*34* 煌めく星のクイズゲーム 楓Side
「ふふっ……じゃ、始めますね」
壁に背を預けた星宮は、まぶたを閉じる。
「あるところに、4人家族がいました。父と母、2人の兄弟です」
話し始めは、絵本でも読み聞かせるように。
「弟は、仕事ばかりの父と、すぐに倒れる母と、気弱な兄がキライでした」
家族全員じゃねーかよ。
「ただ、イトコのお兄ちゃんだけは大好きでした。色んなことを教えてくれたり、たくさん遊んでくれたから」
よかった、救いようのない人間不信ヤローじゃなくて。
「でもね……そのイトコも、キライになっちゃうんです。笑顔で騙し、裏切る、悪魔みたいなヤツだったから」
おいおい、急に重てぇ展開になってきたぞ。
「弟は、ついに人をキライになってしまいました。だけどそんな彼を見捨てなかった人がいた。兄です」
……人間嫌い。
弟を見捨てなかった、兄……
「兄は、弟に打ち明けました。〝父の言いつけを破ってしまった。だが、これでいいのだ〟と」
父親の……言いつけ?
「兄は、気弱なんかじゃありませんでした。そう〝演じていた〟んです。自分は〝要らない子〟だと自覚していたから」
演じる? 要らない子……?
なぜ、家族間でそんなものが生じるのか。
「本当の兄は優しくて、聡明で、弟を可愛がってくれました。弟は、兄が大好きになりました」
取り戻した家族の愛情。
なのになんだ……ぬぐい去れないこの違和感は。
「兄が好き。兄の好きなものは好き。だからよくまねっこをしたし、兄に好きな人ができたとき、純粋に応援したかった……でも」
逆接で区切られた言葉の向こうに、明るい展望はあるのだろうか。……いや。
「兄が好きな人には、好きな人がいた」
やっぱり……な。
「それだけじゃないんです。その子は、想い人の弟にまで想いを寄せられていた」
…………待て。
「そいつはとんだ野郎でしたね。自分に心は傾いていないと感じつつも、その子に言い寄って」
……待て。
「挙句の果てに」
待つんだ。
「強引に、唇を奪った」
バクバクと、鼓動がやかましい。
そんな。ウソだろ。
こんなにも……〝そっくり〟だなんて。
「ユキちゃんの〝初めて〟はどんな味でしたか、月森センパイ?」
「――ッ!」
いつの間にかまぶたを上げた星宮が、俺を見上げている。
嘲笑と侮蔑の入り混じったまなざしで。
「なんでおまえが……」
「知ってますよ。見てましたから。去年の12月だったかなぁ。駅前で、人目もはばからず……ドラマ撮影かなにかかと思いましたよ」
よぉく覚えてます、と。
のどを鳴らした星宮は、一瞬にして笑みを消す。
「詳しいいきさつを教えてやる義理はないけど、仕返しくらいしたっていいよなぁ? 梨乃を泣き崩れさせたんだから」
こいつら兄弟は見ていた。思い返せば自分でもブッ飛ばしたい、あの日の俺を。
「目的は……俺か」
「勘違いしないでくださいね。あんたの不誠実を吹聴だとか、そんなちっせぇことがしたいんじゃないんです」
「俺が気に食わないなら、ユキさんには手を出すな! あの子は関係ないはずだ!」
「月森センパイって、バカなんですか? 言ったでしょ、〝気に入った〟って。あんたへの報復とはハナから関係ないですよ」
「やめろ!」
「やめません。俺もね、初めてだったんですよ。家族以外で、誰かのことを〝好きだ〟と思うの」
違う。おまえのそれは、違う。
「あの子の涙は、俺をゾクゾクさせる……イタズラしたとき、食べちゃわなかった自分を褒めたたえてやりたいくらい」
それは、愛情なんかじゃない。
欲にまみれた、加虐心だ。
「ユキちゃんが誰を好きでもいいんです。梨乃は目を覚まさせる気マンマンですし。それで梨乃を好きになっても、俺は満足だ。あの子がいるってことに意味がある」
「……正気じゃない」
「俺がユキちゃんを虐めて、梨乃が慰める。みんなイイ思いができて、合理的だとは思いませんか?」
「狂ってる!!」
「あははっ! じゃあ、阻止してみてくださいよ!」
高らかな嗤いとともに、星宮は弾みをつけて壁から身を起こす。
「最後の仕上げ、2択のクイズです」
向き直り、俺へと視線を戻す一挙手一投足に、まばたきを惜しんで気を配った。
「月森センパイに質問です。俺は、誰でしょう?」
「……何」
「梨乃か、柚乃かを答えてください」
「ふざけるのも大概にしろ! ブラコンが!」
「ファイナルアンサー?」
トンッ、トトン。
ステップを踏むように近づいてきた星宮は、わざとらしく首を傾げて俺を見上げる。
「俺は〝柚乃〟で、間違いないですか? 本当に? 思い違いではなく?」
なんだそれは。自分が〝梨乃〟だとでも言いたいのか。
「月森先輩……あまり過信しないほうがいいですよ? 〝僕〟から、一瞬たりとも目を離さなかったわけじゃないでしょう?」
「なっ……!」
「あぁ、早とちりはしないでくださいね。答え合わせはこれからですから」
〝兄〟の顔をした星宮。
ニッと口端を上げたなら、たちまちに 〝弟〟の顔へ。
「正解は、月森センパイご自身の目で確認してください。もうひとりの〝俺〟を探して」
目前にいるヤツはたったのひとりだが、〝どちらでもあり、どちらでもない〟……
「ふふっ……ユキちゃんのそばにいるのは、 〝どっち〟なのか――」
言葉の終わりを待たず、床を蹴る。
(ユキさん……っ!)
あの子が、危ない。
アテもなく飛び出した曇天の下で、それだけは、直感した。
急げ、急ぐんだ……!




