3-32 Iランク中層探索④
そもそも、狼牙爪の由来は、狼に寄せた獣の様な動きの戦闘術だ。何故、そうなったかと言えば、俺に武術の王道、正道の構え、戦闘術が向いていなかったからに尽きるだろう。
妖精種ノムルス族の血を引いている為か俺は、同年代のメルルよりも低身長、短腕、短足だ。現在、伸び盛りとは言え、父アモンですら163cmな事を考えると、俺自身160cmに到達するか怪しいと見ている。
どの様な武術でさえ、高身長、長腕、長足と言うのは、必ずと言って良いほど必要な適正だ。なぜなら、それらがあれば間合いが広くなり、攻撃が当てやすくなるからだ。
「(事実、俺は、修業時代の組手でラート君とシルルちゃんに勝てなかったしな……)」
ラートとシルル達と俺の実力差は、ほとんどないに等しい。と言うか総合的な身体能力で言えば、力も速度も幼馴染達の中で、群を抜いて俺が1番上だと言う自負すらある。
では、何故勝てなかったのか。それは、相手よりも一歩早く攻撃に転じても、俺の攻撃が2人へ到達する前に反撃されるからだ。その時に、ふと思った。
"このまま、みんなと同じ様な戦い方では、この先どんな相手にも通用しなくなる。自分の身の丈に合った、自分だけの戦闘術を身に付ける為に、今出来る事は何か? 今後も出来なさそうな事は何か? をとことん突き詰める必要がある"
そうして、自己流の超攻撃型戦闘術・狼牙爪の開発が始まったのだ。普段の大金槌と大楯を駆使した王道の防御型戦闘術とすると、それと対を成す邪道の攻撃型戦闘術を求めたのだ。
どれだけ無様でも、どれだけ見た目がカッコ悪くても、卑怯、卑劣と罵られても"戦いに生き残り、勝つ為の戦闘術"を考え続けた。
俺は、骨の短剣を逆手に持った右腕を弓矢を引き絞る様に構えて、駆け出した。狙うは、直線上にいる爆発蕃茄の群れ。
ーーまずは3体
「狼牙爪・露岩の陣ーー鷹視狼歩」
放たれた矢の如く、真っ直ぐに駆け出した俺の速度は、すぐに最高速度に到達する。
そして、俺の走る直線上に重なる様にいるボムトルトへ、左手の盾を突き出し体当たりをする。
すると如何だろう。目の前のボムトルトから後ろ2体が、まるで自動車の玉突き事故の様にぶつかり合う。
その勢いは、前から後ろへ連鎖する様に伝わり、後方の魔物が木に激突して爆散、中間の魔物が押し潰れて死亡する。しかし、前方の魔物は後ろ2体がクッションとなり、まだ死んでいない。
だからこその2撃目。
盾を横にズラす様にスライドして、重心移動をした俺の身体は、駆け出した時の勢いと引き絞った右腕の勢いを合わせる様に、間髪入れず相手を斬り殺した。
トップスピードで、直線上の敵に体当たりしながら、生き残った相手に魔纏撃の刃で斬り殺す。死ぬ間際の叫び声すら上げさせる気はない、瞬足の連撃。これこそが、狼牙爪ーー鷹視狼歩の真髄だと考えている。
「うん、まずまずの感触だ。それじゃ、次、行くぞ……鷹視狼歩」
そして、戦場を縦横無尽に駆け出し技を試す。その時でも、指示通り万が一の時は、いつでもメルルを守れる様に、自身の持ち場を意識しながら、ボムトルトを優先して技を試し続けた。
戦闘は、前回に比べると大分遅くまで時間を要した。その時間差はおよそ2倍の長さだ。しかし、それは単純に苦戦したからでは無く、みんなが自身の戦い方や新調した武器の扱いを試したからだ。
その為、ほんのりと体を温めることに成功し、額から少量の汗を滲ませる程度の疲労で、抑えることができた。
「みんな無事ですかにゃ? 点呼しますにゃ。僕、ナートは無事にゃ」
「アタイ、メルルも怪我は無いよ〜」
「アタイ、シルルも怪我無し!」
「オイラ、ラートもにゃ。ようやく身体が温まったにゃ」
