表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/39

*11* 失礼ですがどなたでしょうか?

 昨日の今日でなんとなく顔が合わせづらくて、雪が起きてくる前に、家を出た。


「勢いで行動すると、こうなります」


 講義まで2時間。ぼっちのあたしに、なにをしろって?

 ブレザーの女子グループ。

 上司と部下らしきサラリーマン。

 アテもなくブラブラする街で、あたしだけが置いてけぼり。

 向こうから歩いてきたお姉さんだって、綺麗におめかし。

 これからお出かけなんだろう。

 ヒマ人女子大生とは大違いだなぁ。とか思っていたら。


 ガシッ。


 ……え? えぇっ!?

 すれ違いざま、なぜかお姉さんに肩つかまれたんですけど!?


「……あなた」


「ハ、ハイッ!」


「幸ちゃんでしょう!」


「ハイそうですッ! ……へ?」


「やっぱり! 会いたかった――っ!」


「なぁああっ!?」


 なんですかコレ! 見知らぬ綺麗なお姉さんから、熱烈ハグ!?

 てかなんであたし知ってんの!?

 半分パニックなあたしの疑問は、グスグスと涙ぐみ始めたお姉さんが解決してくれた。


「うっうっ……ホント会いたかったんだからぁ……ユキりんいなくって、やっちゃん寂しかったんだからぁ!」


 ユキりん、やっちゃん。

 そのワードを好んで使うのは、1名しか存じ上げておりません。



「ウソッ……弥生さん!?」



  *  *  *

 


 引っ張られる形で、最寄りの喫茶店に入る。


 髪をクルックルに巻いて、メイクもピンク系のプリンセススタイル。

 あたしが知る小悪魔系やっちゃん先輩とはまるで異なるオトナの女性が、向かいでコーヒーカップ傾けている。


「誰かと思いました……」


「でしょうねぇ」


 ナチュラルメイクってだけで、こんなに違うんだ。……いや、髪を切ってるのもあるか。

 あたしの視線に、やっちゃん先輩もとい柴崎しばさき弥生やよいさんが、自嘲気味にアッシュブラウンの横髪を耳にかける。


「私ね、お店辞めたの」


 お店……というのは、つまりあたしの元バイト先だ。

 でもなんで? 弥生さんは、新人教育を任せられてるくらい主要スタッフだったのに。


「本社から視察に来てたオーナーと大喧嘩しちゃって、辞めてやりました。店長には、迷惑かけちゃったけど……」


「……それは、いつ頃ですか?」


「そうね、去年の冬だったかしら」


「……あたしの、せいですよね」


 あたしが辞めるまで、全然そんなそぶりはなかった。

 そんな弥生さんが、オーナーと口論した。

 冬、それも去年の、となれば、時期は限られてくる。


 あたしがオーナーに見切りをつけられた、12月。


「ウチのバカ父がご迷惑をかけて」


「いーえ、たまーに思い出したみたいに来る、わからず屋のせい」


「でも、父が遊びほうけてなんかいなきゃ、取り立ての人もお店には……」


「幸ちゃん」


 遮った声は強い調子だったけど、続く言葉はやわらかなもの。

 

「お店のみんなは、誰も怒ってないわ。店長も、メイドも、現場のスタッフ全員。幸ちゃんが一生懸命頑張ってたのを見てきた人は、みんなわかってる」


 ブラックコーヒーに映るあたしは、なにを思ってる?

 テーブルの下で握り締めた拳は、なにを示すんだろう?


「あなたは、全然悪くないのよ」


 ……それは、安堵、だ。

 自分は必要とされていない。だから親に捨てられる、親しい人に切り捨てられる。

 違うよと、ただ否定してほしかったんだ。

幸ちゃんのメイド喫茶バイト時代のニックネームは、「難攻不落のツンデレユキりん」(やっちゃん先輩命名)です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