3-84 神話
個人的に良い神話を作れた気がする……!!
楽しんでね!
両親が休みの日に俺は、アルガーの世話を両親に任せて1人神殿に向かっていた。ある人物に、可及的速やかに行わなければならない、お願いがあったからだ。
「あっ! ベルボ修道士!」
「おや? フィデリオ君じゃ無いか。こんにちは。本日はどの様なご用件が?」
「こんにちは! えーっと……今日は、ベルボ修道士に折り合ってご相談がありまして……」
「ふむ? 取り敢えず、こちらに来てくれ。ここでは何だ、個室で話した方が、話しやすいだろう?」
「助かります!」
神殿内部に案内する彼の背を追う様について行くと、懺悔室にも似た狭い個室部屋に着いた。
「それで、相談事とはなんだい?」
「あ、はい。俺に、回法を教えてくれませんか!?」
「ふむ? そう考えた経緯について教えてくれないか?」
俺は前回の迷宮探索時に負った傷について説明した。右腕が千切れかける重傷を負った事や、偶々持っていた祖母のポーションで、一命を取り留めた事などを話した。
「なるほど……腕を怪我して……」
「はい。本当は、俺じゃなくて、冒険者をやっている回法使いに、仲間になって貰えたら最高何ですが……。俺、今まで冒険者を見る事が結構ありました。
でも、不思議とベルボ修道士みたいな修道服や、それに関係する道具を持っている格好の人を見た事がありません。そこで、確証はありませんが、神殿出身の人は冒険者にならないのでは? って思いました」
「なるほど……だからこそ、そう言う人を探して勧誘するよりも、自身で身に付けた方が早いと思った訳ですね?」
「ええ、そうです。話が早くて助かります。また、仮に居たとしても、そう言う貴重な能力を持っている人は、既に何処かの一団に加入している可能性が高いと思いました。
今回、俺の怪我は、偶々祖母から貰ったポーションがあったから、助かった様なものでした。しかし、連戦や激戦の中で攻撃を受けない、或いは怪我しないなんて状況は、あり得ません。
その時に、今回みたいに、都合よくポーションがあるとも限りません。だからこそ、回復役の人材又は回復の技術が必要だと思い、本日は参りました」
「なるほど……とても身勝手な理由ですね」
「はい。身勝手で恥知らずな、お願いだと自覚しています」
「くっくっく……なるほど、自覚済みでしたか」
「どうか教えて頂けないでしょうか?」
正直言って、ベルボ修道士からしたら傍迷惑なお願いだと自覚している。
彼は祖父の友人で、俺も何度か依頼で関係を築いた仲である。しかし、彼には、俺に回法を教える義理は合っても義務は無い。ただ、俺には、他の使い手の伝手が無かった為、頭を下げる以外の方法が無かった。
「ふむ……フィデリオ君、それを答える前に私の話を聞いてもらえないかな?」
「正直、内容によるとしか……」
「最後まで聞いてから決めて下さい。先程、君は"神殿出身者は冒険者にならない"と言う可能性を指摘しましたよね?」
「確かにそう言いました。間違っていましたか?」
「ええ。それは誤りであり正解です」
「誤りであり、正解……?」
眉を顰めて、俺は彼の言葉の本質は何なのか考えた。
「ええ。私達、神殿出身者は全員ではありませんが、一部冒険者として活動する者達がいます。それを私達は[聖装騎士団]と呼んでいます」
「聖装、騎士団……?」
「そうです。神殿が保有する私団です。その活動は、魔物や盗賊などに怯える孤児達や、信者達を守る盾であり、脅威を取り除く剣であります。
フィデリオ君は、神殿に伝わる神話をご存知ですか?」
「えっ? えーっと……すみません。分からないです」
最初の印象が、後に引きずってしまう事は良くある事だ。例に漏れず、俺もその1人だ。転生自覚当初の現実逃避以降に感じた神様への不信感や疑念などが、心の奥底で沈んでいた。
その為か、何処か神殿に足を運ぶ事がそれ程多くは無かった。それ故に、俺はこの神様が実在する世界の神話について、一切興味が無かった。よく考えてみれば、結構おかしな話だった。
今まで、何とか有言実行してきた俺でも、"神殿に向かう"と言う簡単な事でも、依頼を絡めないと行けなかったのだから。
