表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/39

*1* 甘やかし警報発令中

 ピピピピッ、ピピピピッ――……


「……んむむ……」


 やかましいアラームを黙らせ、寝ぼけまなこを無理やりこじ開ける。

 白い朝陽。カーテンのすきまからのぞく、桃色の花吹雪。


「……ねっむ」


 なかば強引に起き上がろうとして、あれ? 身体が動かない?

 そしてお待ちになって? 腰に巻きついているものはなにかしら? ウソでしょ、待て待て待て……


 恐る恐る首だけでふり返れば、ふわりとかすめる、やわらかい黒髪がありまして。


「……うー……んぅ、あさ…………?」


「せっ……!?」


 ふわぁ、とあくびをして、ふにゃあ、とゆるむ頬。


「ユキちゃん、おはよぉ……」


 ゆるんだ腕が、あたしを反転させてまた腰に巻きつく。

 おかげで睡魔なんぞブッ飛んだわ。


「だから……勝手に入ってくんなって言ってんでしょーが、雪!」


 桜咲く春。

 どうやら恋人の頭も、お花畑になっているようです。



  *  *  *



「わざとじゃないんですー……」


 160センチちょいの小柄で、ベビーフェイスで、声変わりしたのか? ってくらいアルト寄りのテノール。

 ひとりじゃお酒も買えなさそうな小動物が、あたしの彼氏、月森つきもりせつ

 長い耳をシュンと垂らしたウサギが、リビングにて絶賛言い訳中である。


「お夜食作ろっかーって様子見に行ったら、幸ちゃん机で寝てて……風邪引いたらいけない! って、ベッドまで運んだだけで」


「月森さん、ウソの供述はよくないですよ」


「う……寝顔がかわいかったんだもん……ながめてるうちに、ぼくも眠くなってきちゃって……そこから記憶がないです」


「寝ぼけた末キッチリベッドに入るとか、あんたどんだけ行儀いい子なの」


「そう、悪気はなかったの!」


「開き直るな!」


 一喝すれば、雪はまたシュンとソファーで縮こまる。

 その落ち込みよう、こっちが悪者になったみたいで厄介だわ。


「生活リズムが全然違うんだから、あたしに合わせなくてもいいんだよ?」


「ううん幸ちゃん、ぼくはきみの保護者でもあるんです。気にかけるのは当然のことなのです!」


 最終兵器を投入してきやがったな。

 保護者の威厳なんてカケラもない雪だが、経済力があるのは事実で。


(まさか雪がねぇ……)


 未だ半信半疑なのは、ここだけの話。


「あ! パン焼けてるよ」


「うん」


「コーヒー淹れるね。徹夜明けはブラックだっけ。ヨーグルトは最近アロエがお気に入りだよね」


「えっと」


「今日のお昼、お弁当作ってるから持ってってねぇ~」


 面倒見るとは言われたけど……テキパキ準備する雪は、彼氏というか母親だ。

 男手ひとつで弟の面倒見てきた実績があるから、もはや手慣れたもの。ってか。


かえでは?」


「あれ? 幸ちゃんが着替えてる間に、起こしに行ったけど……」


「……うわぁああ! 寝すごしたぁあああ!!」


「ウワサをすればなんとやら」


 バァンッ!


 肩をすくめ終わらないうちに、けたたましい音を響かせてドアが開け放たれた。

 毎朝ダメージを受けて、よく壊れないものだと感心する。


「おはようユキさん、雪兄さん!」


「おはようバカ弟子」


「おはようかえくん!」


 リビングに特攻してきた縦に長いイケメンは、雪の弟、楓。大学3年生になりたてホヤホヤ20歳だ。

 徹夜明けは寝坊で大騒ぎだわ、それ以外も寝ぼけてあたしに抱きついてくるわの、困ったちゃん2号。


 前者は単純にうるさい。後者は雪がうるさい。

 まったく、この家の連中は、穏やかな朝を知らないのだろうか。


「爽やかスマイルで誤魔化そうって魂胆なんだろうが、寝グセついてるぞ」


「うわっ、マジ!?」


 どこどこっ? と焦がしキャラメル色の頭をさわりまくるバカ弟子に、前、と教えてやる甘々師匠ではない。

 おおよそ、パソコンとにらめっこしてるうちにテーブルとコンニチハしたんだろう。

 寝グセ直しよりも先に、やることがあるんじゃないのか、という冷めた視線を送信。


「……あぁそうだ! 今日提出のレポート、考察まだだった!」


 ウソでしょ、受信したよコイツ。


「ユキさんごめん、俺先に行ってるわ!」


「かえくん! ご飯は?」


「行きに買ってく。ありがと兄さん!」


 行ってきます! と慌ただしくリビングを出て行く楓。

 騒がしい足音、それから玄関ドアの開閉音がして、遅れて静けさがやってくる。


「嵐が去ったか……」


 一息つき、ほわほわ湯気が上がるコーヒーを口にする。

 とここで、ハッとしたように固まった雪に気づく。


「……ん? どうしたの」


「どうしよう幸ちゃん……かえくん、お弁当忘れてる!」


 言われてみれば……たしかにありました。キッチンカウンターのはしっこに。

 丹精込めて作ったんだろうお弁当の包みを手に、雪は真っ青だ。


「……おバカ」


 左手で眉間のシワを揉みほぐしながら、右手で預かる。

 残りのトーストはコーヒーで流し込んで、カバンを肩に。

 さーて、行きますかね。


「待って幸ちゃん!」


「む?」


 玄関で桜色のスプリングブーツを履いたころ、タタタと駆けてきた雪が腕を伸ばしてくる……って。


 ギュッ!


 反射的に目をつむった。

 けど、実際はサラッと髪を流される感触だけ。


「隠れてたよぉ」


 ハッとまぶたを上げれば、雪が手慣れた仕草で、ネックレスチェーンを整えてる。


「見えるとこに、つけててね?」


 にっこり笑いかけられて、なんだか肩透かしを食らった気分。


「ああそれと!」


 ――ちゅっ。


「これで忘れ物、なしっと!」


 ……まさかのフェイント。

 頬にしたのは、せめてもの手加減?

 だとしても、まんまと不意をついたやわらかさに、ジワジワ熱がこみ上げてくる。


「朝っぱらから、やめてほしいです……」


「わぁ、失敗したぁ……幸ちゃん学校に行かせたくなくなってきた」


「バカ言ってんじゃないの! 仕事あんでしょ!?」


「あはは、冗談だよぉ。行ってらっしゃい!」


 遊ばれてる……なんか悔しいから、フイッと顔を背けて。


「行ってきますっ!」


 変なところで律儀になってまぁ。

 降水確率は0%。だけど雪の甘やかしすぎ警報は、本日も発令中です。

お越しいただき、ありがとうございます!

おそらく作中一の男前であるヒロイン・幸ちゃんによる、イケメンばかりの逆ハーキャンパスライフストーリーです。


圧倒的ツッコミ不足のラブコメ9割、たまに思い出したようなシリアス1割でお送りいたします。基本幸ちゃんと雪くんがイチャイチャしてます。


「こういうしょうもないラブコメ好きよ」という方、☆評価やブクマ等いただけますと励みになります! ごゆるりとお付き合いくださいませ。


※本作のみでもご覧いただけますが、前作「ユキイロノセカイ」では、幸ちゃんの生い立ちや月森兄弟との出会いを描いています。合わせてご覧いただけますと嬉しいです。お、温度差だけにはご注意を……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