旅路・2
「二人の絆はよくわかった」
占い師は満足そうに頷いている。口喧嘩しかしていないがいいというのだから良いのだろう。仲直りの握手をして、さっきの喧嘩は水に流す。占い師が再び指を鳴らせば、椅子の向きはすっと戻った。
「それで何が知りたい?」
「どうやったら村人になれる?」
「それはなるようにしかならないさ」
占い師はからからと笑って答えた。それじゃ答えになってないとフローディは少しむくれる。ユーリエはしばらく考えて、切り出した。
「オレたちはこれから何をするべきですか?」
「簡単さ、勇者の仲間になればいい」
「他には?」
「何故?」
「勇者の仲間にはなりたくない」
「しょうがないねえ、なら東に向かいなさい」
躊躇ったユーリエの心すらお見通しなのだろう。占い師は仕方ないなと笑って別の道を示した。具体的な内容ではなく、方角だったけれど。
「もっと具体的なことは?」
「行けばわかるさ。さぁ、お行き」
そういわれてしまえばここにいつまでも居るわけにもいかない。二人は席を立って頭を下げる。部屋から出てもう一度振り返れば、木の札は準備中になっていた。なんだかおかしくて笑う。なにか困ったことがあれば、また来てもいいかもしれない。その度に喧嘩して、もやもやしたものなんか吹き飛ばせばいい。本音でぶつかり合えた方が、もっと仲良くなれる。
若者たちの絆を試し、道を指し示すのが大好きな老婆は、東へと旅立っていく二人を水晶で見守った。運命は変わらないのだと笑いながら。
***
占い師の言葉に従って二人は東へと歩いてきた。そして行き着いたのはカジノ街・ポートヨーエン。昼間に眠り夜に活動する町は、二人が辿り着くころようやく起き出した。街に足を踏み入れた瞬間、フローディの体が一瞬跳ねる。ユーリエがどうしたのかと尋ねても何もないと答えるだけだった。
とりあえずは荷物を置こうと宿を探す二人。街の中心を歩いていると、後ろから二人を呼ぶ声が聞こえた。振り返ればそこにいたのはやはり勇者一行。ユーリエはあの糞婆と内心毒づく。聞こえていたかのようにタイミングよく植木鉢が落ちてきた。心の中ですぐに謝った。マキナは嬉しそうに走ってくる。他の面々も気まずそうではあるけれど、嫌そうではない。
「お久しぶりです」
「ああ」
会話が止まってしまい、妙な雰囲気が流れた。すると、突然フローディがユーリエの腕に抱きつく。困惑している一同をよそにフローディは満足そうに笑った。
「ね、ユーリエ。早く行こうよ」
「フローディさん?」
「勇者なんてどうでもいいでしょ?」
声をかけるマキナを無視してフローディはユーリエの腕を引き歩き出そうとした。ユーリエは戸惑いながらもその場に留まろうと足を止める。彼から勇者などと呼ばれたことのないマキナは、そっとユーリエの服を引き、声をかけようとした。
しかしその瞬間思い切り体を突き飛ばされる。一瞬なにが起こったのかわからなかった。マキナもの前で仁王立ちになるフローディ。その瞳は驚くほど冷たい。
「触らないでよ」
「フローディさん?」
何かがおかしいと勇者一行は思った。明らかにおかしいのだが、頭がついていかず、何が起こっているのか上手く理解できない。
なんだなんだと立ち止まる通行人たち。興味深そうにこちらを見ているが、誰も話しかけては来ない。フローディは取られまいと必死にユーリエにしがみついている。ユーリエはその肩に手を置いて突き放した。
「お前、誰だ」
「何言ってるの、ボクだよ?」
困ったように笑うフローディ。しかしユーリエにはもう、それは別の何かに見えた。そして核心をつく一言を溢す。
「お前は、フローディじゃない」




