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村人☆リスペクト  作者: 深抹茶
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猫の棲む村・2

 村の一番奥にある村長の家までの道のりも静けさが溢れて、いっそ不気味とも表現できるような有り様だった。静まりかえったその空間では人どころか動物ですら気配がない。そのことに気づいたのは村の中央、広場の付近だった。ユーリエはいつでも剣を抜けるように、フローディは魔道書を開けるように、辺りを警戒しながら進んだ。


 幸いにも何事も無く村長宅に辿り着くことができた。そこも昔の面影はあるものの、扉が固く閉ざされ、庭は荒れ果てている。

 幼いころに見たそれとあまりにも違っていて、二人は不安になった。扉を少し強めにノックすれば中から返事が聞こえた。

「よかった、ちゃんと人がいるみたい」

「どちら様かな?」

 中から出てきたのは記憶にあるのと変わらない、ラフトの村長だった。

「「村長ーっ!!」」

「ユーリエにフローディじゃないか。よく来たね」

 二人は老人の無事に、嬉しさのあまり飛び付いた。村長は目を優しく細め大きな手でそっと二人を頭を撫でる。緊張が弛んだことで思わず涙が滲む。幽霊がでてきそうな村の雰囲気が本当に怖かったのだ。村長はにっこり笑って二人を中に迎え入る。


 出されたホットココアに口をつけ一息入れたところで村長は口を開いた。

「久しぶりだね。もう八年かな?」

「そうですね。ホントに、お久しぶりです」

「お久しぶりです」

「今日はどうしたんだい?」

「実は──」

 ユーリエは両親から旅立ったこと、ギルドから依頼を受けたことを話した。村長は納得したように笑顔で頷く。フローディは村長に村の現状を尋ねた。

「あの、噂は本当なんですか?」

「……村人が次々に消えているのは事実だよ。私たちで調査を行ったこともある」

「いなくなるのが子どもばかりというのは?」

「子どもばかり、とは少し違うねぇ。いなくなるのは子どもと、臨月を迎えた妊婦なんだ」

 痛々しい表情で語るのは想像していたよりも酷かった。ここ五年で、すでに三人の妊婦と十六人の子どもがいなくなっていること。消えた者たちは前日まで別段変わった様子も無かったこと。村人が夜通し起きて見張っていても、いつの間にか全員眠ってしまっていること。いくら頑丈に戸締まりをしていても朝になれば開いていること。そして誰かが消える夜、不思議な歌を聞いた者がいること。

「──そのせいか、ラフトに近寄る旅人も少なくなってしまってね……」

「そんなことが……」

 重い沈黙がその場を支配する。なんと声をかけていいのか。声をかけるべきなのかもわからなかった。

「なーに? 暗い顔して」

「「お姉さん!!」」

 苦笑しながら入って来たのは村長の娘。記憶にあるのは年の近い姉のような存在だが、今は年頃の女性といった風だ。けれど、優しげな雰囲気は変わっていない。

「ユーリエにフローディじゃない。どうしたの?」

「ギルドからの依頼で来たんだよ!」

「それよりそのお腹、どうしたんだ?」

 二人が注目したのは娘の腹。西瓜がまるまる入っているのではないかと言うくらい大きい。ユーリエは咄嗟に席を立ち椅子を勧める。礼を言って娘は座った。

「もうそろそろ出産予定なの。で、最近物騒でしょ? お父さんが帰って来いってうるさくて」

「当たり前だろう」

「旦那さんは?」

「彼はね、この村の村人Aなの。今はフロンゲントまで買い出しに行ってるわ」

 遠くを見ながら大丈夫かしらなんて呟くその表情は心配していながらも幸せそうだ。その表情を見るとなんだか心の柔らかい部分がうずうずした。ユーリエも同じだったのか、肩に手を乗せられる。二人変な風に顔を見合わせた。

「そうだ、今日は泊まって行くんでしょ?」

「そうだな。それがいい。そうしなさい」

「え、でも……」

「いいのいいの。遠慮するような仲じゃないでしょ」

「じゃ、御言葉に甘えて」

 案内しようと立ち上がりかけた娘を止めて村長が二人を部屋まで案内する。二人は礼を言って部屋に入った。


 部屋の中で荷物を降ろし、ぐーっと伸びをする。ユーリエは二人分の荷物を部屋の角に纏め、椅子に腰かけた。フローディは自分に宛がわれたベッドに座って、足をぷらぷらさせる。

「しっかし、思ったよりも難しそうだな」

「だねー。情報が少なすぎるよ」

「他の村人に話を聞ければなぁ」

「でも出てこないんじゃ……。家に直接行ってみる?」

「警戒されるだけだろ」

「やっぱり?」

 二人同時にはぁとため息を吐いた。完全にお手上げ状態である。ふとフローディが外を見るとちらりと黒っぽい人影が見えた。子どもらしきその人物はどうやら広場の方へ向かっているようだ。身軽に駆けていく背中を見てフローディは立ち上がり叫ぶ。

「ユーリエ!」

「どうした?」

「人がいた」

「えっ!?」

「話聞いてくる!」

「ちょっと待」

 虚しくも目の前でパタリと音をたてて閉まった扉。ユーリエは言い知れぬ脱力感を感じて再びため息を溢すと、自らの武器とたまをひっつかみ、もう見えなくなった相棒の背中を追いかけた。


***



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