6-13 新たな聖具
シャルロッテ嬢の手の中に現れた、彼女の背と同じくらいの大弓を見て驚愕した。
その大弓から放たれる気配、存在感の質には覚えがあった。それは、ベルボ師匠が過去に見せてくれた聖剣シパールと同じモノ。
大弓から放たれる輝きや気配、存在感の小ささなど違いはあれど、この目の前の武器が[聖具]であると言う直感の様な、根拠の無い自信の様な感覚を感じ取った。
「こ、これはっ……!?」
「リオ君、これって何? 何なのっ……?」
「聖弓、なのかっ……!?」
聖弓チェイルビース。世界中に十種類しか存在しない聖具の一つで、教会では所持者不明とされている武器だ。
教会に残っている文献では、真紅の大弓で矢は存在しない。その大弓を引く事で矢が自動で生成され、時間や空間、距離さえも超越して敵を穿つまで追い続けると言われている。
シャルロッテの手の中にある大弓は、真紅とはかけ離れて赤錆の様にくすんでいる。
その見た目はまるで、シャルロッテを真の所持者と認めていない為、聖なる気配や存在感、その能力自体を封印している様な印象を受けた。
しかし、俺の反応とは別にエファンとシャルロッテは別の意味で驚愕していた。
「っ!? この弓の事を、何か知っているのですかっ!?」
「えっ……? いや、逆に何で知らんの……? 知っているから、この弓が俺の利益になると思って取引したんじゃ無いの……??」
俺は彼等の表情を見て混乱した。
正直、最初はどうやって俺が聖具を探している事を突き止めたのか疑問だった。だが、彼等の表情を見てまさか取引の内容が聖具関連ですら無い事に思わず素の言葉を吐いてしまった。
「い、いえ……それは少し違います。この弓は、我が王家に代々伝わり引き継がれてきた国宝になります。古い文献を読み解けば、初代国王が使っていた伝説の武具、だと言う事しか分からない詳細不明の弓なのです。
一応、特徴と言えば、何故か王家の血筋にしか触れることが出来ず、更に何故か当代の所有者にしか身体の中へ収める事が出来ないと言う事です」
「ふむふむ……それで、俺にとっての本当の利益とは?」
エファンの説明に俺は冷静さを取り戻した。
「はい。フィデリオ殿は、歳星教団についてはご存知、ですよね?」
「っ!? 勿論です。つまり?」
「我々、王家の者は遥か昔より、歳星教団に命を狙われて来た過去があります。そして、それは国が滅んだ後もそれは変わりません」
「つまり、シャルロッテ嬢を庇護下に置くことで、教団の手先が彼女の命を狙ってくる。そこを俺が一網打尽にして、その都度情報を引き出せるって感じか……。
なるほどね……確かに、教団と敵対関係の俺にとって、喉から手が出る利益って事か……。シャルロッテ嬢、少し触るよ」
俺がシャルロッテに近付き、聖具かどうかを判断する為に実際に触れてみた。
「っ!? 迂闊に触ってはっ……!?」
シャルロッテは、自分達以外が触れれば怪我をする事を知っている為、身体を捩り隠した。しかし、俺が無理矢理大弓を触った事で瞬間的に目を瞑った。
「っ!? 痛ッ……!?」
バチッ! と言うまるで静電気が発生した様な音と共に俺と大弓が弾かれた。
それはまるで、大弓が俺を拒絶した様な感じで、触れた指は火傷した様にいつまでも熱く痛みを訴えていた。そして、俺はこれと同じ経験を思い出した。
「だから、言ったのにっ……!?」
「だ、大丈夫ですかっ……!?」
「うん。この魂を焼く様な痛み、ようやく確信を得たよ。この弓は、間違いなく聖弓チェイルビースその物だ」
最初にベルボ師匠の聖剣シパールを触れた時と同じ痛み。目では何も異常を確認出来ない指。ずっと焼きつく様な痛みがジンジンとしている。
俺は指を回復しながら、目の前の武器が聖弓チェイルビースである事に確信を抱いた。




