決戦・2
終戦の丘。勇者と魔王が最後に戦った場所ということでその名前がついた。フローディの回復を三日待って、一行はついにここまで辿り着いた。
広く拓けた場所だったはずだが、いつの間に建設されたのか、今は禍々しい城が辺りを見下ろしている。何か罠があるはずだと警戒しながら扉を開く。全員が中に入ると、大きな音を立てて扉が閉まった。
焦りの声をあげたのは誰だったか。それを皮切りに四方八方から矢や石が飛んでくる。一行を囲むのは数十匹はいるであろうゴブリンの群れ。
「なんだこの数」
「みなさん、油断しないで」
棍棒を振り回しながら襲い掛かってくる。常であればさほど苦労もしないモンスターだが、知能があり、これだけの数で群れるとなると状況は変わる。
いつの間にか勇者たちと離されてしまったユーリエとフローディ。二人は互いにアイコンタクトを取ると、まず先行してユーリエが走り出す。ゴブリンが斬擊に気をとられている隙に、フローディは魔法を完成させる。
「主砲展開。『ファイア・キャノン』発射!
両手で足りない数のゴブリンを燃やすが、どこから沸いているのか倒しても倒しても数が減らない。
各々善戦するも、倒しきることは敵わず、まずは合流だと中央へ向かった。ゴブリンたちが一定の距離で一行を囲む。なんとか全員で集合、背中を預け合う形で陣形をとった。
「こいつら楽しんでる」
トルナモが感じたとおり、ゴブリンたちはまるでゲームをするように狩を楽しんでいた。じわり、じわりと獲物を追い詰め弱らせる。
「ねぇ、フローディ、あれ」
「あぁそうだね。やってみよっか」
一匹のゴブリンが動いた。その瞬間、それに続くように他のゴブリンたちも腕を振り上げる。二人が何かを企てているのに気づいたトルナモは注意を引くように最初のゴブリンを倒した。にわかに殺気立つゴブリンを掻き乱すように、ユーリエも近くにいたゴブリンに刃を振り下ろす。
フローディとキクラは息を整え魔法陣を描いていく。
「『プリズム・シールド』」
気づいたマキナが戦士たち以外を内側に光の盾を作り出した。押し出されたゴブリンが必死に盾を攻撃するがびくともしない。
時間にして数分後、それは完成した。
「「複合魔法『ナイトメア・イリュージョン』!!」」
それを待っていたかのようにフローディとキクラは魔法陣を展開し、特大の魔法を放った。紫の光がくるくると回りながら辺りに広がっていく。その光に当たったゴブリンたちは為す術なく消滅した。勇者たち仲間ごと光は部屋を覆いつくすが、仲間が触れても光はなんの害も与えなかった。
全てのゴブリンが消滅したところで、魔法陣は消えた。二人はハイタッチをして喜んでいる。
「いつの間に練習したの?」
「朝話し合って決めたんだ」
「成功してよかったねー」
能天気に笑いあう二人。本当に、成功してよかった。二人の魔法がなければ間違いなく全員が死んでいただろう。運よく生き残れたとしても、この先に進むのは難しかったに違いない。しかし魔法使いというのはこんなにも能天気でいいものなのかと、ハイタッチする二人を見て全員が思った。




