3-34 Iランク中層探索⑥
"ガサッガサ、ガサ、ガサガサ、ガサガサガサッ!!"
草木を掻き分けて、踏みつける多数の音が響き渡る。
敵は2〜30m先から迫ってくる。流石に、この距離なら俺でも敵を目視出来る。
敵は、俺の腹の位置くらいの高さがある巨大鼠だ。体毛は、複数の緑色の斑模様の様な迷彩色で、周囲の背景と同化して居る。その色は、上層で見た食人花とは、比べようが無い程に複雑な色で擬態して居る。
敵の数は、俺が魔法を放つ左方を見ても、さっき上層の転移人前で乱戦した数とほぼ同等数いる。つまりは、前回数えた時に6〜70体くらいだった事を考慮しても、襲ってくる敵は少なくとも200体近くはいると言うことだ。
"キィキィキィキィ!! キィキィキィキィ!!"
"キュッキュッ! キュッキュッキュッ!!"
敵も最早声を隠す気は無いらしい。2〜30m離れているにも関わらず、その鳴き声は、まるで合唱しているみたいだ。しかし、その音色は綺麗とはかけ離れており、大きな高音のせいで耳が痛く、非常に五月蝿い。
「(これが、中層か……。確かにワルドさんの言う通り、数が馬鹿げてるぜ……! だからこそ、最初の一撃が重要なんだ。沢山死んでくれよ、鼠ども……!!)」
「ーーラジエイトソイル!!」
「ーーラジエイトウインド!!」
「戦闘開始にゃ!! 行くぞ、みんな! 鼠なんてオイラがまとめて狩り尽くしてやるにゃ! 猫人族の意地を見せてやるにゃ!!」
「アハハハッ! ようやく手応えがある敵との戦いだ! 鼠ども! アタイを冷めさせる様な弱さはやめてくれよ? アタイを興奮させろー!」
「リオ、メルルちゃん! 2撃目の準備を!! メルルちゃんは、変わらず右方へ! リオは、左方から後方へ変更にゃ! つうか、キーキー五月蝿いにゃ! 鼠ども、今から僕が黙らしてやるにゃ!!」
「我願う……風魔力よ……収束し放たれよ……」
「我願う……土魔力よ……収束し放たれよ……」
俺とメルルは、ラジエイト系の魔法を放ち続ける。1回放つ度に10数体の鼠を殺すが、その度に後続から同等数の鼠が補充される様に増えていた気がした。
「セイッ!! ニャーっ!」
(もう、何なのよ〜!)
「(撃っても撃っても、数が、減らない……!? むしろ、さっきよりも増えた気さえする始末……!!)」
(くっ! 一体、一体の速度も、攻撃の重みも、上層とは比べ物にならないにゃっ!)
(チッ! ああーもうっ! うざったい! 一体、何体いんのよ! これじゃ、忙しくて、戦いの興奮も糞も無いわよ!)
(これは、予想以上に厄介にゃ…….今は、まだ良いけどこのまま増え続けるなら、何処かで撤退も考慮する必要があるかもしれないにゃ……。引き際を間違えちゃ駄目なやつにゃ)
戦っている誰もが思った。
"いい加減増えないでくれ"と"早く全滅してくれ"とそう思った。まさか、本当の鼠算式の様に敵が続々と数を増やされるとは、思っても見なくった。
戦いが続く。
その時間は、上層で乱戦した時のおよそ2倍ほど長い。普段から修業で、鍛えている俺達なら、気にするほど大した時間でも無い。しかし、精神的疲労感と身体的疲労感は、桁違い多く誰も彼もが汗水を垂らし、息も上がり始めている。
ちょうどそんな時だった。
目の前の鼠共を双剣で、斬って、斬って、斬りまくったラードだが、背後で守らなければならない2人に意識を割いた一瞬の隙を鼠に狙われ、体当たりを受ける。
「ーー痛ッ?! こなくそ……!! ハッ!? リオ君!」
普段の彼であれば、戦闘中に目の前の敵から目を離すなんて愚行はしなかった。しかし、久しぶりの激戦による疲労感、緊張、心配、不安などが、彼の集中力を少しずつ削っていた。
そんな、ふとして出来た一瞬の隙。しかし、この状況の敵にとっては絶好の機会。目の前の同胞を見捨てでも、屍を越えてでも、目の前の敵を食べたいと言う本能的欲求が、彼を襲った。
右腕を噛まれて血を流すラートは、怒りのまま敵を殺しす。幸い、傷は浅い。右腕のアームガードで守られていない露出した肌を浅く噛まれただけだ。腕は動くし、力が入らないと言うこともない。
ただ、ほんの少し意識が目の前に集中して、ほんの少し足が止まってしまった。その、数体の鼠共が通り抜けてしまうごく僅かな空間開けてしまった。
鼠共は一直線に俺へと向かう。本能的に理解したのだろう。あいつが1番厄介だと。手早く仕留めないと、逆に自分達が殺されてしまうと。ラジエイトソイルを放っている俺の右腕と右肩、脇腹目掛けて体当たりをする。
「ーー!? うぐっ?! ハァーッ!」
ラートの声に反応した俺は、自然と視線を向ける。しかし、鼠共の体当たりが当たる直前だった為、避けるどころか、防御すら間に合わず直撃した。
吹っ飛ばされる事はなかったが、意識外からの攻撃に受け流すことすら出来ず、直撃した体当たりは、確実に俺の体力を奪った。
「(鎧を着ていてなお、この威力の体当たりか!? 単発ならまだ耐えられるけど、複数同時を何度もだと結構危ねぇ!)それに、ちょこまかと動きやがって……早く死ねよ! 鼠共!」
鎧越しに受けた攻撃は、普通に生身に殴られた時くらいの鈍い痛みだ。修業中何度も感じた痛みだったが、集中力が高まった俺にはそれほど痛くは無かった。
「メルルっ!? 避けて!!」
「えっ……!?」
(あ……これ、ヤバいやつだ……)
シルルの焦った様な悲痛な叫び声にシルルは、声の方を思わず振り返る。自身の頭目掛けて口を大きく、開けている鼠が目の前に見えた。時間が、とても遅く流れる。メルルはその時、呑気にも両親の冒険話から聞いていた、走馬灯の話を思い出していた。
普段の彼女ならば、冷静に対処出来ていた速度で迫られた。しかし、幼い身体にかかった長時間戦闘による疲労感は、知らない内に彼女の身体機能を落としていた。諦めない思い、間に合わない現実に彼女は、焦燥感に駆られ冷静さを失っていた。
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