「では、今度神殿に来て話を聞いてみて下さい。毎週、カンダイの日の夕食前の鐘が鳴る頃に、孤児達による朗読会が一般公開されています。
詳しくは省きますが、我々人類はその昔、邪神エンログリスと呼ばれる神を騙った男に甚大な被害を被りました。その男はとても強力な存在で、人々は恐怖に支配され、暗黒な時代を過ごしていました。
そこへ創造女神ファゼレッタ様は、邪神エンログリスの暴挙を止めるべく戦いを挑みました。勿論ですが、神々の戦いに人類や動物達は、耐えられません。それを分かっていた女神ファゼレッタ様は、力を使い避難所を作りました」
「避難所……? っ!? もしかして、それって……!」
「ええ。ご想像通りです。これが、迷宮が作られた経緯だと言われています。話を続けます。
女神ファゼレッタ様と、邪神エンログリスの激戦は、ほとんど互角の戦いでした。しかし、女神ファゼレッタ様は、我々人類を巻き込まない様に、お作りになった迷宮が仇となり、あと少しのところで敗北し、封印されてしまいました。
また、邪神エンログリスも、女神ファゼレッタ様によっていくつかの権能を封印され、激しい消耗故に休息を余儀無くされました。再び訪れる暗黒時代。もう、2度と照らされる事がない世界に人々が絶望したその時、奇跡が起こりました」
彼の語る1つの神話と言うか歴史は、想像を超えるほど惹かれる物があった。
「き、奇跡……!!」
「なんと、女神ファゼレッタ様は、封印される直前とある10人の人類に力を与えていました。その10人と言うのが後に、十傑神や灯の神々と呼ばれる、女神ファゼレッタ様の従属神様方になります。
具体的には現在、信仰されている女神イシュリナ様達を含む神々になります。また、この時に女神ファゼレッタ様から受けた力の譲渡を簡略化した物が、我々の祝福、ステータスになったと言われています」
「ステータスって……そう言う事だったのか……」
「彼等は死闘の末、何とか邪神エンログリスを討ち果たしました。しかし、彼は最後の最後で、この世界へ呪いを残しました。
それは、女神ファゼレッタ様がお作りになった迷宮に避難した一部の生き物が魔物へと変質して、人々を襲う呪いでした。女神ファゼレッタ様も1度は、迷宮の破壊を行使しました。
しかし、邪神エンログリスとの消耗を回復出来ず、また、邪神エンログリスが迷宮を強化した事で、破壊不能の存在になりました。故に女神ファゼレッタ様は、十傑神様方にこの世界を任せて、最後の力を振り絞り迷宮を封印しました」
語り合えた彼の話に思わず、拍手をして感動を伝えると、彼は恥ずかしそうに照れていた。しかし、その時ふとある事に気が付いた。
「あれ? でも、それなら何でIランク迷宮には、鍵が無いんだ……?」
彼の話では、迷宮は封印された筈だった。迷宮下層の最深部に居る守護魔物討伐後に得られる、迷宮鍵印が封印を解く鍵だと言うことも分かった。
だからこそ、Iランクだけ鍵がついていなかった事が、分からなかった。
「それは、当時Iランク迷宮に避難していたのが、人類と少数の獣や植物だったと言われています。また、邪神エンログリスの影響で変質したのは、何も獣だけではありませんでした」
「っ!? まさか……!? 人類も……!?」
「そうです。獣人種や妖精種を筆頭とした種族が、そうだったと言われます。軍事帝国ゾルピデンの根本にある人間種至上主義の考えは、恐らくここから来ているのでしょう。
そして、死んだ邪神エンログリスは、死してなおその遺体は消滅させることが出来ず、大地を、植物を、獣達を汚染し続けました。
十傑神様方は、この状況を打破する為に女神ファゼレッタ様から頂いた武器に、邪神エンログリスの遺体を封印しました。そして、今の世界になったと言われています」
初回下層突入時、あの空気が懐かしいと思えたのは、俺の妖精種の血が故郷に帰省した様な理由だったのだろう。俺の心は、違和感がストンッと落ちて無くなる感覚があったからだ。
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