*28* きみとぼくの未来地図 雪Side
「やー、そんなすぐには……彼女はまだ学生だし」
「学生なの!?」
「大学生らしいよー」
「マジっすか……かわいい顔しておぬしも悪よのぅ~! ちなみに手は出したの?」
「わぁああっ! ハ、ハレンチですぅ――っ!」
「だろーと思ったわ」
清水くん。ぼくと同じ年度に採用された、いわゆる同僚くん。
ということは、野中さんと同じく、ぼくがいなかった5年間を知っている、数少ない事情通でもあります。
復帰したぼくを盛大に迎えてくれたことは感謝してるけど、親しい仲ほど、ちょっかいをかけたくなるらしくって。
「月森……世間の目はあるだろうがな、イイ子ほど、横からかっさらわれるもんだ。仕掛けるなら今のうちだぞ? さっさとモノにしちまえ、今夜にでも!」
「あわわ……そんなっ、ダメです、早すぎます!」
「雪くん……相手は未成年だから、充分に注意を払って……」
「野中さんまでやめてくださいぃ~っ!」
「ウブだなぁ~!」
遊ばれてる……
むぅ……なんて言われてもいいもん。
ぼくは、幸ちゃんに無理強いなんてしないもん!
「あっれー? ふくれちゃった? わりぃって。けどな月森、俺ら今年で27よ? 三十路なんて目の前よ?」
「幸ちゃんは、無理に四捨五入しなくていいって言ってたもん……」
「おまえだってさぁ、将来設計が1ミリもないこたぁないだろ? 少子化打破に貢献するくらいには、子供ほしがってたろ?」
「……そりゃあ、子供大好きだし。野中さんとか清水くんの話聞いてて、うらやましくなりますけども」
だからと言って、こっちが先走っていい理由にはならない。
(ぼくがお願いしたら……幸ちゃんは、きっとうなずいてしまう)
だからこそ、ぼくがしっかりしなければ。
幸ちゃんは、憧れの大学生活をスタートしたばかりなんだ。
ぼくのワガママを押しつけるのは、ずっと後でもかまわない。
パンッ! と景気のいい音が耳に届く。
見ると、野中さんが手のひらを打ち鳴らしたようだった。
「ま、色々思うところはあるでしょうが、雪くん、人生には3つの坂があります。上り坂、下り坂……」
「〝まさか〟ってヤツすか。野中さん……そういうスピーチは結婚式にしてくださいよ」
「あれ? そう? すまない雪くん、続きはお預けのようだ」
あっはっは! と野中さんが笑えば、ヘンな空気まで吹き飛ぶから、ほんとにすごい。
「家庭って、楽しいですか?」
ぼくの問いかけに、野中さんと清水くんは顔を見合わせて、にこり。
「まーな。嫁さんとガキンチョに囲まれる日々は、実にスリリングだぞー」
「僕も家内の檄が飛んでこないと、逆に調子が狂っちゃうからねぇ」
「さーて、どうよ? アドバイスを受けた今の心境は」
「無性に、恋人に会いたくなりました」
「よっしゃ、そんなら光速で仕事片付けてはよ帰ったれ。残業しやがったらどつくぞー」
「もちろんそのつもりっ!」
「おう。じゃーな」
ヒラヒラと手を振って、清水くんは一足先に休憩室を後にする。
「おっ、やる気マンマンだねぇ。そんなきみに、嬉しいお知らせをあげよう」
「はい、なんでしょう?」
長机に置いてあったクリアファイルから、1枚のA4用紙を取り出す野中さん。
「この前の呑み会で、雪くん、すごぉく〝頑張った〟だろう?」
「うっ! あ、あれは忘れてください……」
「そんなこと言わないで。新卒のコたちに大評判でねぇ、快諾してくれたよ。例の件」
「……ほんとですか! じゃあ!」
「はーい、雪くんにまたお仕事を頼みまーす。今回もひとつ、頑張ってちょーだい」
そう言って手渡された要項は……念願の!
「ありがとうございますっ!」
「いーのいーの」
どうしよう……嬉しい!
躍る胸の内を、誰かに伝えたくなった。
自然と思い浮かぶのは、やっぱりあの子。
幸ちゃん。
きみは今、なにをしてるかな?
ご飯は食べ終わったかな?
午後の講義のこと、考えてる?
それとも……ぼくのこと、考えてくれてる?
ぼくはね、きみのことを考えてるよ。
お仕事で、嬉しいことがあったんだ。
会いたいな……話がしたいな。
(でも今はガマン。お仕事しなきゃ)
ぼく頑張るから、ねぇ。
今日も、〝おかえり〟ってお出迎えしてほしいな。
(幸ちゃん……待っててね)
お昼休みは、残すところ10分。
大事にいただいたお弁当を手早くしまって、行きましょう。
さぁ、お仕事の時間です!
幸ちゃんと雪くんは、8歳差。
(雪くんが高1のとき、幸ちゃん小学校低学年)




