3-103 Iランク下層探索・6
「リオ君……本当に、本当にごめんにゃ……!!」
素材の回収が終わるとラートは、ゲロ吐きそうな、泣きそうな顔して再び俺へ謝罪した。
「もう……ラート君、流石にしつこいよ? 気にしていないって。あの状況で、ラート君の判断間違えを責めたら、俺は俺自身を許せないよ?
それくらい、仕方なかった状況だったんだよ? だから、これで気にするのはもうお終い! 気持ちを切り替えて」
不意に誤って仲間を傷つけた時の罪悪感は、俺にも覚えがある。新しい魔法属性を覚えるために、初めて軽負荷法を行った時だ。
だから、ラートの気持ちはある程度分かる。それでも、一団の代表として迷宮に居る今、頭を切り替えられないラートに少し鬱陶しさを感じた。
「で、でも……!!」
「ああ〜もう、鬱陶しい〜! ラート君! もう、ウジウジとしない! リオが気にしていないって、言っているんだから反省は後にして! あの状況は仕方なかった! 良い!?」
「にゃぁ……」
「おおー。メルルちゃんが怒った……珍しい……」
ここまで気持ちが沈んだラートもそうだったが、怒鳴るメルルも相当珍しく、俺は思わず拍手して関心した。
「リオ、ぶん殴ろうか?」
「いえ、結構です……」
"ギロッ"と睨みながら、拳を構えるメルルに、藪蛇だったと悟った俺は頭を下げた。
「アハハハ! ラートってば、最年長なのに立つ瀬無いね。まあ、アタイは、ラートと違って魔纏撃を使えるから、こんな事にはならなかったけどね!」
「あはは。シルルちゃん、楽しそうな所悪いけど、流石に言い過ぎですにゃ」
ゲラゲラとラートを煽る笑うシルルに、ナートは顔を引き攣らせながら注意する。
「にゃあ……リオ君、オイラにも魔纏撃、教えてほしいにゃ……」
「なら、俺も剣術の訓練に付き合ってよ。これで、本当にチャラね? まだ、気にするなら、今度美味い飯を奢ってよ」
「うにゃ……約束するにゃ……」
ここまで言われて、ようやくラートは気持ちを切り替えた。そして、お互いに技術向上のための訓練を約束して、軽く拳を突き合わせた。
「さてと、これで解決……って訳にもいかないっか……。リオは軽度の怪我を負ったし、ラートは意気消沈中だし……今日の探索は此処までにして、一度帰ろっか」
「いや、俺は、まだまだ平気だよ!?」
身体を休めたから、痛みや痺れも消えていた。だから、シルルに帰還を提案されて俺はムッとした。
「リオ、僕もシルルちゃんと同意見だにゃ。これは、友達としてではなく、一団の作戦指揮者としての判断にゃ。今日は帰るにゃ」
「っ?! チェッ! 分かったよ……」
「なら、せめて、薬草類だけでも採取して帰ろうよ〜?」
「金欠だから大賛成」
ため息をつき、頭に血が昇った熱を冷ました。ナートの俺を一切心配していない表情を見て、内心では子供かと自嘲して反省した。
霧を抜けて、森に戻り罠洞窟を中心に、周囲を探索して薬草類の採取に努めた。薬草類はあまり手をつけられていないのか、かなりの量が生えていた。
「ふぅ〜。結構採れたね〜」
「そうだね。意外と自生している物だね」
「さてと、これで本当に帰還……?!」
突如、ナートとラートが同じ方向に振り向いて固まる。
「ナート!! 聞こえたかにゃ!?」
「勿論だにゃ!」
如何やら彼等獣人種の耳には、何か大変な事に気が付いた様だ。
「な、なにっ!?」
「どうしたの〜!?」
当然、俺達も警戒するが、目視にも魔力探知にも反応は無い。
「助けを求める悲鳴だにゃ! それも、結構近い……!」
「ちょっと待ってよ! 罠の可能性は!?」
ラート達の表情を察すると、十中八九罠では無いと思った。しかし、俺はあえて罠の可能性を示唆した。それは、罠洞窟の落とし穴で声の罠があったからだ。
「それも、考えられるにゃ。でも、罠じゃ無くて本当に助けが必要な可能性もあるにゃ!」
「みんな、罠の可能性を頭の片隅に入れて、ついて来てほしいにゃ」
「ったく! これじゃ、俺だけ血も涙もない、人でなしみたいじゃん!」
「大丈夫! リオ君はそんなんじゃ無いって、分かっているにゃ!」
ラートとナートを先頭に走る。
彼等は近いと言ったが、俺達の耳に聞こえていない以上、そこそこの距離はある。
毒沼を越えていくと、徐々に空気中の毒が濃くなるのを感じる。
