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35/39

*35* ふたつの結末

 ヴーッ、ヴーッ。


 机づたいに振動を感じ、ページをめくる手を止めた。

 きょろきょろと辺りを確認したのち、特別に手を伸ばす。


「もしもし。どうしたの? かえ――」


『今どこにいるッ!?』


 まさかの奇襲。

 きぃいん、と悲鳴を上げる鼓膜に顔をしかめつつ、離したスマホを再び位置に戻す。


「図書館ですけど」


『図書館……どっち!? 大学? 兄さんとこ!?』


「大学。4階の学習スペースで課題してんの」


『誰かと一緒!?』


「ものの見事にあたししかおらんわ。だから電話出たんだっつの」


『わかった、すぐ行くからそこ動かないで! 絶対だぞっ!』


「ちょ……」


 呼びとめるヒマもなく、ツー、ツー、とむなしい電子音が語尾に重なる。


「言いたいことだけ言いおって……なにがしたかったのだ? うちの駄犬は」


 夜までみっちり講義だと嘆いていたはずだが。まぁ……事の詳細は、来たときに問いただせばいいか。

 スマホを机に置いて、伸びをひとつ。


「んー……晴れたなぁ」


 苺花、梨乃とバイバイして小一時間。課題図書の読破に挑んでいるうちに、陽が暮れてしまったようだ。

 朝から降り続いていた霧雨も止み、ご無沙汰の茜空がまぶしい。

 窓から射し込む光を浴びていると、あくびが漏れた。原因は、手元の課題図書が面白くなかったのと……


「雪オススメの本が、面白かったせいだ」


 内気な少年と元気な少女の、王道純愛ストーリー。いわゆる恋愛小説ってヤツだ。

 少年視点でじれじれのじれっ恋を繰り広げて……あれ?


「どうなったんだっけ……」


 日付を超えて夢中で読みふけったのに、思い出せない。

 結末を覚えていないわけじゃないんだ。


 少年の想いが叶う。

 少年の片想いで終わる。


 あたしの中には、なぜかふたつのエンディングがあった。

 おかしいな。ほかに恋愛小説なんて、読んだ覚えはないん、だけ、ど……


「……」


 思い出すためだからと、気だるいまぶたを下ろしたのがいけなかったらしい。

 傾ぐ身体。視界に暗幕が下り、背もたれのクッション生地に包まれる。

 

「――ユキちゃん」


 頭上から届いた声音に、不思議なほどの親しみを覚える。


「ホント……無防備」


 呆れているようで、優しさのにじみ出ている声。

 人の気配。衣擦れの音。


「僕は、このままで終わるつもりはない」


 優しすぎるほど丁寧に髪を梳いた指が、名残惜しげに離れゆく。


「たとえきみが、あの人を好きでも……バッドエンドにはさせない」


 ふいに、甘い香りが漂う。

 蜂蜜……いや、花? どこか、懐かしいような……?


「僕自身が、ハッピーエンドにしてみせるよ。だから、ねぇ……」


 ギシ……と、椅子が軋む。


「迎えに来たんだ。僕と帰ろうよ、ユキちゃん」


 温かいものが、唇にふれて……睡魔が、吹き飛ぶ。


「目が覚めた? おはよう」


 こじ開けた視界が夕陽でくらんだ後、ピントが合ったのは、茜色を浴びた鴉羽色の髪。

 くすり、とほころぶ笑顔は、今となっては見慣れたもの。

 なのに心臓が飛び跳ねたのは、ささやきが頬をくすぐったから。

 吐息がかかるほど至近距離に、彼がいたから。


「大事な用事を思い出して、戻ってきたんだ」


 あたしの動揺を見透かしたように、艶めいた黒曜石の瞳が細まる。


「用、事……そっか。はは……さっきバイバイしたから、ヘンな感じ!」


 笑い飛ばし、椅子ごと身を引こうとしたそばから、腕を捕まえられる。


「逃げないで」


「っ……」


 雪のイトコだから。

 ハグ大好きっ子と同じ血を引いてるから、スキンシップ過多……だとしても。


「近いよ、梨乃!」


 天然にも、限度はあると思うんだ。

 鼻先がふれ合う距離、友達の一線を軽く越えてる。このままじゃ……


「キス、できちゃうね?」


「っ!」


 ゾクリ、と肌が粟立つ。

 冗談めかして笑いかけるけど、梨乃は本気だ。

 その証拠として、大粒の瞳に、恍惚とした光をたたえて……危険な色香、とでも言おうか、あたしと同じ未成年には過ぎた艶やかさが、そこに在る。

はたして『どっち』なのか……

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