3-83 目標
「っと言う訳で今後、もしかしたらだけど俺達の両親であり、師匠に当たる人達が、時折みんなの修業を見てくれるかも知れない事が決まりました」
ギルズ達を含めた仲間達をいつもの場所へ集めて、俺は両親の提案について事細かく説明した。
「えっ!?」
『……』
ルカロディウスはギョッとして驚いている。しかし、対照的に他のメンバーは、如何やら反応に困っている様で、口を半開きにして、ポカーンっとした表情を浮かべている。
「あ、あれ? ルカ以外、無反応……? これ、結構凄い事なんだよ」
「い、いや……リオ達ですら凄いのは良く分かっている……。歳下なのに、俺達よりも遥かに強い……そんなお前等を育てた人達なんだろ?
それに、お前等がそれだけ尊敬しているって事は、凄いって事は分かった」
「でも、凄いって事は分かっても、逆にそれだけしか分からないって言うか……はい……」
「あ〜なるほどね。俺達の両親達は、5年前からEランクだよ?」
『……えっ?』
その瞬間、静寂と共に時間が止まった様だった。まるで現実味の無い俺達の態度に、彼等は信じられ無い物を見た表情だった。
「そうにゃ。実際、僕達を育てる為に数年間、冒険者を休止していたから昇格していないけど、間違い無くもっと上に行くにゃ」
「そうですにゃ。だからこそ、僕達は早く一人前になって、本格的に冒険者を再開させてあげたいんですにゃ」
「そうだよね〜。アタイ達もそうだけど、迷宮探索すると泊まりがけになるから、多分気を遣われているんだよね〜」
「それな。じゃなきゃ、迷宮探索をして遅くても3日目に帰ってるなんてあり得ないわ」
「俺達の"子供扱いされたく無い"って気持ちは、俺達自身の冒険者としての自覚から来ているんだ。父ちゃん達が、追いかけている夢に全てを傾倒して欲しい。
だって、俺達だって父ちゃん達と同じだから。夢に全力で向き合えないってさ、例え理由が俺達の為だとしても悲しいじゃん。
ってアレ? みんな、固まっているけど……大丈夫……?」
あまりにも無反応で、まるで氷漬けにされた死体の如く彼等はカチコチに固まっていた。
『……ええーーっ!?』
瞬間、空気が爆発する勢いで驚嘆する叫び声が鳴り響く。頬が緩み、興奮しているのか顔が真っ赤に燃える。
「だから言ったじゃん。結構、凄い事って。父ちゃん達に本気で教えを願ったら1日の報酬額だけでも、1等地に豪邸が立つ程の金額を用意して貰わなきゃ、本来駄目なんだよ?
それを、父ちゃん達の気分転換って名目で、無料にして貰えるんだから、超お得だよ」
俺自身も気分が良かった。尊敬して敬愛する家族が、冗談無く凄いって自慢出来る事は、俺自身の事では無いが照れる気持ちで胸が一杯だった。
「なっ! えっ? は、はぁー!? Eって!? 嘘だろ……!?」
「そ、そんな凄い人達に……私達も教えて貰える……!!」
「本人達は気分転換って言っていたから、そう何回も頻繁に来る訳じゃ無いと思うけどね……」
「でも、でも、でも……!! それは、凄く光栄な事だよ! Eランクって最早、英雄の領域だよ……!」
「でも、リオ君、アランさんは来ないのかにゃ?」
「えっ? アラン爺ちゃん? さあ? 最近、知ったんだけど、アラン爺ちゃんって、キース爺ちゃんと一団を組んでいるっぽいんだよね……。
この前、アリア婆ちゃんから聞いたんだ。それで、2人とも忙しくて1〜2ヶ月帰って居ないらしいよ」
「えっ? それって大丈夫かにゃ?」
「アリア婆ちゃんが言うには、本当に忙しいと半年から1年は帰って来ない事なんてザラに有るらしいよ」
「本当、Bランクのアランさんは、凄いよね〜」
「だな」
「ち、ちょっと待って!!」
頭を抱えて、何か幻聴の的なものを聞いた様な表情のチェルシーは、身振り手振りを使い必死に話を止めた。
「どうしたの〜?」
「今、何か聞き間違いかも知れないけど……Bランクって……」
「うん。俺の爺ちゃん現役のBランク冒険者なんだぞー。凄いだろー」
『……』
「あ、なんか、悪ふざけしてごめん。俺の祖父アランは、本当に現役のBランク冒険者って言うのは、本当だから。その、無言の圧力はやめてね?」
『……』
