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探検の書 [祝780,000PV突破!]  作者: 火取閃光
第5章 魔法公国
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5-38 二つ名と異名

そう言えば……

初投稿から3年が経過していた……

早かった様な、長かった様な……


世間一般で言う所謂駄作に付き合ってくださり

ありがとうございます


これからもエタらず、この趣味が続きます様に……

「グッ……ゲギャッ……グキャッ……!!」


 ジュピター商会へ襲撃(カチコミ)をしてから、大体二日が経過した。


 地面に横たわり、最早人の言葉すら喋っていないクローディアだった女性は、既に心を壊していた。


 その表情は、まるで恍惚の笑みを浮かべている。身体中の至る所から体液を撒き散らして、彼女の背中にはちょっとした水溜りが出来ている。


 そんな彼女を横目にして、俺は虚無感と悲哀感に苛まれていた。それは、勢いや精神的に病んでいるとは言え、人を痛め付ける事に快感を見出していた事が悲しく、そして虚しかった。


 また、情報を吐かせる為の拷問をしている最中、俺の身体は俺が思った以上にテキパキと最適解の行動していた。それはまるで、前世(まえ)にも経験していた様な動きだった。


 俺製の鉄屑(なまくら)で、彼女の身体を傷付けながら、他の部位を暴行して痛め付ける。そして、彼女が痛みに耐性を付ける前に、治癒と快楽を交互に与え、徹底的に感覚を壊した。


 そして、いつしか、彼女が拷問の痛みを快感に感じる様に壊して、情報を吐かせた。それは暗に、痛みや恐怖では人を完全に支配する事が出来ないって、忘れていなかったのだろう。


 なんて不便な転生なのだろうと改めて思う。


 ライザルの死の原因を作った彼女を廃人にしても、俺に溜まった怒りや悲しみが晴れる事は無かった。


 寧ろ、やればやるだけ、覚えていて欲しくなかった前世(まえ)の自分が明るみに出て来て、無性に悲しくなった。


 "馬鹿は死んでも治らない,,の言葉の通り、人の性根は簡単には変わらないのだろう。それこそ、俺の様な記憶が曖昧な者は、変われる筈も無く、性根が腐ったままだった。


「(こんな所に、いつまでも居る訳には行かない……)


 行くか……」


 俺は立ち上がると、そのままジュピター商会を出て、ギューフにある番兵所へ向かった。その手には、商会で得た賞金首や裏取引の証拠書類などの数々を魔道具に仕舞って。


 ーーー


 ーー


 ー


「お、おい……! アレを見ろよっ……!!」


「な、なんだ……? あれはっ……!?」


 ザザッ、ザザッ、と大きな袋を引きずりながら歩く少年の姿。それだけなら騒ぐことでも無い。しかし、その袋には血が滲み出ており、周囲の人々はその異様な光景を見て、恐れ慄いていた。


 そして、少年が番兵所近くの騎士宿舎へ辿り着く頃には、ギューフではちょっとした騒ぎになり、既に騎士達の耳にその情報が届いていた。


「そこの者! 止まれ! 此方に何の様だ!!」


 多くの騎士達が、慌ただしく出てくる。その表情は、フィデリオを警戒しているのかとても硬い。


「……賞金首を討伐した。生きている者もいる。確認してくれ」


 俺は引きずった袋を彼等の前に放り投げる。


 袋の中からゴロッと転がり落ちる生首、ケビンの死体を筆頭に転がり落ちた。


「っ!? こ、この者達はっ……!?」


 騎士達は、驚愕と同時に目の前のフィデリオを恐怖した。どれもこれも高額の賞金首。国を挙げても、討伐出来るかどうか分からない犯罪者達を、フィデリオは一人で殺してきたからだ。


 しかし、フィデリオにはそれが伝わっていなかった。彼の心はとても擦り減っていた。だから、相手の意図を汲み取れず、単純に知らないものだと勘違いを起こしていた。


「? あぁ、ギューフの裏通りに居たジュピター商会の奴等だ。そこの生きている女は、その商会長だ。そしてこれが、そこで手に入れた裏取引の証拠書類だ。


 他の死体は、全部魔道具に仕舞ってある。此処まで引きずったのは、魔道具に入り切らなかったから、仕方なくこうやって運んだ。騒ぎを起こしてすまない」


「い、いや……それは、良いんだ。すまないが、確認するから少し時間をくれないか?


