*12* ガールズとーく!
「私のシフトがないときだったから……気づくのが遅くなって、ごめんね。連絡も取ろうと思ったんだけど……」
「すみません……色々ありまして。携帯も壊れたし」
「そう……辛かったわね。心細かったでしょう」
「あはは。ところがどっこい、そうでもなかったんです」
お粥を作ったりして、楓が看病してくれた。
死にかけたところを、雪が救ってくれた。
あたしの周りにはどちらか、もしくはどちらもがいて、今なんてさ、「独りになんてさせてあげない!」って、毎日バカ騒ぎ。
「大切な人がいるから、あたし、楽しいです」
なーんて。つい口走っちゃったら、失敗失敗。
飽きるほど一緒にいるのに、また会いたくなっちゃう。
雪に。楓に。
「よかった。……本当に」
胸を撫で下ろした弥生さんは、見えない肩の荷も下りたみたい。心配してくれてたんだなぁ……
「実はね、私が辞めたのは、歳が歳ってところもあったの。もう26だしねぇ」
あ、雪と同い年だ。ちょっと親近感。
「いい大人がぶりっ子はキツイわ。ちょうど潮時だったの」
だからあたしが気に病む必要はないのだと、言われた気がした。
「幸ちゃん、困ったことがあったら、遠慮なく連絡してちょうだいね? お姉さんが相談に乗ってあげるわ!」
「はい、頼らせてもらいます!」
ペコリ、と頭を下げる。顔を上げると、なぜかキョトンとしてる弥生さん。
「……幸ちゃん、かわいくなったわね」
「はいっ?」
「雰囲気がやわらかくなったと言うか、うら若き乙女そのものだわ。もしかして」
テーブルに肘をつき、乗り出してきた弥生さんの活き活きとした表情、見覚えあります。
「恋、してるのね!?」
やっぱりな!
ぐ、と口ごもり、否定しなかったその一瞬で、「きゃああ!」と弥生さんのテンションは急上昇だ。
「どんな人? あっ、もしかしてお店に来てたイケメン!?」
「楓は違います!」
「あらやだっ! あのイケメンを凌ぐイケメンがいるなんて!」
「いつからあたしは面食いになったんですか!」
「じゃあどんな人なのっ!」
マズイ。これは白状しないと帰してくれないパターンだ。
「……なんて言うか、かわいいです」
「まさかの年下!?」
「違います! あー……綺麗な黒髪で、いつもニコニコで、少年っぽいのに、ふいに大人っぽくて……」
――ずっと、きみを抱いてたいんだ。
……オイ、なぜ今思い出す。
空気読め、今は赤面してる場合じゃ…………
「……あああ弥生さん! あたし講義あるんで失礼します!」
切羽詰まって急ぐほどではない。
けど、今はとにかくこの場を切り抜けたかった!
「まぁ、それは大変!」と弥生さんもわかってくれて――
「あれ? おはよう佐藤さん。偶然だね」
荷物をまとめて立ち上がったところ、マイナスイオンを振りまくスマイル男子と行き会いました。
「星宮くん! なんでここに!」
「講義までの時間つぶしでね。佐藤さんは?」
「あたしは知り合いとお茶を……」
と弥生さんを振り返れば、え、ちょっと待って?
ホント待って、目ぇキラキラさせないで?
「かわいい……黒髪……ニコニコ…………あなたね!」
「え?」
「照れなくてもいいのよぉ! 幸ちゃんの、」
「違います、誤解です、間違いですッ!」
罪のない星宮くんを巻き添えにするわけにはいかない!
弥生さんに食らいつくあたしを不思議そうに見た後、星宮くんがペコリとお辞儀。
「初めまして。佐藤さんと仲良くさせてもらっています、星宮といいます」
「あら? 彼氏さんではなく?」
「お友達ですが?」
……星宮くん、神ッ!
女の子が苦手なかえくんを騙してメイド喫茶に連れて行ったご友人の名前は、下田さんと木村さんです。