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16/39

*16* そばにいたいよ

「窓、少しだけ開けておこっか。風が気持ちいいよ」


「うん……」


 自前弁当をちょっとだけかじったら、薬を流し込んで、後はひたすら横になる。

 ちょっとしたら学校医の先生が席を外したから、医務室には、ふたりだけ。

 白いカーテンを引いてくれた星宮くんが、イスに戻ってくるのを確認して、口をこじ開ける。


「……ありがとね、星宮くん」


「ふふ、どういたしまして」


 お昼もまだだったろうに、嫌な顔ひとつせず助けてくれるんだな。

 ベッドに横たわったあたしを、イスの上からのぞき込んで、満足げにニコニコ。


「とてもありがたいのですが……その」


「うん?」


「勘違いされちゃうよ? ああいうの……」


 ぱちぱち。


 まばたきをした星宮くんが数秒を経て、バッ! と上体を引く。


「ごめん! いっ、嫌だったよね!」


「えっ、今?」


 まさかの天然さんでしたか。


 あわあわと部屋のあちこちに視線を泳がせるけども、行くアテなんかないと理解したのか。

 首を縮め、おずおずとあたしのところへ戻ってきたとき、男の子にしてはやわらかい頬の輪郭線が、赤味を帯びていた。


 伏せがちのまつげだって長いし、ホントに女の子みたいだよなぁ、星宮くんって。


「まぁ……嫌っていうか、ハートが鍛えられたかな……」


「ホントごめん! 僕、もう夢中で……佐藤さんを助けたくて……」


 うん、悪気はなかったんだよね。


「一生懸命になってくれたんでしょ? ありがとう」


 バツが悪そうにうつむいていた星宮くんは、ハッとあたしを見て、頭を掻いた。

 うんって、くすぐったそうにつぶやきながら。


「はぁ……あたしは何回シフォンケーキあげればいいのかねぇ」


「気持ちだけもらっておくよ」


「それだと、割に合わないよ!」


「気にしなくていいよぉ~」


 思わず食い下がろうとして、ふにゃあ、とほころぶ笑顔の蕾に、一時思考停止。


(……まただ……)


 無性に、胸がむず痒い。


 ふと、アーモンド型の瞳がやわらぐ。

 黒曜石を彷彿とさせる夜色。

 一方で、カーテンのすきまから射す陽光より、あたたかい……


「……僕さ、昨日佐藤さんが休講してるとき、ホントは心配でたまらなかったんだ」


 黒曜石の視線があたしを捉え、しなやかに伸びてきた両手が、あたしの左手を包み込む。

 血が行き届かない冷たさを、和らげるように。


「佐藤さんが辛いと、僕も辛いよ……だから、さ、今日は一緒にいてもいい?」


「星宮くん……?」


「元気になるまで……そばにいたいよ」


 ギュッと手を握られて、ちょっと、わけがわからなくなる。


「なんで、そこまで気にかけてくれるの?」


 あたしたちは、昨日知り合ったばかりなのに。

 いくら彼が親切とはいえ、その一言では説明できない何かが……そこにあるような。


「きみが、きみだけが、僕の支えだから。……今も昔も」


「……え?」


「言葉の通り、だよ」


 人が笑うのは、大抵嬉しいとき、楽しいとき。

 なのに、だ。今まで例外じゃなかった星宮くんの微笑みが、急に変わった……気がする。

 人の思考って、こんなに読み取りづらかったっけ……?

せっかくの連休なので、どしどし更新します!

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