 これ程の人数……二つ名持ちの高額賞金首の死体やあのジュピター商会の商会長となると、直ぐに換金出来ないかも知れない。それを含めて、少し時間をくれ……」


「? あぁ……別に、お金が欲しくて貴方達に渡したんじゃ無い。コイツ等が邪魔で、裏通りの連中に渡してやるのも癪だったから、連れて来ただけなんだ……」


「なっ……!?」


「だから、俺は賞金とかどうでも良い……。どうしても支払う必要があるって言うなら、貴方達が代わりに貰ってくれ……。俺は……俺は、しばらく独りになりたい……」


 この時のフィデリオに悪気は無かった。


 ただ、本当に、今直ぐにでも、独りになりたかっただけである。


 しかし、フィデリオの物言いに対して、騎士達は自分達を物乞いの様に思われたと、プライドを侮辱されたと感じた。


「ちょ、ちょっと待てよっ……! アンタ、俺達を舐めるのも大概にしろっ!! 確かに、俺達には、王族に仕える様な騎士の高潔な誇りは無い!


 だがな! 俺達には、俺達なりの吟味ってモノがあるんだ! アンタが賞金(ソレ)を放棄するのは構わない! だがな、それなら貰った後孤児院にでも寄付しやがれってんだ!!」


 フィデリオは、怒鳴り込む騎士達に目を丸くする。そして、自身の言動が如何に相手を侮辱していたのかを察して、頭を下げる。


「……そっか、そうだよな……。すまない。貴方達を侮辱する意図は無かった……。職務を妨害してすまなかった……」


「い、いや……俺の方こそ、いきなり怒鳴って悪かった。俺の方こそ、アンタの事情ってヤツを考えてから、言うべきだった……」


 俺達はお互いに謝ると、懸賞金についての様々な手続きを行なった。この手続きは、万が一無実の人を殺した場合、罰する為でもあった。


 騎士達は、急ぎ魔道具によるフィデリオの事情聴取を行う。そして、彼の証言に嘘偽りない事が証明され、死体も全て犯罪者である事が判明して、フィデリオは騎士達に解放される。


「リオ君! 無事、だった……?」


「オリビアさん、フィリップさん……ご心配をおかけしました。俺は……大丈夫、です」


「フィデリオ君……君は、これからどうするんだい?」


「……個人的な報復は、もう済みました。これから、Gランク迷宮で修業しようと思います。それで、お二人にお願いがあります。


 もし、俺の仲間……団員が、俺の居場所について尋ねて来たら、居場所を伝えないで下さい」


「……どうしてか、聞いても良いかい?」


 フィリップは悲しげな表情で、俺を見つめた。


 そして、俺は、彼の質問に自虐的な笑みを浮かべ答えた。


「俺は……俺は、今回を含む一件で、心の整理が付いていない事に気が付きました。それで、少しの間、独りになって整理を付けようと思っています……。


 それに、お恥ずかしいながら……犯罪者達とは言え、一時の感情で俺が彼等を殺しまくった事を、まだ仲間達に知られる勇気がありません……。それも含め、少し時間が必要だと思いました……」


「……分かった。君の友人として、その頼みを受けるよ」


「そ、そんなっ……!? 商会長っ……!!」


「オリビア、良いね?」


「……わ、分かり、ました」


 渋々とした表情のオリビア。


「二人とも、ありがとうございます。それじゃ、俺はもう行きますね……。お二人とも、お世話になりました」


 心に燻ったモヤモヤした気持ちを晴らす為、俺は独りGランク迷宮へ歩みを進める。


 後に、この時いた周囲の人達が、フィデリオの異様とも呼べる行動を見て畏怖した。


 更に、ジュピター商会の壊滅と高額賞金首の一掃。それを為したのが、Iランク迷宮の一件に関わった冒険者だと知ったギルドは、フィデリオへ[魔眼狼殺し]の二つ名を与えた。


 そして、フィデリオが死体や賞金首を引きずる光景を見て畏怖した彼等にも、その二つ名が伝わり、とある異名が付けられた。


 とある商人は言った。"賞金首を、死体を運ぶその姿は、最早人ならざる者,,だったと。


 とある騎士は言った。"まるでその視線は、目を合わせただけで、自身を死に追い込んでしまうほど冷たく凍えてしまう眼力,,だったと。


 とある冒険者は言った。"その小さな身体で一踏み、一踏み、地面を歩く姿から想像もできないほどの地響きがあり、それはかつて夢見た巨人そのもの,,だったと。


 これらに加え、二つ名が混じり、フィデリオはこう呼ばれた。


 [魔眼之巨人(バロール)]。


 それは、勇者物語に続き、古くから馴染みのある[幻想物語]と言うありふれた英雄譚を綴ったお話に出て来る悪名高き魔物の名前。英雄(ヒト)に討たれた魔王(バケモノ)の名前だった。

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