魂消るとは、きっとこの事だろう。両親達の事でギルズ達の許容量が限界ギリギリだった事は、見ていて分かっていた。
しかし、メルルとシルル姉妹が、それを気にせずぶっ込んだ結果、茶化してでも1クッション入れる必要があると感じた。ただし、その結果は盛大に滑っただけで終わった。
「今のはリオ君が悪いにゃ」
「擁護できないにゃ」
「アタイもサラッと言ったのも悪いけど、リオよりはマシだよ〜」
「いや、メルル。お前も割とリオと同罪だぞ?」
「えぇ〜?」
「いや、シルルちゃん……何、1人だけ責任放棄してんの……?」
「い、いや……分からないけど、分かった……。も〜良い……今日は何も聞かなかった。取り敢えず、今日の修練をお願いしたい……」
半分、魂が口から出ていたリックは、現実逃避する様に、何度も頭を振り訓練を促した。他の仲間達も、これまでの話は何も無かったかの様に足早に訓練を開始した。
「やっぱり、話に聞いていたけど、チェルシーとリックは元々が商人の生まれだったから頭が良い。魔法の素養に必須な知力が高いね」
「リオさん……あんま、俺等が商人の生まれって言わないでくれよ……。頼みますぜ……」
「ああ、ごめん……配慮に欠けていた。うん、でも、2人とも魔力感知も、魔力操作も、最低限度は出来る様になってきたね……。うん、良い調子だよ。
これなら、魔力放出に入って良いな……。2人とも、魔力属性は無属性で合っているよね?」
彼等の目と腕の傷跡については、事前に聞いている。その過程で、彼等の実家との関係もだ。その為、俺は2人を褒めているつもりだったが、あまりの無神経さに頭を下げた。
「そうだわ。個人的には、貴方から水属性耐性を身に付けたいって思っているわ」
「俺も、土属性耐性を身に付けたいと思っている」
「うん。目標がしっかりしているなら尚の事良いと思う。でも、先ずは魔力放出から出来る様になって欲しい。属性は習得するまでに時間が掛かるから、1〜2ヶ月なんて誤差みたいなものらしいよ」
「やっぱ、魔力放出が出来るのと出来ないのじゃ、話は違うって事か……」
「まあね。それに、魔法を使う上で習得しとかないと、かなり危険な技能もあるから余計にね……」
訓練が順調だからこそ、早く俺達に追い付きたい焦りが見え隠れするリック達に、俺は魔力技能について、詳しく説明し始めた。途中、ルカも参加した事で、全員手を止め再び集まった。
「リオ、それって一体なんなんっすか?」
「魔力酔い耐性と魔力耐性の2つだね。どちらも、習得するにはかなりの不快感を要する、魔法を使う上で必要不可欠の耐性だね」
「あ、あの〜。それは、どんな耐性何ですか?」
エファリーアは、緊張した面持ちで手を上げて質問する。それに対して俺は、魔力酔いの症状や魔力耐性の大切さ、習得方法などを自身の経験を交えて説明する。
「な、なるほど……でも、それなら尚の事、魔力耐性を得る前に属性耐性の習得をした方が良くないですか?」
「理屈上だとそうだね。でも、リーアは、例えば火耐性を得る為に生身で、火に焼かれたいと思える? 正直言って、属性耐性の習得ってこれに近い事をやるんだ。
なら、多少習得までに時間が掛かったとしても、生身で行う危険性を考慮して、安全策を保持した方が良いと思っているんだ。別にリーアが構わないって言うならやるよ? どうする?」
「い、いいえ……遠慮しておきます……」
自分自身が、火で焼かれる事を想像したのか、エファリーアは顔を青くして後ろへ下がった。
「その方が良いよ。魔力耐性を持っていようが、持っていまいが、習得には時間掛かる。命を顧みない方法なら、直ぐに習得出来るそうだけど、死ぬ一歩手前まで追い込むらしいよ?
別に俺達は、切羽詰まった状況じゃ無いんだ。だったら時間をかけても良いと思う。焦る気持ちは分からなくは無い。でも、焦っても良い事は無いよ?」
「……はい」
「でも、リーアの向上心のある姿勢は、俺は好きだよ。俺も協力するから一緒に頑張って行こうよ」
「……はい!」
エファリーアなりに、早く追い付きたいと言う焦りが決して悪いことでは無いと伝えると、頭と共に垂れ下がった耳が、力強く立った。
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