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ゆれろ、ゆれろ

「ゆれろ、ゆれろ、舟ゆれろ」


 無感情な少女の声が響く。

 声に呼応するように彼女が乗る小舟が大きく揺れた。

 不安定な小舟の上で、真っ白な装束をまとった少女は絶妙なバランスを保ちながら立っている。


 少し離れた位置からその様子を心配そうに見つめる大人が三人。

 村長と神主と、少女の父親だ。


「ゆれろ、ゆれろ、舟ゆれろ」


 少女は繰り返す。

 小舟はもうまともに立っていられないほど大きく波に揉まれていた。

 しかし、大人たちが乗る舟は穏やかな波に揺れる程度だ。


「ゆれろ、ゆれろ、舟ゆれろ」


 三度目の言葉を少女が口にした瞬間。

 ひときわ大きな波が小舟に打ち付けた。

 その余波が大人たちの乗る舟を揺さぶる。


 小舟は波に打ち壊され、少女の体が海へ投げ出された。

 小舟を取り巻いていた荒波が少女の体をもみくちゃにする。


 それでも、少女を助けようとする者はなかった。


 間もなくして、舟より大きな魚影がどこからともなく現れると、少女の体を一呑みにした。

 少女は抵抗もせず、運命に身を任せるように消えていく。

 巨大な魚は少女を呑み込むと満足したように姿を消し、波が凪いだ。


「……っ」


 すべてが終わると、少女の父親が嗚咽を漏らした。


「よし、帰ろう」

「お前の娘のおかげで今年も豊漁になるだろう。礼を言うよ」


 泣き崩れた父親の肩を軽く叩くと、村長は舟を漕ぎ出した。

 背後では少女が乗っていた小舟の残骸がぷかぷかと波に揺られていた。

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