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探検の書 [祝780,000PV突破!]  作者: 火取閃光
第3章 Iランク冒険者
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3-37 Iランク中層探索⑨

「ーー! ーオ! リー! リオ! リオ起きて〜! そろそろご飯だよ〜」


 頭に響く、高く語尾を伸ばしたメルルが、俺の肩を小さく揺らして起こそうとする。


「う……ううん……? ああ……うん、起こしてくれて、ありがとう。 うわっ!? 結構、日が沈んだね……」


 空はもう日が沈みかけている。気絶前と熟睡前は、まだ日が昇っていたが、現在は辺り一面が真っ暗くなりかけていた事から、相当寝ていたようだ。


「そりゃね〜。リオってば、相当疲れていたのか1鐘分位はずっと寝ていたよ〜」


「えっ!? マジでっ? 膝枕大丈夫だった? メルルちゃん、ありがとうね」


 1鐘分=約3時間位の感覚なので、俺は内心焦った。辺りを確認するが、熟睡前(アレ)から場所を動いた形跡がない。つまり、俺はメルルの膝に、3時間以上眠りっぱなしだったのだ。メルルが膝を痛めていないか心配になった。


「どういたしまして〜。アタイも、あの時助けてくれてありがとね〜。アレは、流石にヤバかったよ〜」


「此方こそ、どういたしまして。でも、アレは、元々俺の役割だったから、本当に気にしなくて良かったんだよ?」


「でも、アレは、アタイの落ち度でも合ったからね〜。それでもだよ〜。それに……あの時のリオは、少しだけ見直したし……」


「あはは。おう! それなら、男冥利に尽きるってもんだよ。痛っ……!?」


 何処と無くしおらしく、それでいて顔の赤いメルルを見て、可愛いなと内心ホッコリする。そして、もう心配する事はないと右腕で、自身の胸を叩こうとした時、鈍い痛みが両腕に響く。


「大丈夫〜?」


「あ、うん……魔力酔いの怠慢感や吐き気、頭痛はまだ少しあるけど、許容範囲内だから大丈夫だよ。でも、足止めで魔法同時発動を両手でやったからか、腕がかなり痛い……」


「無理せず、ポーション飲んだら〜?」


 俺の顔を覗き込むようにして、メルルは自身のポーションを差し出して心配する。


「うん。でも、流石に勿体無いかな……。敵が襲ってきているなら飲むけど、今は襲ってきていない。だから、ポーションは高価だし、飲まなくて良いかな……?」


「痛みに、耐えられそうになかったら、無理せずにポーションを飲むんだよ〜?」


「心配、ありがとう。その時は、迷わず飲むよ」


 身体はズッシリと重く気怠い。頭はズキズキと痛い。胃はムカムカとして気持ち悪く、両腕は鈍器で殴られた様なジンワリとした痛みが俺を襲う。


 それを耐えた上で、俺は気合いで笑った。これ以上は、仲間達のお荷物になりたくない意地があったからだ。


「よっ! リオ、元気になった?」


「うん、みんなのお陰で、少しは楽になったよ」


「それなら良かったわ。それと、改めて、メルルを助けてくれて、ありがとね。姉として、家族として、仲間として感謝しているわ」


 側に来たシルルは、嬉しそうな、申し訳なさそうな気持ちが、ごちゃ混ぜになった表情で頭を下げる。自分自身の油断で妹を、後衛を、仲間を危険に晒した事が姉として、前衛として、仲間として不甲斐ない。でも、無事で良かったと言う気持ちが、ヒシヒシと伝わる。


「水臭いから気にしないでよ。メルルちゃんにも言ったけど、それが俺の役割だったからね」


「そう? でも、あの時の喝は効いたわよ。それにナートよりは劣るけど、少しだけカッコよかったわ」


「そりゃ良かったよ。俺も勢いで言った言葉だから、正直何言ったか覚えてないし、気にしないでよ。それよりも、俺が気絶した後のことを聞いても良い?」


「分かったわ。リオが嘔吐して気絶した後、ナートが直ぐに移動するのは、リオの身体とアタイ等の事を考えて危険だって判断して、休憩を取ることにしたんだわ」


「ああ〜だから、移動していなかったのか……」


「えぇ、だから、ナートにお礼を言っておきなさいよ?」


「そうするよ」


「(これなら……大丈夫かな。表情も、声色も、無理している感じは見られない。普段通りだな……)」


 なんて事ない普段の会話で、シルルの調子は元に戻りつつあった。それを見た俺は、少し安心した。シルルが自分自身を責めすぎて、無茶しないか少しだけ、心配だった。


「そこからは、何度かメルルの背負っていた鞄を枕代わりに、リオを寝かせようとしたけど……リオってば、寝相が悪かったわ。何度も鞄から落ちて、咳き込んで、鞄に寝かせるけど落ちる、を繰り返したわ。


