*2* 楓お兄ちゃん出動!
楓の成人式(紋付袴)をバッチリ見届けた1月の終わり、雪は仕事復帰した。
月森家にお引っ越ししたのは、そのあとすぐ、2月の上旬。
そこから血と汗と涙の滲むような日々を重ね、この春――あたし佐藤幸は、無事大学生になれました。
「が、この状況である」
ピッカピカの1年生。
友達100人、できるわけがなかった。
午前最後の講義を終え、大学内の中庭にて、ベンチでお弁当をちまちま食べる。
通りがかる人の視線がイタイ。
えぇ、ぼっちですけど。無表情でファンシーなウサちゃんキャラ弁食べてますけど、なにか。
……とかいうオーラ出すから、人が寄りつかないのか。
(18にもなって友達ひとり作れないとか……もしかしてあたし、ダメな子?)
空になったお弁当を片付けて、ため息。
「どうすりゃいいんかねぇ、雪……」
あたしの心中とは正反対の青空へ、右手をかざす。
シャラリ、とネックレスチェーンがこすれて、親指と人差し指の間に、キラリと光るもの。
ぼくだと思ってねって、プレゼントされたばかりのリングは、とけることのない雪の結晶がモチーフだ。
お守りを持った上で、これだからなぁ……
「にしても、あのやろう、いつまで待たせる気なんだか……よっし帰ろう。そうしよう」
ちゃっちゃと荷物をまとめ、中庭を後にしようとしたところ。
「キミ新入生? ヤバ、ひとり?」
白昼堂々ナンパ事件と遭遇。それも複数犯。
被害者は、通りすがりの女子大生だ。
「ヤバくない? ひとり寂しくない?」
「次の講義いつから? ヒマならお茶しない?」
基本的に、チャラチャラやろうはノーサンキュー主義である。
自分だったら、持ち前のスルースキルで撃退するんだけど。
「えっと……それは、ちょっと……」
困り果てている女子の顔に思い当たった瞬間、やっちゃったんだなぁ。
「やっほーイワっち。なんか小バエがうるさいねぇ」
「……え? 佐藤さ」
「もぉ~、ユキって呼んでって言ってんじゃ~ん」
ずずいっと間に押し入って、いかにも親しげな女友達を熱演。
「あのー、あたしたちこの後講義あるんで、失礼したいかなーなんて」
にこっとスマイルプレゼントしたのが、ミスチョイスだったのか。
「えっ、トモダチもかわいくない? ヤバくない?」
「ヤバイヤバイ。どーする? オンスタきいちゃう?」
ヤバくないヤバくない。
とにかくあっち行ってちょーだい。
そもそもあたしSNSやってないし、オンスタのアカウント持ってな……
「きいちゃうよー。この子、俺がマジお熱だったメイド喫茶の子に激似だしぃ」
……ヤバイぞヤバイぞ。
予定変更。コイツら、生かしちゃおけねぇ。
ピリリリッ、ピリリリッ。
タイミングよく、着信が鳴り響いた。
ちょっくらビルの10階から落ちたときに、相棒がご臨終なさったので、あとを継いだ相棒を取り出す。
応答は、最っ高に猫なで声で。
「あ~、楓お兄ちゃん? なんかユキねぇ、中庭でナンパされちゃって、すごぉく困ってるの! 助けてお兄ちゃ~ん!」
よし、起爆剤投与完了。
ポカンとしてる激ダサナンパやろう×2に、うふふっ! と地獄へのカウントダウンスタートだ。
「ウチのユキさんから離れろ! ブッ飛ばすぞクソヤローどもぉおお!」
さすが忠犬、鼻がよく利く。
ナンパやろう×2(元高校球児)は、部活引退してからめちゃくちゃがんばって髪を伸ばした。
大学デビューは空振り三振。