決戦・1
悪魔に憑かれてから三日後。夜が更けたころに、フローディは目を覚ました。なんだかものすごく無茶をしたように体が痛い。ふと横に視線をやれば、思い悩むように窓の外を見つめるユーリエ。フローディが目覚めたことに気づいたかも怪しい。
「どうしたの?」
「フローディ!?」
体は大丈夫かと聞かれ冗談交じりに全身が痛いといえば慌てて薬草を準備するユーリエ。なんだか様子がおかしいと、思いながらも出された薬を飲み干していく。体を温める効果のあるそれは全身に染み渡り、生き返るような心地だった。全て飲み終わり隣に座るユーリエにカップを渡せば、ユーリエは呟くように語り始めた。フローディがレヴィアタンに体を奪われたこと。本気で戦ったこと。そして、勇者たちの話。全てを話してユーリエは口を閉ざした。
「どうするの?」
フローディは真っ直ぐにユーリエを見る。ユーリエは耐え切れず視線を落とした。
「どうしよう」
「どうしたい?」
「どうしたいのかな……」
うじうじと思い悩むユーリエに、フローディはいい加減我慢の限界だった。思い切り頬を殴る。もちろんグーで。そのあとベッドに仁王立ちになって叫んだ。
「迷うくらいなら手を伸ばせ! ボクの知ってるユーリエはそんなに臆病じゃない!」
椅子から落とすことすらできなかったのは病み上がりだからということにしておこう。けして非力だったからではないはずだ。さすがにきつくてベッドの上に座り込む。肩で息をするフローディ。ユーリエはその姿を見て、頬を押さえながら笑った。
「わりぃ。オレどうかしてた。助けを求めてるなら、手を差し出してやらなきゃだよな」
フローディは満足そうに頷いて、血の気が引くのが分かった。やばい、と思ったときにはもう遅く再び気を失ってしまう。その姿にユーリエが再び慌てたのは言うまでもない。
***
翌日、フローディが目を覚ました報告と返事をするために、二人は食堂へ降りてきた。今回泊まった宿は一階が食堂になっている。マキナたちの姿を見つけ、ユーリエは手を上げた。フローディもひらひらと手を振りながら勇者一行に近づいた。
「もう大丈夫なんですか?」
「うん。心配かけてごめんね」
あまりにも心配そうに見つめるから本気で申し訳なくなってしまう。オーダーを取りに来たスタッフに軽い朝食を注文した。起きたところで胃に悪いからと、フローディはスープだけで、とても不満である。
「それで、返事を聞かせていただけますか?」
硬い表情でザイークが口を開いた。ユーリエはふっと笑って答えを返す。
「あんたたちについていくよ」
「本当?」
「うん。マキナたちが困ってるからね」
「ありがとう」
本当に嬉しそうにしているマキナ。ザイークもトルナモも、緊張が解けたのか一気に破顔した。しかしキクラだけが、硬い表情でフローディに問いかける。
「分かってるのか?」
「分かってるよ、キクラ。大丈夫」
「そっか。……ならいいや。よろしくな」
真剣な表情で返すフローディに何かを悟ったのか、キクラは笑って手を差し出した。にっこりと笑って手を握り返す。
「このタイミングであなた方が仲間になってくれたのは本当に心強いです」
「どういうこと?」
「最後の悪魔、魔王・サタンの居場所が判明しました」
一同は身を硬くしてその答えを待つ。そしてそれはここからそう遠くはない場所だった。
「大昔、勇者様と魔王が戦ったところです」
決戦の時は近いと誰もが悟る。食堂の和やかな空気が、どこか遠くに感じた。
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