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33/39

*33* 白熱ドロー 楓Side

 キュキュッ!


 床を擦るシューズ。

 ひっきりなしに響く、スキール音。


「よし、そこまで!」


 号令を受け、フッと脱力する。

 長いこと空気抵抗を受け続けていた身体に、どっと疲労が押し寄せた。

 肩で行う呼吸は、なかなか整わない。


「ハッ、ハッ……ハァッ!」


「うっわ、汗ヤベーじゃん! 大丈夫か月森?」


「こんなん、余裕、だ……っ」


 あごを伝う汗をTシャツでぬぐい、木村が差し出すスポドリをかっさらった。

 座り込むことも、壁にもたれることもしない。

 あいつに隙を見せてはならないからだ。


「キリつきそうにないんで、打ち止めな。はいシャトルラン125回ーっと」


「強制終了かよ……」


「測定する俺が疲れたんだっつの」


「いって!」


 バインダーから視線は外さないままに、下田から酸欠の頭を小突かれる。

 グーではなくパーだったとこを見ると、言葉と裏腹に労われたらしい。


「星宮っつったっけか。この体力バカについてくなんて、やるじゃねーか」


「ありがとうございます、下田センパイ!」


 汗と笑顔をキラキラ輝かせる星宮は、さながら爽やかスポーツマンだ。

 騙されんなよ下田、そのガキの腹ん中は、ブラックホール並みに底なしのドス黒さだぞ。


「気は済んだか体力バカども。俺は持ち場に戻るぞ」


 コキコキと首を鳴らしながら、バインダーを脇に、背を向ける下田。どこからともなく「ヒィッ……!」と情けねぇ悲鳴が上がった。

 終わったら終わったで、〝とっとと出てけ〟とばかりに足蹴にされ。

 下田によって1年が一掃されると、体育館はとたんに見晴らしが良好になる。


「月森ー、星宮ー、ちゃっちゃとダウン済ませな。そんで戸締まりヨロシク」


「オツカレちゃーん!」


 すっかり日常モードに戻った下田と、やけにイキイキした木村が出て行けば、広い体育館に、人影はふたつとなる。


「残念ながら引き分けですね、月森センパイ?」


 額に玉の汗を浮かべながらも、あくまで余裕の笑みを崩さない星宮。そのしたり顔に素晴らしく腹が立つぜ。


「次はこんなんじゃ済まねぇからな」


「あーらら、逃げるんですか?」


「やっすい挑発だな……」


「勝敗をお預けなんて勘弁ですよ。俺はご褒美が欲しいんです。さっさと決着つけましょうよ」


 筋金入りの阿呆なのか。

 今でこそ、〝スポーツテスト指導〟の名目でひと勝負できたものだが、時間は有限だ。

 まして疲弊している身で試合続行など、正気の沙汰とは思えない。


(星宮は、センスがいいだけの一般人だ)


 俺は陸上専門だったが、スポーツをやっていれば、専門外でも各競技の実力者はそれとなく名前を耳にするものだ。

 その中に、こいつはいなかった。

 ただ運動好きなヤツに出し抜かれるほど、俺はヤワじゃない。


「やだなぁ。体力勝負は引き分けだって、結果が出たじゃないですか。お次は、ココで勝負です」


 トントン、と星宮が指差したのは、自身の頭。


「頭脳戦か……ズル賢そうだもんな、おまえ」


 そんで、ヘラヘラ笑いながら精神崩壊させてきそうだ。

 星宮に向き直り、仁王立ちで見下ろす。


「デカイ口叩くからには、それなりの考えがあるんだろうな?」


「もちろんです。やってみせましょうか」


 そうだなぁ……とあごに手を当てる星宮。

 ノープランじゃねーかよ。ナメてんのか。


「月森センパイ、お話しましょう」


「よしわかった、シメ上げる」


「まぁ聞いてくださいよ。俺が今から話をするんで、センパイは聞き手に徹してくれればいいです。で、最後にひとつ質問をします。2択のクイズです。簡単でしょ?」


 記憶力? 心理戦?

 どちらにせよ、単純計算で勝率50%だ。

 まさに博打だな。俺にとっても、星宮にとっても。


「受けて立ってやるよ」


 今さら、しっぽ巻いて逃げらんねーからな。

聞きたくないスポーツテスト名No.1「シャトルラン」(当社比)

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