*33* 白熱ドロー 楓Side
キュキュッ!
床を擦るシューズ。
ひっきりなしに響く、スキール音。
「よし、そこまで!」
号令を受け、フッと脱力する。
長いこと空気抵抗を受け続けていた身体に、どっと疲労が押し寄せた。
肩で行う呼吸は、なかなか整わない。
「ハッ、ハッ……ハァッ!」
「うっわ、汗ヤベーじゃん! 大丈夫か月森?」
「こんなん、余裕、だ……っ」
あごを伝う汗をTシャツでぬぐい、木村が差し出すスポドリをかっさらった。
座り込むことも、壁にもたれることもしない。
あいつに隙を見せてはならないからだ。
「キリつきそうにないんで、打ち止めな。はいシャトルラン125回ーっと」
「強制終了かよ……」
「測定する俺が疲れたんだっつの」
「いって!」
バインダーから視線は外さないままに、下田から酸欠の頭を小突かれる。
グーではなくパーだったとこを見ると、言葉と裏腹に労われたらしい。
「星宮っつったっけか。この体力バカについてくなんて、やるじゃねーか」
「ありがとうございます、下田センパイ!」
汗と笑顔をキラキラ輝かせる星宮は、さながら爽やかスポーツマンだ。
騙されんなよ下田、そのガキの腹ん中は、ブラックホール並みに底なしのドス黒さだぞ。
「気は済んだか体力バカども。俺は持ち場に戻るぞ」
コキコキと首を鳴らしながら、バインダーを脇に、背を向ける下田。どこからともなく「ヒィッ……!」と情けねぇ悲鳴が上がった。
終わったら終わったで、〝とっとと出てけ〟とばかりに足蹴にされ。
下田によって1年が一掃されると、体育館はとたんに見晴らしが良好になる。
「月森ー、星宮ー、ちゃっちゃとダウン済ませな。そんで戸締まりヨロシク」
「オツカレちゃーん!」
すっかり日常モードに戻った下田と、やけにイキイキした木村が出て行けば、広い体育館に、人影はふたつとなる。
「残念ながら引き分けですね、月森センパイ?」
額に玉の汗を浮かべながらも、あくまで余裕の笑みを崩さない星宮。そのしたり顔に素晴らしく腹が立つぜ。
「次はこんなんじゃ済まねぇからな」
「あーらら、逃げるんですか?」
「やっすい挑発だな……」
「勝敗をお預けなんて勘弁ですよ。俺はご褒美が欲しいんです。さっさと決着つけましょうよ」
筋金入りの阿呆なのか。
今でこそ、〝スポーツテスト指導〟の名目でひと勝負できたものだが、時間は有限だ。
まして疲弊している身で試合続行など、正気の沙汰とは思えない。
(星宮は、センスがいいだけの一般人だ)
俺は陸上専門だったが、スポーツをやっていれば、専門外でも各競技の実力者はそれとなく名前を耳にするものだ。
その中に、こいつはいなかった。
ただ運動好きなヤツに出し抜かれるほど、俺はヤワじゃない。
「やだなぁ。体力勝負は引き分けだって、結果が出たじゃないですか。お次は、ココで勝負です」
トントン、と星宮が指差したのは、自身の頭。
「頭脳戦か……ズル賢そうだもんな、おまえ」
そんで、ヘラヘラ笑いながら精神崩壊させてきそうだ。
星宮に向き直り、仁王立ちで見下ろす。
「デカイ口叩くからには、それなりの考えがあるんだろうな?」
「もちろんです。やってみせましょうか」
そうだなぁ……とあごに手を当てる星宮。
ノープランじゃねーかよ。ナメてんのか。
「月森センパイ、お話しましょう」
「よしわかった、シメ上げる」
「まぁ聞いてくださいよ。俺が今から話をするんで、センパイは聞き手に徹してくれればいいです。で、最後にひとつ質問をします。2択のクイズです。簡単でしょ?」
記憶力? 心理戦?
どちらにせよ、単純計算で勝率50%だ。
まさに博打だな。俺にとっても、星宮にとっても。
「受けて立ってやるよ」
今さら、しっぽ巻いて逃げらんねーからな。
聞きたくないスポーツテスト名No.1「シャトルラン」(当社比)




