3-54 雨
「とうとう雨が降り出したにゃ……みんな、今日の拠点は此処にするにゃ。リオ君、メルルちゃんは拠点の整地。オイラ達は、焚き火の準備にゃ。
みんな、雨が本格化する前に、手早く行うにゃ」
「「「「了解」」」」
ポツポツと小雨ながら雨が降り始めた。今はまだ弱いが、これから強くなる可能性がある。その為に、急いで密集した木々がある拠点地を見つけた俺達は、急遽そこを拠点として決めた。
「3人とも整地出来たよ〜。ハイ、使えそうな石と薪枝、枯れ葉だよ〜」
「ありがとうにゃ。それで、ナート……焚き火の火種は点火しそうかにゃ……?」
「……ダメにゃ……。どうにも、枯れ葉や枝葉が雨水を吸収しているみたいにゃ。何度も服で水気を落として、点火出来たと思っても雨風で火種が消えるし、何か良い案は無いかにゃ……?」
「魔法は……ってダメだよね……。でも、他にどうしたら……」
「う〜ん……う〜ん……っ!? 閃いた!」
雨水と雨の湿気により上手く枯れ葉に着火出来ない。それに対してナートとシルルが、弱気になりながら項垂れる様子を見てラートとメルルも困った表情を浮かべた。
そんな中、俺はこの状況を打開する為に頭を回していると、とある事を思い出した。
「突然、どうしたにゃ!? えっ? リオ君、何か打開策があるかにゃ!?」
「これを使おうぜ」
俺が鞄から取り出したのは、汗拭き用に使っている手拭いだった。
「これは……手拭い? 確かに、これなら枯れ葉よりも点火しやすいにゃ……でも、これって使って良いのかにゃ……? 怒られたりしないかにゃ……?」
「大丈夫でしょ。俺、1日目に父ちゃん達から教えて貰った裏技が手拭いを火種代わりにする方法だし。ま、父ちゃん達も今回は、やってほしく無いって言っていたけど、ね?」
「なら、やっぱりダメじゃん」
「でもさ、今日って、最初に約束した事以外なら基本的に何やっても良いじゃん? それに、その時父ちゃん達が言っていたんだ。
"焚き火に正解は無い。火を着けられれば良い"ってさ。今は雨降って火が着かない緊急事態じゃん? なら、点火棒と枯れ葉での着火に拘るよりも、こっちで着火させた方が良いと思うだ」
現状、焚き火をつける手段がない以上、両親の意にそぐわない形だろうが、俺はこの可能性に賭けた。
「リオ君……分かったにゃ。これを使わせて貰うにゃ。もし、父さん達から何か言われても、一団代表であるオイラの責任にゃ。みんな、やろうにゃ!」
「……はぁー分かったにゃ。でも、僕も最年長者として、一団参謀として一緒に責任を負うにゃ」
「なら、俺は提案者として、一緒に責任を負うぜ」
「全く……これだから男の子は……。アタイ達も止める気はない。な? メルル?」
「そうだよ〜。此処まで来たら一蓮托生だよ〜。でも、点火出来ても、焚き火を起こすまで火種はどう管理するの〜」
1人だけ、覚悟を決めた様な表情をするラートを見た俺とナートは、ラートだけの責任ではないと笑った。そんな俺達を見た2人も苦笑しながら、責任を持った。
「それは、これを使おうと思っている」
頭に被っているある物を俺はメルルへ手渡した。
「えっ? 鉄の兜?」
「そう。俺が使っている鉄の兜。この中で、ある程度火を管理して、大丈夫そうなら外そうかと思っている」
「え、えぇ〜〜!? これって……良いの!?」
「ま、多少煤で汚れたりするけど、気にしないから良いよ。それに、手拭いって道具を使うのがアリなんだ。なら、鉄の兜を使っても文句ないでしょ?」
「それは……確かにそうだけど……屁理屈過ぎない?」
「屁理屈も理屈の内だよ。もし、反論があれば最初の段階で、使用可能な道具を限定しなかった父ちゃん達の落ち度だよ。それに、道具はどんな使い方をされても、使われてこそ意味が有るんだよ。
布も、兜も使われるんだ。本望だろ」
何処か納得していない様な、疑っている様な視線に俺は持論を持って説得した。
「おお〜流石、鍛冶屋の孫だね〜。なんか説得力があるよ〜」
「あはは、だろ? っと、段々雨も強くなるし、手早くやろうか」
麻の手拭いを切り解して、それを兜の中へ入れて着火した。火は燃えて、ある程度管理ができる様になったら、火種を焚き火と一緒に混ぜた。
「にしても……火、着いて良かった〜」
「リオ君の機転のお陰にゃ。助かったにゃ」
「気にしないでよ。それよりも、今日の夜番の順番はどうする?」
「今日はリオが決めるにゃ」
「えっ? そう? なら、今日は俺が最初にやるよ。次にラート君、メルルちゃん、シルルちゃん、ナートの順でやれば、魔力威圧が出来る人を分散させられるしね」
「なら、今日はそれで決定! あ、今日は花薪棒を沢山作っておいてね。夜中、雨が強くなって火が消えたら大変だから」
「了解。俺もその辺気を付けておくよ。なんなら、兜使って良いからね?」
「うん、ありがとね」
その後は特に変わらなかった。強いて言うなら、雨は想像したよりも降らず、小雨が続いた。グレイウルフに至っては、1度も襲撃はなかった。
「それじゃ、この3日間お疲れさん。野営のコツは身に付けたか?」
「うん。新しい課題も発見出来たし、とても充実した3日間だよ。依頼を受けてくれて、ありがとうね」
「おう。3日目の評価なんだが、雨と言う悪天候で、良くアレだけの野営が出来たと正直思った。
リオの機転、ラートが率先して責任を負う姿勢、ナートのダメだと思った後に意固地にならなかった姿勢、シルルとメルルの連帯責任だと言う姿勢は、中々出来る事じゃねぇよ。
1人の冒険者として称賛に値する。但し、強いて言うなら、雨が降りそうって分かっているなら、何が何でも拠点作成を優先すべきだったな。今回は偶々上手く行った可能性が高い。だから、日々精進するように。分かったか?」
「「「「「ハイ!!」」」」」
「よし、なら、一旦家に帰って、風呂入ってから飯を食いに行くぞ!」
流石に3日間、風呂に入ってなかった俺達はドロドロの格好で少し臭った。その後、自宅で汗を流した俺達は、もう1度集まり、焼肉を食べて依頼は終了した。
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