「最後に俺、フィデリオも無事だよ。みんな、お疲れー」
仲間達にぐるっと視線を向けると、特に怪我や疲労をした様子は見られなかった。むしろ、新調して試したかった武器の扱いに手応えを感じていたのか、満足そうな笑みを浮かべていた。
「リオもボムトルトの優先討伐、お疲れー。アレのおかげで戦いやすかったわ」
「ま、俺も試したいことがあったから、ボムトルトの討伐は都合が良かっただけだよ。それよりも、ちょっと武器探してくるわ」
「手伝うにゃ」
「ナート、ありがとね」
ナートに続き、ラート、シルル、メルルも俺のハンマー探しに協力してくれた。如何やら魔物の死体の下にあるのか、見ただけではどこに埋もれているのか検討が付かなかった。
「それにしても、リオのあの戦い方って、もしかして修業中に言っていた自己流のやつ〜? もう、完成していたんだ〜」
「そうだよって言いたいけど、練度はまだまだ経験が不足しているかな? 今回は、相手が格下だからなんとか誤魔化せたけど、力技で捩じ伏せた感じが強いからね。
もっと動きの無駄を減らす必要が、あると思ったよ。ま、自己評価で甘く付けて及第点かな?」
狼牙爪は、攻撃に意識を振った性質上、反撃や防御に弱い性質がある。その為に身体中を鎧で固めて、万が一の反撃に備えている。そして、全身鎧であるとそれなりに重さを常に感じる事になる。
それは、小さなものかもしれないが、戦闘中の体力消耗に直結する弱点でもある。だからこそ、無駄な動きを省く必要が有るのだが、初の実戦で練度が低かったのか、走り始めや方向の切り替え、攻撃時の重心移動など改善するべき課題を自覚した。
「そう言えば、リオ君の自己流戦闘術は、狼牙爪……だったかにゃ?」
「そうだよ。ラート君が、まるで"グレイウルフみたいな動き"って言ったから、グレイウルフを意識して名付けたんだ。だから、ある意味、ラート君が名付け親みたいな物だよ。改めて、ありがとうね」
「いやいや、そんな事ないにゃ。リオ君の努力が実を結んだだかにゃ。それはそうと、狼牙爪ってさっきの技だけなのかにゃ? 前に見た時は、足技とか練習していなかったかにゃ?」
「そうだよ。でも、アレは狼牙爪の中でも隙がデカいし、さっきみたいな状況で試せる程の練度はないよ。でも、それで良いなら、狼牙爪は一応あと6つの技があるよ。それらは、追々試せたらで良いかなー?」
狼牙爪は基本的に足技を想定していない。それは、俺自身が低身長故に短足であるからだ。しかし、その技は、特定の状況でしか使えない技で、隙が大きいが当たれば凶悪な威力を見込める技なのだ。
「そうなんだ〜。アタイも自分な戦い方、自分だけの戦闘術について考えてみようかな〜?」
「時間があれば、考えてみると良いよ。こう言うのって早ければ早いほど、練度が高くなって対策しやすくなるからね。よし、武器が見つかった! みんな、ありがとう」
「どういたしましてにゃ。なら、そろそろ中層へ向かおうかにゃ」
俺達は魔物の残骸を放置して中層へ向かった。途中、転移陣に陣取っていた発光花が数体、光を放ち襲ってきた。しかし、初見殺しのそれは、既に一度攻撃を受けている。
技の種がバレている騙し討ち程、簡単に対処できるものは無い。発光の瞬間、俺が盾を構える。そして、全員がその後ろに移動して、冷静に処理した。青い転移陣に乗った俺達は、一瞬の浮遊間の後中層へ移動したのだった。
少しでも 面白い・気に入った・続きが読みたい
って思いましたら
高評価(星)・ブックマーク・感想・レビューなどをお待ちしています!
作者のモチベーション向上
やる気にブーストが掛かります!
是非ともお待ちしています!