俺達にも、女性の泣き声に似た叫び声が聞こえた。
「っ?! 居たにゃ!」
「な、なにあれ〜!? 気持ち悪い〜!?」
「えっ!? た、蛸っ?! なんで陸地に蛸が居るんだよ!?」
目視すると全高5m前後はある、紫色の巨大な蛸が身なりの良い男性を絞め殺そうとしている。締め付けられている男性は、苦悶の表情で必死に耐えていた。
「それよりも、怪我人と捕まっている人が居るわ! アタイとラートは、そのタコって魔物を相手にするわ! ほら、ラート! 名誉挽回の絶好の機会よ」
シルルの声にハッとする俺は、周囲を見渡す。
木が折れた付近に気絶する女性と男性。
木に寄り掛かる様に座り、腹部から大量の血を流す男性。
顔色が悪く、時折吐血して苦しむ意識不明の女性。
右腕と右足を骨折させて、泣き叫びながら助けを求める女性。
「っ?! た、助けて……!!」
「よっしゃー! 任せるにゃ!!」
「援護は僕とメルルちゃんがするにゃ!」
「リオとアルガー達は、傷の手当とかよろしく〜!」
「了解! アル、行くよ!」
《グルルッ!》
ナートの指示に従い、各自分散して事に当たった。
「ひ、ひぃっ……?! ま、魔物っ?!」
「契約刻印開示! 大丈夫です! 彼等は俺達の仲間です。それよりも、お怪我は?」
[ステータス表示]と同様に、[契約刻印開示]と発すると俺の腕とアルガーの顔に魔法刻印が浮かび上がる。これが、魔物や人と主従契約した場合の証明になる。
「え? あ、うん……右腕と右足が折れちゃって……! って、エリックとウルティア! あそこに、倒れている2人を助けて!!」
「っ?! アル! 倒れている女性2人をコッチに連れてきて! 俺は、血まみれの大男を運ぶ! グルルは、荷物持ちらしき男性を引っ張ってきて!」
《グルルッ!》
《グルルッ!》
アルガーは、両手で女性達を傷つけない様に背負う。グルルは、気絶する荷物持ちらしき男性を口に咥えて引きずった。
「大丈夫ですかっ!? 意識はありますか!?」
「っ?……あ、ああ……なんと、か……っ!? ゴボッゴボッゲホッ!!」
吐血するエリックの顔色は悪い。
意識はあり声は聞こえているが、痛みや血で目が見えていない様だ。
「(腹が貫通していて、ポーションを飲み込む力が残っていなさそう……なら……)
"主よ、我等を作りし創造主よ。我等の同胞へ、身体を傷付けた同胞へ、主の御業を与え給え。敬愛する主よ。御身の癒しを与え給え。[ヒール]"」
「うぐっ!? こ、これは……!?」
突然感じる感覚に驚いたエリックは、目を見開き顔色も少し良くなった。
「取り敢えず、ポーションを飲めるだけまで、身体を回復させました。これを飲んでください」
「あ、ありがとう……! ぬぅ!? ま、魔物!?」
「彼等は俺の仲間です。敵ではありません」
「そ、そうか……すまない……」
俺の背後で、自身の仲間を背負っているアルガーを見たエリックは、咄嗟に武器を取ろうとする。それを静止させた俺は、左腕の契約刻印を見せながら、ポーションを渡した。
「ベルミナ! エリック!」
身なりの良い男性と共にラート達が、こちらに走ってくる。
「アゼフ! 無事だったのね!」
「ああ、彼等に助けてもらった! それよりも、ウルティアは!? 彼女の毒はどうなった!?」
「これから、解毒する所です。
"主よ、我等を作りし創造主よ。我等の同胞へ、毒に侵された同胞へ、主の御業を与え給え。敬愛する主よ、御身の解毒のお力を与え給え。[ポイズンデトックス]"」
「ううっ?! はぁ……」
毒に侵されたウルティアと呼ばれた女性は、一瞬苦悶の声を上げるが、身体を包み込む光に呼吸を落ち着かせた。
「更に追加で
"主よ、我等を作りし創造主よ。我等の同胞へ、身体を傷付けた同胞へ、主の御業を与え給え。敬愛する主よ。御身の癒しを与え給え。[ヒール]"」
解毒しても、毒で傷ついた身体の場合死にかねないため、念には念を入れて俺はヒールを掛けた。
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作者のモチベーション向上
やる気にブーストが掛かります!
是非ともお待ちしています!
ちなみに、蟻魔物にしても、蛸魔物にしてもまだ本編で出せない裏設定があるので、指摘されても答えられない事は予めご了承ください。




