自ら率先して嫌われにいくタイプのバリウム
※貴方が食事中、またはその直前後に読むことは止めた方が懸命です。
「はい。じゃあバリウム検査ですね。これを」
職員から受け取ったおっさんが、カップに入ったオレを嫌そうにゆさゆさ揺らす。で、ヤニ臭え黄ばんだ歯を、ガチャガチャ開けたり閉めたりさせながら、こう言うわけだ。
「あ〜でたよぉコレコレ! 俺ほんっっと嫌いなんだよなぁ〜〜」
ーー全く。こっちの台詞だ、バカが。
溜め息を吐ける口があるんなら、目の前で盛大に吐いてやりたいくらいだ。
オレだって、テメーみてえなのは大嫌いだ。誰が好き好んで中年おやじの口ん中に飛びこみたいっつーんだよ、この野郎。どうせ入るなら、ピチピチギャルとか美少女がいいに決まってんだろーが、ボケ。オレにだって、飲まれるヤツを選ぶ権利くらいある。
だってよ、一旦ストンと落とされたかと思ったら、グルグル回されて溶けかかって、挙げ句の果には「うーわ、白くなってる」だの、便器ん中でいいだけ恥晒しの刑に遭うんだぜ? こんな屈辱が、他にあるかっての。
「あーあ。やだなぁ、やだなぁ」
いいよ。嫌なら飲むんじゃねえよ。第一、おっさんのぶりっ子とか世界一需要がねえから止めろ。
「気持ちは分かりますぅ〜〜。一気に飲んじゃってくださいね〜〜」
コイツ、絶対思ってねえだろうよ。……………………あーあ。飲みやがった、飲みやがった。もう知らねえ。たった今、またオレの自尊心は、このおっさんが出す色んなものと共に流されることが決まってしまった。
暗闇の外側から、声が聞こえた。
「バリウム検査って、この部屋で合ってますか?」
ーー女⁉ 女だ、女! しかも中々、若々しい声だったぞ。こんなおっさんの中を流れるより、オレはあっちに行きたい! あっちが良い、あっち!
だが、もう入口はかなり遠そうだ。クソが。こっから出せってんだ!
……クソ、こうなったら、なんとしてでもこのおっさんから脱出してやる。
「ふぅうんッ⁉ んっう、う、んふぅ…………!」
オレの逆流アタックと共に、おっさんが気色の悪い詰まり声を漏らし始めた。
「ゲップは我慢してくださいね〜〜」
ここの職員も、朗らかな声で、随分と狂気染みたことを言う。喧しい、いいから出せってんだ!
「あぁ、あ、ふぁあ……!」
よし。良い助走だ、おっさん。後はそのままま。
こうしてオレは盛大に解き放たれた。
だが最悪なことに、それは一部だけだったようで、オレ本体は外に帰ることができなかった。おまけに、美女は「うわ……」とか言ったっきり、声が段々遠ざかっていくしよ。
結局、オレは美女と一つにはなれず、今回もおっさんの体液と一蓮托生ってわけだ。クソが。
「あー……。だからこれ大嫌いなんだよ……はぁ」なんて嘆きが聞こえてくる。うるせえ! オレだって大嫌いだよ。なんならテメーの名誉毀損の為にもう一発、抗議としてブチかましてやろうか、ああ?