 終いには、うつ伏せになって危なかったから、メルルに頼んで膝枕にして貰ったのよ? そうしたら、寝相もピタッと治ったのだから、男って現金よね……」


「その節は、どうもすみませんでした」


 頬に手を当てて、困った者を見るシルルと苦笑するメルルを見た俺は、今世で初めてやる土下座を行い、謝罪する。自分の寝相は、良くは無いが言う程悪くも無いと思っていた節があった為、とても申し訳なかった。


「そんなに良かったの? 膝枕」


「そりゃもう、最高でした! アダッ!?」


 後頭部に強烈な一撃を受ける。脳みそが揺さぶられそうな、良い一撃だった。後ろを振り返り、叩いた当人を見ると、顔が茹蛸の様に赤い。普段、こう言う表情を見せないメルルなので、少しだけ珍しかった。


「もう! 茶化さない! 2度とやってあげないんだからね!」


「ふ〜ん。なら、今度ナートにやってあげようかな……」


「そりゃ無いぜ〜メルルちゃん。そんなこと言わずに、もう1回やっても良いんだぜ? まぁ、男なら大体喜ぶと思うよ。膝枕が嫌いな奴って、そうは聞かないし、現にナートの尻尾もブンブン振っているしね」


 顔を真っ赤にして、照れるメルルのフンッと顔を背ける姿は、まるで機嫌を悪くした猫の様な可愛さがあった。それを見た俺は、心がホッコリと温まるのを感じる。それと同時に、俺の揶揄い魂に火が付いた。


「にゃっ!?」


「ふふ〜ん!! 今度、2人っきりの時に、ね……!」


「お、お願いしますにゃ……!!」


 予想外の攻撃に一瞬、時間が止まった様に固まるナートは、頭を下げる時に真っ赤な顔でとても嬉しそうだった。


「お〜い! オイラを除け者にするにゃよ! ああ〜オイラも彼女欲しいにゃ……」


「でも、ラート君は、アタイ等と同世代の女子会で、ナート君と同じくらい人気あるよ〜? ねぇ? シルル姉?」


「そうよねー。ナートは言わずもがなだけど、ラートへそれなりに好意を抱いている女の子も王都には居るわ」


「えっ? マジでかにゃ?」


 俺とメルル、ナートとシルルの雰囲気に、仲間はずれ感を感じたラートは、拗ねる様な声を上げる。しかし、メルルとシルルによって、自身が、王都で、異性から好意を抱かれている事に驚愕を隠せなかった。


「マジだよ〜。ラート君の徹底的に強くなりたい姿勢が、硬派でカッコ良いとか、時折見せる子供っぽい所が、普段との落差で可愛いって聞くよ〜」


「え、えぇ〜っ!? は、初めて聞いたにゃ……。そ、そうか……そう言えば、修業中、偶に差し入れを貰ったりするにゃ。もしかして、アレってそう言うことだったんだにゃ……!?」


「えっ? ちょっと待って、何そのモテ話……!? 俺、初耳なんだけど……!? そして、俺一度もないんだが!?」


 今明かされる同性幼馴染のモテ話に、驚愕を隠せなかった俺は、シルルとメルルに期待の眼差しを向ける。


「リオは……可もなく不可もなくかな〜。一生懸命ギルドの依頼をしている姿から、真面目な性格は、高い評価を得ていたよ〜。でも、低身長で見た目が子供っぽいから、異性として見ている女の子って、居ないみたいだよ〜」


「ゔっ!? 事実なだけに心に来る!!」


 胸を鋭い刃物でグサリッと刺された感覚に、思わず土下座をする様な姿勢でがっかりする。まさにorz状態だ。


「ま、リオに関しては、今後に期待って感じが、近所の女子会の見解かな〜? 現状、モテモテなのは、ラート君とナート君かな〜?」


「い、いいもーんだ! 俺はクレイ一筋だし! 他の女の子からモテなくても、クレイと結ばれればそれで良いし!!」


「でも、さっきの女子会の意見って、クレイちゃんは参加していないけど、同世代の女子が思っているリオの評価だよ〜? なら、リオを弟として見てきた期間がある、クレイちゃんも例外じゃないんじゃ無いの〜?」


「……ど、どうか! お2人方! 俺がクレイと結ばれる為に改めて協力をお願いします!!」


 否定できない事実に、顔や背中からブワッ冷や汗吹き出した。最早なりふり構っている暇は無かった。俺は2人に土下座で必死に懇願した。


「いいよ〜」


「ま、アタイで良ければな」


「ありがとう!!」


「めでたし、めでたしにゃ。それよりも、早くご飯食べようにゃ?」


 俺達は焚き火を囲いながら夕飯を食した。その時の雰囲気は、迷宮の外にいる時の様に心が穏やかな気持ちだった。

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