マキナ
フローディをベッドに寝かせ、看病を買って出たキクラを残しマキナたちの部屋に移動する。重い空気の中で、ユーリエは口を開いた。
「なあ、あいつの正体、あんたたちは知ってるんだろ。聞かせてくれないか?」
今何が起こっているのかを。言葉にしなくても分かったのだろう。少し躊躇いを見せるザイークとマキナ。二人に話してしまえば、巻き込むことになる。了承を得られていない内に話してしまってもいいものか。知るだけで危険な話であるからこそ、嫌がる人間を巻き込む訳にはいかない。
「聞いてしまえば、それだけで危険を認知することになります」
「うん」
「知らないほうがよかったと、そう思うかもしれません」
「あぁ」
「私は、自由に旅する、あなたが、あなたたちが好きです」
「……ありがとう。でも、知らないままではいられない」
「ユーリエさん」
「なぁ、マキナ」
「はい」
「オレは、まだ見たことない世界を知りたくて、いろんなところに行きたくて旅をしてるんだ。だから、危険だからって知らないことを知らないままにはできないんだ」
にっこりと笑ってみせるユーリエ。マキナは迷うが、それでも簡単には話せない。ザイークも迷っているようだった。
「……話してやれ」
「トルナモ?」
「知る権利はある」
ザイークをじっと見るトルナモ。先に折れたのはザイークだった。知っているところだけですがと前置きして、ゆっくりと語り出す。
勇者の伝説にあるように、悪魔とは、異世界に住む生き物のことだ。奴らは常にこちらの世界を狙っている。伝説の中で勇者が悪魔を倒したあと、世界は確かに平和になった。モンスターがこちらの世界に残ってしまったのは、元々この世界の生き物だったからだ。数百年はこの世界は平和だった。
しかし年月を重ねるうちに、二つの世界の間で再び歪みが生じた。歪みは少しずつ大きくなり、やがて穴となる。穴を通じてこちらに流れ込んでくる悪魔は、その穴が大きければ大きいほど強くなるのだという。
伝説にあるとおりならば、一番大きい穴、すなわち魔王の居るであろう穴を閉じれば、世界中にある穴を全て閉じることが出来る。すでに物語となりかけていた勇者が再び召喚された。
勇者とは悪魔とは別の異世界に住む人間のことだ。彼らは時空を管理する能力をもっており、異世界に行ったときだけその力を発揮することが出来ると文献には記されていた。誤算だったのは勇者を召喚する際に魔王らしき魔力の邪魔が入り、マキナの記憶がばらばらになってしまったこと。それ故にマキナは最初、自分の呼ばれた意味すら理解していなかったのだという。
今回マキナを召喚したのはマネットと近隣諸国。そして護衛の三人はマネットの王国近衛部隊に所属している。
ユーリエとフローディが持っていた光の石はかつての勇者がこの世界に残して行ったもので、その使用方法までは伝わらず、石は御守りとして砕かれ、現在は多くの人間が所持している。
そこまでを一息に語ったザイーク。もう伝えるべきことは何もない。トルナモが口を開く。
「仲間になる件。もう一度、改めて考えてほしい」
頭を下げられて、ユーリエは口ごもる。こればかりは、自分だけで決めていい話ではない。けれど信頼して話してくれたのだ。その信頼に答えたいとは思う。
「フローディが目を覚ますまで待ってくれ」
「じゃあ、そのあとで返事を聞かせて欲しい」
ユーリエはこっくりと頷いて部屋を後にした。
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