蜂
点の集合体といって良いものなのだろうか、もはや一つの生命体と呼べるそれが
歓迎の挨拶をくれた
丸い頭に頭の先には2つの大きなハサミのような顎を持ち
頭の両脇には黒い丸がある
頭から下は丸い胴体とそれの2倍ほどあるお尻の部分胴体からは
細長い足が長く伸びていて、それぞれ自由に動かせるようだ
さらに胴体からは薄い羽が生え、視覚できないくらいのスピードでうんうん唸っている
どうやらこれは、この方は
(蜂のようである)
蜂「ありがとう、ありがとう」
(・・・)
感謝される言われがない、様子をただ見ている
蜂はひたすらに動き回り、”仕事”をしているようだ
(自分の思いついた”仕事”とはなんなんだ)
10個ほど穴の空いた住居で、穴に潜り、潜ったかと思うと
そこから這い上がり、何かを求めて飛び立っていく
(せっかくなので追いかけよう)
蜂「・・・・」
(これは、花だ)
色とりどりの花の間をうんうんと唸りを上げそれの合間を自由に飛び回る
えも言えぬ香りが鼻に入ってくる
蜂「これが、おいしい、おいしい、吸うの」
その蜂は目的の花に着地し、それの中央部にあるであろう蜜に
向け体を預ける
自身の顎を前後左右にぶんぶんふり、食事を楽しんでいる
蜂「ところであなたは、蜜が好きですか?」
(・・・)
何故そんなことを聞くのであろう、
それにきちんとした質問はこれが最初のはずである
蜜が好きかどうかなんてわかりゃしない、ただ
いい匂いな事だけはわかる
「なぜ、そんなことを聞くのですか?」
蜂「・・・」
蜂は花の色々を次から次へと渡り歩き、蜜を吸っていく
(やはり、お腹が減った)
空腹が自分の心を蹂躙する
いつから食べていないのであろう
蜂「そうですよね、あなたはなにも食べていません」
彼女のように自由に、飛ぶことができれば
好きな蜜を選んで、吸う事ができれば
自分もそうする、いや、何もしたくない
(なぜだろう)
再び目を開けることはおろか、動くなんて絶対にできない
できないどころか、しようとすら思わない・・・
蜂「・・・・」
蜂は草原を通り過ぎ、巣へと帰る
巣では自身の子であろう、ぶくぶくふとった頭の小さい幼虫が
母親の帰りを待っていたようだ
蜂はそれらに自ら吸った蜜を彼らに存分に与えている
(そうか子供か・・・)
男は目を開け、ぼーっとさざ波の奏でる音を聞いている
何か思いあたる節でもあるのだろうか、いや分からない
ただただ光の宿らない眼で波を見ている
(子供に餌を与えるのは当然だよな)
再び男は眼を閉じる
巣には何匹もの蜂が所狭しと群がっている
かつて幼虫だった蜂もいっぱしに”仕事”をしているようだ
巣も二周りほど大きくなっているように思える
自分に問いかけてきた蜂は子供を生むことに専念しているようだ
情景がコマ送りで流れ始める
巣が更に大きくなり、蜂達の数もかなり増えたようだ
蜂達が往来する様、それにより大きくなる巣とそして蜂達の数の
増加がナマナマしく映し出される
どれほど時が経ったのであろう、日が大地を焼いている
幸い木の影にある巣にはその熱はほとんど届いていないようだ
さて蜂たちがとても大事にしている子供がいるようだ
それもみるみるうちに太り、蛹になり
そして、一回り大きな蜂として巣の表に這い出した
(ああ、なんて綺麗なんだ)
表に出てきた蜂は金色を放っている、どうゆうことか周りの蜂達も
それの出現を祝っているようにせわしなくダンスと羽音を奏でる
蜂達「わいわい、ぼくらの成果だよ」、
「みんなで祝おう、ぶんぶんぶん」
(あっ)
一瞬であった、巣に一匹の鳥が近づき
その表に出たばかりの蜂と、その周りの蜂達
そして、あの最初の蜂をくちばしで器用についばみ
貪り、貪り、食い殺してしまった
(うわあ、、なんてことだ)
自分の肺から空気が抜け出し、それによる体積の減少により胸部に痛みが走る
鳥は満足したのか、羽をキュッと広げ何が起きたことかも知らぬ顔で
蜂達の城を飛び立つ
祝の肴を取られた祭り、喜びの光がフトフトフト消えゆく
(・・・)
残された蜂達は巣に這いつくばり羽をうんうんふっふっと
鳴らしている、鳥の来襲により飛んだ蜂も巣へと足をつけ
同じ用に羽を鳴らしている
興奮なのか悲しみなのか、
(わからない・・・)
蜂たちは途方に暮れ、その場に残る者や巣を離れるもの
様々であった
どんどんと蜂の数は減り、巣はこれ以上大きくならない
そして、巣のみが悲しげに木の影に残る