6-4 微調整
「あ、あの〜……」
「っ!? すみません。それでは、準備が出来次第始めて下さい」
「はい、フィデリオです。よろしくお願いします。
(さて、どうしたもんか……)」
この時、どうすれば無難に、収まる所に収まれるのか頭を回した。
まず初めに、彼女達同じく俺も中級アロー系魔法を放つ案だが、それはあまり良くない判断だと否定した。
言いたくないが、所詮中級程度の魔法で、アレだけ目立ち盛り上がってしまった。それが、悪いとは言わない。エリーの護衛である以上、ある程度の力は見せなくてはならない。
但し、その場合、力を見せ過ぎると目の前の二人やら、貴族達やら、学園やらを対応する羽目になる。それで身動きが取れなくなっては本末転倒だ。
だから、力を見せるタイミングは、ある程度学園内でエリーとの関係性を示した後が望ましい。
次に素人を装う案だが、これは最悪に等しい。その場合、彼女の従者として、護衛としての振る舞いで、公爵家の面子を潰しかねない。
そうじゃなくても、彼女には敵が多い。弱い護衛を雇い、その理由が男女の関係だと変な勘繰りをされれば、大問題間違いなしだ。
「(なので、結論として、エリーさん達の面子を潰さない程度の実力を示しつつ、目の前の二人に一歩劣る位に優秀な受験生って印象を与えなくちゃならないのか……。面倒だな)」
「どうしました? 次の方に順番を譲りますか?」
ジッと固まり、全く試験を開始しない俺を見て、試験監督者は心配する様に覗き込んだ。
「あっ、いえ、やります。
(さてと……妖精種の、ノムルス族の血を引いている事は、俺の見た目と彼女の言動で周囲にバレているも同然。そうであれば、属性は土。
一応用意していた軽量杖で放つのは、下級魔法ボール系。的はほとんど鉄製っぽいが、あの強度だと魔鉄との合金だと見て、破壊しない程度に威力を調整しなくちゃな……)」
頭の中で答えは出た。但し、ここまで威力調整をするとなると、基礎構築魔法よりも独自構築魔法の方が簡単に思えて苦笑いした。
本来の中級魔法なら、あんな大きいだけの的を粉々にするだけの威力は出せる。しかし、実際には彼女達が放っても壊れていない。それは、彼女達の技量が不足しているからだ。
基礎構築魔法は、一定水準の魔力や技量があれば、誰でも同じくらいの魔法が放てる。しかし、扱える魔力の絶対量やその技量の高低差によって、放たれた魔法威力が変化する。
その為、魔法の見た目や射程距離は同じに見えても、実際に的へ当たった時の威力は、俺と彼女達ではまるで違う結果になる。
具体的にはボール系ですら、当たれば的を木っ端微塵にしかねない。それは、色々な意味で困る。そして、俺は事前に用意した軽量杖を腕輪から取り出し魔法を放つ。
「我願う……我が身に宿る土魔力よ……我が杖に集まり、球を成し放たれよーー」
"HOPE561518CONVERGE578152241513COMPRESS91915816131513RELEASE5911521581"
土属性の魔法陣が展開される。既に何百発、何千発も繰り返して使った魔法だけに、呼吸を吸う様な感覚で発動する。
正直な所、外聞を考えて軽量杖を使ったが、普段から何も使わず魔法を使っている身としては、慣れていない為か微調整がとてもやり難かった。
「(今回は、魔法陣構築速度や発射速度も、追加で微調整しなくちゃな……。今後、その辺りも少し考えなくちゃな……)
ソイルボール」
普段なら有り得ない速度と威力で、魔法が放たれた。もし、仲間達の目の前でこれを放ったら、真面目に体調不良か病気を疑われるレベルだ。
真っ直ぐと放たれた土球は、そのまま的の中央を捉え、ミシミシミシッと言う蜘蛛の巣状の罅割れを作り出した。
その瞬間、さっきよりも小さめの歓声と拍手が上がった。周囲を見た感じだと、一部貴族達に警戒された様だが、そのほとんどはピクシー達をより警戒していた感じだ。
「はぁ……。
(良かった……的は壊れていない……。それに、周囲を見る限り、バレた様子は無いから、多分大丈夫だろ……)」
俺はホッと一息吐く。その瞬間、俺を警戒していた一部の貴族達から警戒心が解かれる。
どうやら、相手は上手く勘違いして、俺が魔法を放てられた事に安堵したと思い違いをしてくれた様だ。そして、試験が終わり、その場を去る俺をノフィーリアはジッと見ていた。
(……通常であれば、間違い無く彼も優秀なのだが、彼女達を見た後では、一歩劣ると言ったところか。しかし、魔力制御能力に関してはずば抜けて高い……高いのだが、何だこの違和感は……?)
ノフィーリアは、俺の魔力制御の高さと発動した魔法階位のチグハグさに違和感を感じていた。
「やるじゃないっ! でも、アタシ達の方がずっと、ず〜〜っと凄いんだから、調子に乗らないでね!!」
「ふふっ。先程の魔法には敬服しましたわ。これから三年間、切磋琢磨出来る様によろしくお願いしますわ」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
「ちょっと〜〜!? 何二人で仲良くなろうとしてんのよ!? アタシを仲間外れにするな〜〜!!」
(ふむ……確か、彼は現役の冒険者だった筈。戦闘中に培われた技術と考えれば、或いは……。まぁ、在学期間中に彼と接していればその内分かる事かな……?)
少し警戒が必要と思ったノフィーリアは、三人の優秀な生徒が仲良くしている姿を見て、少し気を緩めた。そして、俺の入学試験は終了した。




