3-87 面談
ライザルから頼まれて2日後の昼過ぎ。此処は冒険者ギルドに併設されている食堂だ。昼過ぎだからか、人が少なく疎だった。そんな所にルース姉妹と、俺の新一団の合計5人は座っていた。
「すまない。時間を作って貰えて助かる。フィデリオ君、久しぶりだな」
「お久しぶり振りです。其方が妹さんですか?」
「そうだ。ローズ挨拶を」
「お時間を作って頂き感謝します。私はルースの妹、ローズと申します。本日はよろしくお願いします」
馬人族の女性と言うよりも、少女に近い幼い顔立ちのローズは、緊張な面持ちで身体を硬くしていた。
「ご丁寧にありがとうございます。僕はフィデリオと言います。こっちの豚人族の男性はルカロディウス。こっちのパーソン族の女性はリファーラです。
事前に聞いているかと思いますが、僕の新しい一団員となる方達です。ローズさんは、Iランク冒険者で合っていますか?」
「はい、聞いております。私単独であればIランク上層・下域まで探索する事が出来ます」
「へえー! 凄い優秀ですね! では、お伺いしたいのですが、貴方の現状について教えて貰えないでしょうか? もし、嫌であれば断ってくれて構いません。
でも、教えて頂けるのであれば、ローズさんが考える冒険の方針も含めてお聞かせ願えれば幸いです」
「……分かりました。まず、私の現状ですが、私を含めて女性3人です。本当は後男性2人居たのですが、脱退しました」
唇を強く結び、一瞬俯くローズだったが、顔を上げて静かに語った。
「脱退の理由について聞いても?」
「ええ。元々、私は冒険者開始時から、私以外の残りの女性達2人と一緒に活動していました。一昨年の秋頃に冒険者になったので、そろそろ2年になります。
最初は2人も雑用の仕事や鍛錬に積極的で、とても充実していました。しかし、男性2人が加入するとその女性2人は途端に消極的になり、挙句の果てに男性2人に媚び始め寄生する様になりました」
「それはまた、何とも言えないっすね……」
「もしかして……脱退した男性達って?」
ローズが話す前に、話しずらそうにしていた態度がよく分かった。ルカは頬を引き攣り、リファーラは何か呆れた様な表情で問い掛けた。
「そうです。彼等は仕事にも鍛錬にも真面目な人達でした。最初は猫撫で声の2人に、私から見ても嬉しそうな表情を浮かべていました。しかし、次第に戦わない2人に呆れ果てて脱退しました。
それで、ようやく2人も元に戻ると思いきや、2人は他の一団に寄生しようと転々としました。私は別に彼女達が嫌いだった訳ではなく、むしろ新人時代に声を掛けて一団に誘って貰った側なので、出来るだけ側に居ようと思っていました。
しかし、最近は、碌に探索も依頼もせず、娼婦の真似事までしている彼女達へ、流石に付き合い切れ無くなりました。また、同時に私も新人でも無い為、一団の途中加入は敬遠されます。それを姉に相談していた所、今に至ると言うわけです」
ローズの表情は、呆れや怒りの感情は無く、むしろ悔しさと悲しさに満ち溢れていた。本当に、彼女は2人の事を好きな気持ちが伝わった。
恐らく、悔しそうにしているのは、落ちてしまった友人を、自分の手で救えなかった無力感によるものだろう。その為に、苦渋の選択だったと言える。
「なるほど……でも、単独でIランク上層・下域に到達出来るなら引くて数多だと思うのですが、それでも断られたのですか?」
「そうっすよ。それだけの実力があるなら、仲間になって欲しい一団はかなり居るはずっすよ」
「それで、断られるなんて……何か事情があるのかしら?」
確かにローズの言う通り、通常Iランク一団で新しく仲間にするなら、新人の方が選ばれ易い。それは、前世の会社と同じ様に未経験者の方が、自分達の色に染め易いからだ。
