*27* わちゃわちゃランチタイム 雪Side
「雪くーん、そろそろお昼にしないかーい?」
「はいっ、すぐに行きます!」
メモに手早くボールペンを走らせたら、ネームホルダーのストラップにはさみ込む。
掛け時計の針は、12時をゆうに30分は過ぎたころ。
まどろんでいる人だっている中、休憩室には、お弁当のフタすら開けていない野中さんが待ってくれていた。
優しい人だ、といつも思う。
「ずいぶんねばってたねぇ~。どうなの? 進捗のほうは」
「ついに決着がつきまして」
「ほうほう! それでそれで?」
「目標分の在庫、確保しました!」
「さすが雪くんだ! いやぁ、きみに任せて正解だったよ」
「わぁ、ありがとうございます!」
「はっは、まぁ座りなよ。ゆっくりご飯でも食べようじゃないの」
「はい、お隣、失礼しますね!」
野中さんを上座側に、長机前のパイプ椅子を引く。
すると備え付けのテレビでワイドショーをやっていて、映し出された人の顔に思わず会釈。そして笑った。
ちょうどあなたのことで、さっきまで受話器を手放せませんでした、と。
「30代半ばくらいだったか。まだ若いのによくやるよね、彼」
世間では、とある芸人が名だたる文学賞を受賞したと話題沸騰中。
それまでの知名度も相まって、著書は驚愕の発行部数を記録。にも関わらず、各地の書店では品切れ続出。
うちの図書館でも貸し出しまで2ヶ月待ちと来たから、利用者さんの悲痛な声を聞いて、追加搬入することに決まった。
色々あったけど、なんとか上手くおさまりまして。搬入される書籍は、館内でのみ貸し出される。
閲覧予約制っていうのは微妙なところだけど……
活字離れが懸念される時代、これを機に、図書館へ足を運んでくれる利用者さんが増えるんじゃないかと、野中さんは前向きだ。
「お給料上がっちゃうね。パーッと呑みに行く?」
「あはは……慎んでご遠慮させていただきます……」
つれないねぇ、と結んで、野中さんはおかずをパクリ。
ぼくもお弁当を広げて、いただきます。
「……あれ、お肉減りました? からあげお好きでしたよね?」
「はは……こないだの健診で、尿酸値がヤバくてね……家内の雷が落ちてしまったよ」
「え、呑み会しましたよね? 平気だったんですか!?」
「それとこれとは話が別だ! なにせ、雪くんの復帰お祝い会だったからね!」
「お気持ちは嬉しいですが、くれぐれもご自愛ください……」
野中さん……根はいい人なのに、無意識で困らせてくるからねぇ。
あ、このタコさんウインナー、口がバッテンだ。かわいいな。
「幸い、家内が食事管理に協力してくれてね。この愛妻弁当を糧に、頑張るよ」
「いい奥さんですねぇ~」
「他人事みたいに言わないの。きみのも結構だと思うよ? 呑み会のお迎えに来てた、確か、ユキちゃんお手製かな?」
「えっと……」
「うんうん」
「……えへへ」
「清水くーん! 雪くんにも婚期が訪れたみたいだー!」
「わっ! 野中さん!」
「なんですとっ! それはまことでありますか野中さん!」
休憩室の奥で食後のコーヒーを一服していた男性職員が、長机を引っぱたいて立ち上がる。
ズンズンと向かってくる彼の目標は、もしかしなくてもぼく、だよね?
「よぉ、おまえもついにコッチ側来ちゃうー? 月森ぃー?」
座るぼくの肩に腕を回して、間延びした口調は、まるで出来上がった人みたい。コーヒーにお酒でも入ってたのかな。
今回受賞した人気芸人の著書名は、『ファイアー・フラワー』




