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探検の書 [祝780,000PV突破!]  作者: 火取閃光
第6章 一期一会の魔法学園
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6-20 対立した親子

 悔しそうに俯くギルベルト。


 この事を彼は、敬愛する恩師でもあるベルボと志を共にした融和派の同士から聞いたそうだ。だから、例え自身が関わっていない事でもその屈辱を感じていた。


 フィデリオがベルボと出会う前の時の話である。俺がベルボ師匠と出会ったのは、俺がまだ見習い冒険者だった8歳の頃だ。


 当時の彼からはどこにでも居る好好爺みたいな印象で、ある意味俺の祖父母達と知り合いだった街の老人会とあまり変わらない感じだった。


 しかし、初依頼で祖父アランの友人である事を聞き、その都度依頼や手伝いなどで交流を重ねて行く過程で、教会に属する人達が師匠を敬う事を度々見て来た。


 そして、彼が聖剣シパールの担い手だった事を明かされた後、彼が迷宮王国にいるのは様々な柵が面倒になったからと冗談混じりに言っていた。


 その時は何か言いたく無い事情があったのだと思ったが、祖父アランの一団員もしていた事を知った時、強ち冗談でも無かったと思っていた。


「……なるほどな。それにしても……その現教皇のヨゼフって人物は何者なんだ? ベルボ師匠の家や血筋は、言ってしまえば教会設立当初からある由緒正しい家系だろ?


 それに加えて、師匠自体が伝説にも語られる聖剣の担い手でもあるとすれば、それに勝つだけの絶対的なモノが無いと相手にすらならない筈だ。


 だけど、実際には教団の内通者がいたとは言え師匠に勝って教皇へ君臨している。ギルベルト、それには何か理由があるのか?」


「……流石ですね。その通りです。ヨゼフ猊下は、ベルボ師匠の実の子供なんです」


「っ!? 襲名、か……?」


「正確には、教皇となる方はエアスライド家から選ばれます。それは、リオさんも仰った通りエアスライド家がドゥンケル様から直々に聖剣を継承した家系であり、最初の教皇になった者の家系だからです。


 元々、ベルボ師匠が教皇へなる筈でした。しかし、師匠は幼少の頃からアラン様と冒険者になり家を飛び出して居た為、他の枢機卿の方々に顰蹙を買いました。


 その結果、次の教皇候補は師匠の息子であったヨゼフ猊下が有力視される結果になりました。だけど……」


 言葉を詰まらせたギルベルトはチラッと俺を見た。その視線で俺に言葉の続きを促した様に感じ答えた。


「アラン爺ちゃんと共にベルボ師匠は聖剣シパールを継承したから、もう一度師匠を教皇候補へ押し上げる声が高まった、と……?」


「そうです。ヨゼフ猊下……旧名[ベルジェス・エアスライド]様は、ベルボ師匠の事もあって幼少の頃から師匠とは別々に暮らしていたそうです。


 そして、長きに渡り教皇へなる為の教育を受ける過程で過激派の思想に染まり、実の親である師匠と対立関係になりました」


「その結果が師匠の敗北、か……儘ならないな」


 ギルベルトが説明する限り融和派と過激派には、簡単には埋められない大きな溝がある。


 その筆頭が血で繋がった親子で、その関係の象徴にもなっているのだからベルボ師匠には悲しく思えた事は容易に分かった。


 もしかしたら、ベルボ師匠がギルベルトを含む孤児達の世話をしていたのは、己の子供に十分な愛情を与えられなかった罪滅ぼしだったのかも知れないとふと思った。


「そうですね……。それから、過激派は対立していた時に比べ嘘の様に静観する姿勢を見せています。恐らくは、自身の権力を盤石にする為に策を講じているのでしょう。


 そんな時に起きた教会内に教団の先兵が見つかった事です。師匠は、これを機に過激派の戦力解体と融和派の戦力増強の為に動いています。


 そして、戦力増強の為には……リオさん、エリザベート様のご協力が必要です」


「俺達が……?」


「私達が……?」


 ギルベルトの強い視線に対して俺とエリザベートはお互いに顔を見合わせた。


「融和派には実際に聖戦を共にする協力者(ミコ)が居ません。その為、過激派からは[夢想家集団]と侮られ、我々もそれを反論する術がありませんでした。


 しかし、今私の前には我々融和派に必要なお二人が居ます。お二人を我々教会のゴタゴタに巻き込むのはとても気が引けます。


 ですが、我々融和派が過激派を掌握する事が出来れば、お二人にこれ以上の無い支援が可能です」


「だから、俺達の事を教会には報告しない、と……?」


「そう言う事です。ご理解頂けましたか?」


 ギルベルトは恩人を利用している事を悔やみつつも、それしか無い事に対して己の無力を恨んだ。


 ルピスも黙っていたが、そんなギルベルトへ寄り添い手を握り締めて、まるで罪人が神に裁かれるのを待っているかの様に目を閉じていた。


「……お互いに利害は一致している訳だ。分かった。俺もこれ以上敵を増やしたく無い。エリーさんはどうする?」


「私も賛成よ。今は自分の事で精一杯だもの」


「まぁ、神輿担がれて利用されている感はあるけど、それは俺達もだからお互い様だな」


「っ!? ありがとうございます! この事は、今は俺と師匠の胸の内に仕舞い込んでおきます。そして、機を見てお二人の存在を出していく方針を師匠へ伝えますね」


 ギルベルトとルピスは、パーッと明るく笑い合い若干泣いていた。これを機に今日の話は終わりにして俺達は解散した。

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