよ。」
「えっ?!」
僕が無傷で平然と現れると、テキーラもベータもガンマも呆然とした。
「そんなに驚いてどうしたの? 全部倒したよ。ほら、魔石を全部取って来たから。」
僕が魔法袋から魔石を取り出して見せると、まじまじと見ていた。
「もしかして、この大きな魔石は・・・」
「ゴブリンキングだね。やっぱり、他のゴブリンに比べて魔石も大きいね。」
平然と答える僕を3人が見つめていた。
「どうしたの? 早くギルドに帰ろうよ。」
「ちょ、ちょっと待って! あなた達何者なの?」
「僕達はベテルギ王国のCランク冒険者だよ。」
「嘘だ! そんなはずない! 私達はBランク冒険者よ。」
僕は冒険者カードを見せた。
「ほら、これが身分証だよ。」
「嘘だ! まさか! そんな~! もしかして、ベテルギ王国の冒険者はみんなレベルが高いのか?」
「どうかな? 僕もリリーもランクには興味ないから。」
僕の言葉にテキーラは呆気に取られていた。その後、ホブゴブリンの魔石を魔法袋に仕舞って、死体は僕が魔法で燃やした。
「さあ、帰るよ。お腹すいちゃった。」
「うん。」
僕達は全員で冒険者ギルドに戻った。魔石を受付の女性に渡すと疑いの目で僕とリリーを見てきた。
「これって、ホブゴブリンとホーンウルフもいますよね? それにゴブリンキングの魔石もあるじゃないですか? 本当にあなた達が討伐したの? もしかしたら、テキーラさん達が討伐したんじゃないですか?」
すると、テキーラが後ろから言った。
「いいや。間違いなくこの2人が討伐したのさ。3人で見ていたから間違いない。」
「わかりました。テキーラさんがそういうなら信じます。」
受付の女性はまだ怪しんでいるようだったが、僕とリリーはお金を受け取って宿に向かった。すると、テキーラと3人が後ろから話しかけてきた。
「2人はどうしてこの街に来たんだ?」
「イグドラ帝国に行く途中に寄っただけだよ! 花がきれいだったからね。」
「そうか。確かにこの街は花がきれいだな。でも、帝国に行くのか? あそこはまずいぞ! あんなところに行ったら軍隊に入れられて、人殺しにされるぞ!」
すると、リリーが聞いた。
「どういうこと?」
「あの国は力のある者は軍隊に入れるんだ。そして、他の国を攻め滅ぼすのさ。何の罪もない人々を平気で殺して占領するんだ。お前達も人殺しにされるんだぞ!」
「だって、冒険者は中立だし、自由だよね?」
「あの国は違うんだ! あそこの皇帝は冒険者であろうと、強いものは自分の軍隊にいれるのさ。何を考えているのかわからんけどな。」
「テキーラさん、やけに詳しいね。」
僕の言葉でテキーラもベータ、ガンマも黙ってしまった。
「もしかして、あなた達、イグドラ帝国から逃げてきたんでしょ!」
リリーの言葉にガンマとベータが怒った。
「別に逃げてきたわけじゃねぇよ。」
「そうだ! 俺達は避難してきたんだ!」
なんか、物は言いようだ。でも、何か事情があるのは間違いなさそうだ。




