3-50 苛立ち
「それじゃ、リオも起きた事だし2日目の訓練を開始する。2日目は基本的な流れは、昨日と同じだ。但し、拠点の場所は違う場所を選んで貰う。
つまり此処は使ってはダメって事だ。最低でも100mは離れた場所で拠点を作ってもらう。その話し合いや食事の確保、薪や野営の順番などは、お前達が決めろ。俺達は助言はするが、口出しはしない」
「……分かった」
「幸い、まだ日は登ったばかりだ。ゆっくりしていけ」
父アモンがそう言うと、ガルダ達の元へ歩いて行き、俺たちを見守る様にしていた。
「……それじゃ、みんなどうする?」
「どうするって、何がにゃ?」
全員に共通して言える事だが、俺達は今とても寝不足でピリピリとしている。特にラートの目は充血しているほど赤く、獣の様な鋭い眼光を俺達に向けていた。
「……いや、そんなに睨まないでよ……。寝不足はラート君だけじゃ無いんだよ?」
初めて向けられる視線に、俺は不快感を覚え、ラートへ苦言を呈した。
「……いいや、リオ君は分かっていないにゃ。オイラ達獣人種にとって、この辺りの匂いはマジで臭いにゃ。ぶっちゃけ、何でナートが回復出来たのか分かんない程度に休めなかったにゃ。
取り敢えず、此処を離れて川で顔を洗いたいにゃ……」
「それは……ごめん。俺の配慮不足だったわ。取り敢えず、みんな此処を離れて川に行こう。話はそれからだと思う」
表情だけで魔物を殺しかねないほど、ラートの表情は苦しそうに歪んでいた。それを見た俺は、自身の想像を超える思いをしている事に気が付き、申し訳なく思った。
「異議なし〜」
「ラート君、みんな。俺が周囲を警戒しているから、先に顔を洗って良いよ」
「ごめんにゃ。ありがとうにゃ」
「にしてもナートは、ラートと違って何で休めたんだ? 見る限りアタイと同じくらい休めたんだよね?」
「ふっふっふ……それは、これが功を奏したんですにゃ」
「これは……何?」
ナートの鼻の中から、鼻糞とは別のヌルッとした固形物を見て、俺の頭の中は疑問で一杯だった。
「これは、昨日食べた木の実の果肉の食べカスですにゃ」
「えぇ〜……食べカス〜?」
後退りするメルルは、ナートへ向けた事が無いような汚い物を見る視線を向けた。如何やら彼女も相当、精神に来ている様だ。
「あ、あの……メルルちゃん。汚いって自覚あるので、蔑んだ視線は向けないでほしいですにゃ。結構、傷付きますにゃ……」
「ま、アタイはそんなナートも好きだけどな」
「シルルちゃん……っと続きだけど、僕もラートと同様にあの辺りが臭過ぎて、堪らなかったですにゃ。それで、どうしようかなと悩んだ末に、木の実の果肉で鼻栓する事にしましたにゃ。
野営中も結局の所、周囲の臭さで鼻が効かなかったので、鼻栓しても関係無いかな? と思いましたにゃ。ま、案の定特に問題無く、少しだけ匂いも改善出来たにゃ」
「じゃあ! 何で直ぐにオイラに言わなかったにゃ!? コッチは全然休めなかったにゃ! わざと言わなかったのなら、ぶっ飛ばすぞ!?」
得意げに話したナートにラートは胸ぐらを掴み、怒気を発しながら拳を握る。
「ご、ごめんにゃ……僕も伝えようと思ったのですが……その、疲れで忘れていたにゃ……それに、少し改善したってだけで、臭い事には変わらなかったにゃ。本当にごめんにゃ……許して欲しいにゃ……」
「まあまあ、ラート君。落ち着いて」
流石に雰囲気が悪過ぎた為、俺は2人の間に立つ様にして、喧嘩の仲裁をした。
「くっ!? はぁー。突然、怒鳴ってごめんにゃ」
顔を真っ赤に歪め、殺意に似た怒気を発するラートだったが、ため息の後呼吸を整えて謝罪した。
「取り敢えず、此処では喧嘩しない。喧嘩は家に帰ってから存分にしよう。それで、提案なんだけど、今日の野営はラート君が1番休める順番にしようと思うんだけど……どう?」
「リオ〜具体的には〜?」
「俺が母ちゃん達に教わった魔力威圧を教える。そうすると多分だけど、俺とナート、メルルちゃんが使える様になると思う。検証は日中するとしてね?
順番は魔力威圧が出来る3人が最初にやって、残りの時間をラート君達がやる。そうなれば、仮に今夜襲撃があっても俺達で迎撃が出来て、十分に休めると思う」
「でも、父さんやアモンおじさま達が言っていた、"頭の中の一部を緊張させて〜"って事はどうするの? 十分に休むって言っても、熟睡しなくちゃ根本の解決にはならなく無い?」
「うん。それだけど、俺は一旦アレは無視して良いと思う。正直、やってみて思った。直ぐに適応するとか無理だわ。だから、今無理して3日目を今日みたいに、ピリピリするくらいなら、一旦無視して熟睡しない?」
俺はメルルの質問に昨日の感想を述べた。正直言えば、俺も両親の期待に応えたい。それに、こんな貴重な機会は2度とないかも知れない。だから、出来るだけ実戦に備えた訓練をしたいと思っている。
しかし、現実はそこまで甘くない。必須技能とは言え、直ぐに出来るわけではない。昨日、俺は行ってみたが、何度も寝ぼけて、まともな休憩なんて出来なかった。だからこそ、みんなに提案した。
「でも、でも〜。アモンおじさま、それって良いんですか〜?」
「おう。お前らで決めた事なら、俺達には文句は無い。ま、正直な所、俺個人としてはやって欲しいし、早く慣れてほしいけど、無理そうなら拘る必要も無いしな。特に、この森なら大丈夫だろう」
「俺も父ちゃんの期待に応えられなくて、申し訳ないけど……少なくとも、今の俺には無理だわ。みんなはどう思う?」
「オイラもリオ君に賛成にゃ……今回の訓練は、野営の大まかな流れを掴む事が目的であって、野営を完璧に熟す必要は無いにゃ。あと、リオ君、マジで助かるにゃ……」
「アタイも良いよ〜。それなら、今日の野営は、アタイとリオのどっちがやった後にナート君がやってよ〜。ナート君もラート君と同様にキツいんでしょ〜? リオもそれで良い〜?」
「俺はそれで良いよ。順番もメルルちゃんに合わせるよ」
「なら、アタイが最初ね〜」
「了解」
「リオ、メルルちゃん……ありがとうですにゃ」
若干、涙目のナートは、深く、深く頭を下げた。実は彼も表情に出していないだけで相当辛かった様だ。
「なら、ナートの次はアタイがやるよ。ラートは1番最後の担当だよ。良い?」
「みんな……ありがとうにゃ! 明日は、オイラが頑張るにゃ!!」
「気にしないで〜。次は拠点と食糧、薪を探して休憩を取ろうよ〜」
「そうしようか。なら、まずは、グレイウルフに魔力威圧が効くかどうか検証する必要があるから、やり方を教えるよ」
俺は時折、周囲を警戒しながら両親に習った魔力探知や魔力威圧について語った。言葉だけでは分からないラート達には、実際にやってみて分からせた。
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