勿論だが、これはあくまでもIランク冒険者特有の空気だ。Hランク以降は、簡単に命が無くなる分、基本的に性格よりも実力を重視される事は当然だ。
例え性格が聖人の様に凄く良い人だったとしても、実力が伴っていなければ邪魔でしか無い。高位冒険者であれば、その辺は理解している為、一団内の入れ替わりも激しい場合が多い。
「そうですね……恐らく、私の戦い方だと思います」
「戦い方、ですか……?」
「はい。馬人族は姉ルースの様に、槍や剣を用いて戦う事を好みます。私も槍を使えなくないのですが、基本的には弓矢での狙撃を希望しています。
幼少の頃から姉との修業で勝てなかった私は、弓矢を必死に鍛えました。その結果、今では槍を扱うよりも弓を扱う方が、戦い易い様に感じています。
一団から求められる戦い方と私自身の希望が合わず、これまで断られてきました。どうか、そんな私を仲間に入れて貰えないでしょうか? お願いします……!!」
テーブルに顔が、スレスレになるまで頭を下げるローズ。その必死さからは、前世の就活敗北者と呼ばれた人達と同じ空気感を漂わせていた。前世では鏡で何度も見た、不安と緊張が入り混じったあの顔だ。
「2人はローズさんと話してどう思った?」
「僕は、優しくて真面目な人だと思ったっす」
「私も性格的な相性は良さそうって思ったわ」
「俺も同じだな。ローズさん、一応、聞いておきたいんだけど、敵の状況次第で槍を使って欲しい場面があるんだけど、それの対応は出来る?」
「勿論です……! でも、基本的に弓矢で狙撃がしたいです。駄目でしょうか……?」
「いや、俺もローズさんと同じ感じだから気持ちがわかるよ。ローズさん、俺って前衛と後衛どっちだと思う?」
「えっ? フィデリオさんって妖精種だから、後衛ですよね……?」
戸惑いながら、自信がなさげに、消えそうな儚い声でローズは答えた。
「残念。俺個人としては、前衛を希望しているんだ。勿論、魔法も得意だけどね。今の一団で求められているのも後衛だ。でも、性格的には前衛を希望しているんだ」
「……っ?! 私と同じですね……!!」
初めて見る同類を見て、驚愕と歓喜の表情をローズは浮かべた。その表情を見て、彼女も俺と一緒なんだと嬉しくなった。
「うん、それで俺は、後衛が出来る人財が凄く欲しかったんだ。是非、俺達と一緒に仲間になって欲しい。
俺達は、世界中を旅して回って、色々な景色や美味しい食べ物を見つけたいと思っている。そして、その一環に迷宮探索で強くなりたいとも思っている。
もし、ローズさんが良いって言うなら、俺達と強くなって世界を回ろう。俺達の事情を理解した上で判断を任せるよ」
「いえ! 此方こそ、よろしくお願いします!」
「なら、お互いに歳も近いんだし、タメ口で良いよ。仲間なのに口調が硬すぎる。よろしくな、ローズ」
「うん! よろしくフィデリオ! ルカロディウス! リファーラさん!」
「僕はルカで良いっすよ。よろしくっす、ローズ」
「私もファーラで良いわ。歳上だけど、1人だけさん付けは仲間はずれ感が凄いわ……」
「俺もリオで良いよ」
「うん! ボクはローズ。改めて、リオ、ルカ、ファーラ、よろしくね!」
「ふふ。良かったな、ローズ。フィデリオ君、ルカロディウス君、リファーラさん、妹をよろしく頼む」
「此方こそ、良い人財を紹介してくださって、ありがとうございます」
年頃の少女の様に笑ったローズは、まさかのボクっ娘だった。元気で朗らかに笑う妹の表情を見た姉は、肩の荷が落ちた様に安堵する。そして、お礼に食事の代金を置いてギルドから退出した。
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