3-86 聖剣シパール
ようやく、ベルボ修道士のフラグが回収出来た……!!
楽しんでね!
ベルボ修道士の右手から光が迸る。
その瞬間、光の粒子が形を作り、一切の穢れがない程の純白な剣が顕現した。
聖装武具/聖具シパールとは、まるで人々の祈りや願いが、そのまま具現化した様な代物だった。
鍛冶屋の孫として、これまで多くの武具を見て来たつもりだ。そんな俺から見ても、聖剣シパールは、本当に武器として見て良いのか分からない程に不思議な感覚に陥った。
「こ、これが……! 聖剣シパール……!?」
「聖具全般に言える事ですが、共通した能力とその聖具特有の能力があります。フィデリオ君、シパールに触れてみて下さい」
「えっ!? い、良いのですか……!? では、失礼します……痛っ?! こ、これは……!?」
「"キュア"……魂にまで響く痛みが感じ取れたでしょう? しかし、本来一般人であれば聖具を視認も、接触も出来ません。聖具に扱う為には、仰力に覚醒している事が前提条件となります。
今のは、聖具が発する拒絶反応だと思って頂ければ良いです。故に通常の武具や魔武器とは、全くの別物となります。今の感覚を忘れる事はないと思いますので、探す際にはこの様な反応の武具情報を集めて下さい」
「わ、分かりました……それと治癒して頂き、ありがとうございました」
回復系回法"キュア"で治ったはずの指をさする。ベルボ修道士の指示の元、軽く触れようとした指から伝わる魂への拒絶反応。普通の痛みとは違う、魂その物へ直接痛みが生じた様だった。
そこからは、ベルボ修道士が懐から取り出した魔道具の契約書に血印をした。内容は、今聞いた内容を、仰力未覚醒の人に安易に言い触らさない事、歳星教団関係者では無い事などだ。
「それでは契約も済みました事ですし、早速修業に取り掛かりましょうか。まずは、魔力同様に仰力も感知する事から始めます」
「ですが、仰力に覚醒してから瞑想とか色々と試しましたが、何一つ効果はありませんでしたよ? 僕は、なにかやり方を間違っていましたか?」
「ええ、そうです。仰力は、魔力と違って感知方法がまるで違い過ぎます。感知する為には、我々神殿関係者の協力が不可避となります。
フィデリオ君、普段から君が行なっている祈りを行なって下さい。その間に私が貴方の仰力を感じ取れる様に手解きをします」
「よろしくお願いします」
「"主よ、我等を作りし創造主よ。我等の同胞へ、我等の新たなる同志へ、主の御業を与え給え。敬愛する主よ、新たな同志たるこの者に、主の御加護を与え給え! [ブレス]"」
魔語詠唱の様にベルボ修道士が、軽く俺の頭を触れる。途端に、俺の魂と"天上のナニカ"が繋がった様な感覚と共に、今まで感じられなかった魔力とは別の力が身体から溢れ出した。
「ーーっ!? おぉ……!?」
「フィデリオ君、如何ですか?」
「いや、凄いです……!! 温かい、って言うんでしょうか……身体の奥底から溢れる温かい源。今まで、堰き止められてきた何かが無くなり、僕の魂……? 恐らく神様と繋がった感覚があります」
「その感覚です。後は魔力同様に感知して、放出する。やり方はほとんど同じです。これから毎日、祈りと同じくらい行いましょう。実践的な回法を使うのはそれからです」
「はい!」
「時にフィデリオ君は、無属性魔法は使えますか?」
「あ、はい! 最近でありますがようやく出来る様になりました。それが一体?」
「ええ、それなら、融合魔法が出来る様になってからで構いません。無属性魔力と仰力を、融合させてみると良いでしょう。そうすれば聖属性魔法が使えます」
「聖属性……!? それは、回法と何が違うと言うのでしょうか……?」
魔法の新たな可能性に、息を呑み込み驚愕する。そして、同時に何故幼少の頃に祖父キースが、聖属性の存在を教えてくれなかったのかを理解した。
「これから教える事ではありますが、回法は性質上、回復や防御、付与などに支援に特化しています。残念ながら、魔法同様に攻撃する事には向いていません。
その為、攻撃を可能にしたのが聖属性魔法です。習得難易度は、2属性融合魔法よりも難しく、3属性融合魔法と大差ありません。もし、歳星教団との戦いを考えているのであれば、是非挑戦してみて下さい。
聖属性魔法は性質上、どの属性にも有効に攻撃を与える事が出来ます。私個人の考えではありますが、覚えておいて損はありません」
「なるほど……!! 分かりました。ようやく中級魔法が出来る様になった程度なので、まだまだ先のことですが、情報をありがとうございます!」
