猫の棲む村・1
「「呪われた村?」」
「はい」
サラマンダーを倒して一週間が過ぎた。フローディとユーリエはその間、色々なクエストをこなしていった。最下級モンスターの退治がほとんどだったが、他にも買い出しや掃除、おばあさんの話し相手など様々経験を積んだ。
特に町の中の任務にフローディは大喜びだった。いつから作り出したのかユーリエには分からないが、町の地図をほとんど完成させていた。そのことに危機感を覚えたユーリエは町からフローディを連れ出すために他の村からのクエストを受けることにしたのだ。
ギルドから紹介されたクエストはサラマンダーが出現した街道の先にある村の調査。その村では次々と人間が消えているという。元々何十年に一度あるかないか程度の周期で神隠しがあったようなのだが、今回はそれと明らかに違うらしい。
「調査だけ、ですか?」
「はい。一次クエストとして調査及び探索、索敵を行ってもらいたいと」
「どのくらい調べるの?」
「本来でしたら原因究明までが理想ですが、今回はできるところまでで結構です」
暗に無茶はするなといわれユーリエは悩む。このまま次に見送れば、フローディは確実に町を出たがらない。次の町へ行くほどの装備が揃っていない今、このタイミングで少しでも遠出しなければ――――。
「もうちょっと簡単な」
「受けます」
ユーリエはフローディの答えを咄嗟の判断で遮り、受付嬢に了承した。フローディとしては冗談ではない。ようやくこの町に慣れて、なんだかんだぐだぐだと留まっていられそうだったのに、外に出るだなんて。
「ユーリエ、辞めた方がいいよ。この前みたいなことになったらどうするの?」
「この前?」
「サラマンダーの時の……」
「あぁ、んじゃ、ロゼたちでも連れてくか?」
「ロゼリア・カルバーナさん、並びにエルリア・カルバーナさんは別の討伐クエストに向かっております」
「だってさ」
いい口実だと思ったのに軽くかわされてしまい、必死に次の手を考える。ちなみにユーリエ一人に行かせるという選択肢は今のところ存在しない。ユーリエは今ならクエストを破棄できるという女性の言葉を断って、手続きを済ませてしまった。まだクエストの登録方法をいまいち理解していないフローディにそれを阻止する術はない。またしてもユーリエの思い通りだと思うととても悔しい。
もう恒例と貸したフローディの恨めしげな視線を受け流し、視線の本人を引きずってギルドを後にした。
***
すぐに荷物を纏めて町から出た二人は、街道まで到着していた。もうすっかりサラマンダーとの戦闘痕も修復され、よく見ればところどころ焦げている程度である。
だが、村の噂のせいか人通りはない。ふとフローディが道の端を見れば猫のような生き物が通った気がした。
「猫型モンスター?」
「うん。たぶん。黒かった」
「なんだろうな……。探してみるか?」
「今はいいよ。もしかしたらって程度だし」
とは言ったものの気になるのも事実。ちらちらと気にしながら村に進んだ。けれど、道中で黒猫に出会うことはなかった。
街道を進み、半日ほどで村に着いた。農耕を営む村ではあるが、以前はそれなりに活気もあり明るい雰囲気だった。だが今はその面影はない。
「ここがあのラフト?」
「らしいな……」
「なんか、ずいぶん変わっちゃったね」
言い知れぬ恐怖から、フローディはたまをギュッと握りしめる。
二人は幼いころに一度両親たちと共にこの村を訪れたことがあった。一ヶ月近くの滞在だったため、フローディの記憶にも残っている。その頃はまだまだ賑わっていて、優しいおじさんやおばあさんがよく声をかけてくれた。
見る影もないその変わりように、二人は混乱してしまう。道を歩く人影はなく、旅人案内人の姿すらない。家の扉は固く閉ざされ、昔は賑わっていた広場も今は寂れてボロボロだった。
「何があったのかな……。案内人さんもいないし」
「とりあえず、状況を知ってそうな人……」
「村長さんは?」
「そうだな。村長の家に行ってみるか」
「うん。ホント、どうしちゃったんだろう」
呟いた声は澱んだ空気に溶けて、誰にも届かなかった。




