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24/39

*24* 雨の引き合わせ

 売店経由で教室に行く時間を考えたら、わりとピンチ。

 大学内を爆走していたあたしは、近道を選んだことで、とんでもない事態と直面する。


「……は? なにやってんのあんた!」


 久々に訪れた校舎裏であたしを待ち受けていたのは、白い毛玉。

 比喩なんかじゃなく、本気で毛玉に見えたんだ。

 けれども木の下でうずくまってるのは、間違いなくあの白にゃんこだ。


「びしょ濡れじゃん! なんで軒下に行かないかなーもう!」


 そら見なさい、葉っぱのすきまから雨降り込んでるでしょーが、おバカ!

 叱りつけようとしたまさにそのとき、「……にゃあ……」と弱々しい鳴き声に、言葉を呑む。


(身体……めっちゃ冷えてる)


 ぷるぷると小刻みに震えて、長い間雨に打たれていたことは一目瞭然だ。


(温めてあげないと……!)


 ハンカチを取り出しかけて、思い留まる。

 真っ白の毛からは、含みきれなかった水分がポタポタと滴っているのだ。

 ちまちまやってるうちに、いたいけな子猫の体温を容赦なく奪っていくんだろう。


 そうとわかれば、反射的に上着へ手を引っ掛けていた。

 包み込みように、綿生地のカーディガンへ水分を含ませる。

 風邪を引きませんように。一心に願いながら。


「見せて」


 どこからともなく現れた腕が、あたしから子猫をさらう。

 弾かれたように見上げた先に、黒い傘。

 それを肩に引っ掛けているのは、鴉羽色の髪をなびかせる青年だ。


 ほっしー?


 出かけた言葉が詰まったのは、ふっ……と彼が微笑んだから。

 見覚えのある顔で弓なりに曲げられた唇は、見覚えのない表情。


「優しくてイイ子だよな、ユキちゃんはさ」


「……え」


 固まった一瞬の隙に、ふわりと肩にかかるもの。

 パーカーを羽織らされたのだと、数拍後に理解した。


 黒いフードの、藤色パーカー。ほっしーがよく着てるパーカー……じゃなくて、同じデザインの、ちょうど色が反転したものだ。

 顔も声もほっしーそのもの。だけどほっしーじゃないってことは。


「……ほっしーの、弟?」


「大正解」


 よくできました、と、まるで幼い子供へするように、あたしの頭をひと無でした。

 この子が、ほっしーの双子の弟……?


「優しいのはいいことだけど、ブラウス1枚は感心しないなぁ」


「そーいや、さっむ……」


「わかってくれてなにより。てなわけで、受け取ってくれるね? きみが風邪引くと梨乃がうるさいんだ」


 念押しなのか、パーカーをしっかり着せようとしてくるほっしー弟。

 ありがとうと伝え、腕の中でうずくまる白猫をのぞき込む。


「心配?」


「あったりまえ。ヒマさえあればじゃれてあげてる仲なの」


「そっか。もう大丈夫だと思うよ? ユキちゃんのおかげでほら、震えも止まった」


 温かいんだろうか。腕の中で、子猫はクリアブルーの瞳を細めている。


「よかった……」


 胸を撫で下ろし、くすっと頭上で漏れた声に顔を上げた。


「あたし、変なこと言った?」


「いや?」


 どうだか。のどの奥でクツクツ笑われては、説得力がないのですが。あたしのなにが面白いんだろ?

ナチュラル彼パーカー……おぬし、やりおるな。

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