「いえいえ、これから暇な時にまたいらして下さい。私は基本この神殿にいるので、来た時に回法を伝授しましょう。約束ですよ?」
「勿論です! 此方こそ、これからよろしくお願いします!」
早く使いこなしたい、魔力とは違う新しい力に夢と希望をのせて心が昂った。まるで、新しい玩具を買ってもらった子供用な気分だった。
「おーい!」
「あ、ライザルさん! こんにちは! 久しぶりですね」
「おう! お前もな。今日は休暇か?」
「そうですね。ライザルさんもですか?」
「おう。買い物帰りだな。おっと、そういやなんだが……この前、お前に言っていた事なんだが……」
「あ! そう言えば、如何なりましたか!?」
ライザルの言うこの前の事とは、同棲して1年目記念のお祝いにアミラーシアへ結婚を申し込む話だ。
「おう! アミラは今、妊娠2ヶ月だそうだ」
「っ!? おめでとうございます!!」
「あはは! おう、ありがとうな」
「今度、ご祝儀持っていきますね!」
「いい、大丈夫だ。流石に歳下の後輩から貰えねぇよ。それに、俺も冒険者だ。蓄えくらいは余裕にある。気にすんな」
「そうですか……じゃ、なんか困ったら言ってください。出来る範囲でなら手助けしますよ」
嬉しそうに胸を張るライザルは、照れていながらも祝儀を断った。確かに、俺の経済力では、端金程度になる事は分かっていた。
また、お金に余裕があるのかと言えばそうでも無いない。ライザルは、それを理解しているからあえて断った。その優しさに嬉しい反面、何も出来ない子供扱いされている事へ悔しさを感じた。
「おう。そう言えば、聞いたぜ? 魔物手懐けたんだって?」
「よくご存知で……そう言えば、俺達、最近ようやく下層の最初まで行ける様になったんですよ。彼等には運搬人みたいに荷物を持って貰っているんですよ」
「カァーッ! もう、下層に到達か! 早えよ! でも、おめでとうな!」
「ありがとうございます! まあ、俺達Iランク迷宮を踏破したら新しい一団を各自で作るんで、今はその仲間達を鍛えている最中なんですけどね……」
「ヘェ〜。ま、お前等の事情だし良いんじゃねぇか? あ、いや,待てよ……なあ、リオ、聞いて良いか?」
「何ですか?」
何か深刻そうな面持ちで、相談するライザルに失礼と思ったが、祝儀の挽回が出来ると俺は思い身を乗り出した。
「お前の新しい一団員って、まだ空きはあるか?」
「っ!? 紹介してくれるんですか!? 十分にありますよ!」
「なら、仲間のルースって奴、覚えているか? 馬人族の女性で昇格試験の時にお前を担当した奴なんだけど」
「勿論ですよ? ルースさんが?」
馬人族のルース。キリッとした顔立ちで凛々しい雰囲気、少し冷たそうな言葉遣いだが、所々に優しさが含まれる女性だ。
「いやな、最近……つっても2ヶ月ぐらい前か……? ルースの妹がアイツに相談して来てな。なんか、仲間と方針が合わなくて何処か一団を紹介して欲しいって、連絡が合ったんだわ。
俺達も、そこまで知り合いの冒険者が多いって訳じゃねぇが、居たとしてもHランクか、お前等くらいだし正直困っていたんだ。
悪い子じゃ無いんだけど、俺達の一団に入れるには力不足でな。如何するか悩んでいる時に、お前の話を聞いて、ピンッと来た。で、どうだ?」
「1度、その人と面談しても良いですか? 正直、俺の一団が人数足りていないんで、正直欲しいです。後は、俺の仲間と性格的に合うか、冒険の方針が俺達と合うかとか知りたいですね。
場合によっては、俺の一団じゃ無くて、ラートやメルル達の方にも出来るって相手さんに伝えてくれませんか?」
例え仲の良い兄貴分からの紹介とは言え、俺の一存で決めるのは違うと思った。現状、一団員のルカとファーラ達の方が大事だと考える俺は、彼等とルースの妹が性格的に合うかを確かめたかった。
「了解だ。ありがとうな。最近、ルースの奴がこの話題で頭を抱えてな……。俺もどうにかしてやりたかったんだ。取り敢えず、近い内にルースから連絡があると思うから、冒険者ギルドに伝言しておくな」
「分かりました。その時は是非お願いします」
俺達はその場で別れ、帰宅した。家に帰ると小柄熊が両親の手によって、家猫の様にモフられていた。雄熊なのに可愛い奴だと思いつつ、俺も彼を撫でて1日を過ごした。
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