旅路・1
大陸を旅して五ヶ月が経った。その間に勇者たちの噂を聞かなかったわけではないけれど、二人は始めて見るものに心奪われ、色々な場所へ行った。
メントキルでは旅人や冒険者以外にも職業選択の自由があるため、転職の洞窟・ニーマという場所が存在する。そこでも村人になりたがったフローディだが、残念ながら空きが無かった。心底残念がったフローディと、心底喜んだユーリエである。
他にもモンスターと戦う闘技場や、勇者の訪れた高原、山奥の神殿などたくさん冒険をした。そのおかげで二人のレベルは一気に上がり、現在はユーリエ・レベル42、フローディ・レベル38である。
そんな二人が今回訪れたトルカの街には、占いの館が存在した。興味本位でこれからのことを占ってもらおうと館に歩みを進める。
「占いねぇ」
「どうせこれって目的ないんだし、暇つぶし程度にはいいんじゃない?」
「それもそうだな」
最初からあまり信じるつもりの無いユーリエだが、暇つぶしと言われて頷いた。確かに色々と見て回るのは楽しいけれど、何か目的を持つのも悪くは無いかもしれない。
***
トルカの街の一番奥に、その館は存在した。古い館には蔦が蔓延りいかにもという雰囲気を醸し出している。
二人は大きな玄関扉をノックしたが、返事は無い。そっと扉を開いてみれば、ぱんぱんと軽快な音を立てて、垂れ幕が下がってきた。そこにはカラフルな字で「ようこそ、占いの館へ」と書かれている。
他に何か無いかと視線を逸らせば、なぜか看板が立っていた。看板には矢印がかかれており、それは屋敷の奥へと続いている。矢印に従って奥へ進めば、ある部屋に木の札がかかっており、そこには「営業中」の文字。扉をノックすれば中から入室の許可が下りた。二人はそっと扉を開ける。
「ああ、ようやく来たね。ユーリエ、フローディ」
中は呪具や水晶がたくさんある不思議な雰囲気の部屋だ。その中央には一人の老婆がにこやかに座っている。名前を呼ばれたことに目をぱちくりさせていると、部屋の奥からすっと椅子が二脚滑り出てきた。促されてそれに腰掛け、二人は老婆と向かい合う。
「待っていたんだよ。遅かったね」
「何でボクたちのことを知っているの?」
「占い師はなんでもお見通しなのさ」
「なら、オレたちの未来も占ってくれますか?」
「それはお前たち次第だよ。さあ、占ってほしいならお前たちの絆を示してごらん」
「絆を?」
「ああ、なに簡単なことさ。お互いのことを聞かせておくれ」
占い師がぱちんと指を鳴らせば、すっと二人の椅子が向かい合った。何から話せばいいのかと考えていると、相手について知っていることを話せばいいと声をかけられた。迷っていることすら見通されているのだ。フローディはおずおずと口を開いた。
「ユーリエ・ブラドール。階級はBでレベルは42。ボクの親友」
「フローディ・エルマーク。階級C・レベル38で、オレの相棒」
その調子だよ、と声をかけられて、二人は考えた。目の前の相手のことは知りすぎていて、何から話せばいいのか分からない。
「フローディは強いよな。魔法が使えるし、魔力もすごい」
「ユーリエだってすごく強いよ。それにやさしい」
「やさしい?」
「うん。いつもボクを守ろうとしてる。強くてやさしい」
相手がそんな風に考えていることなんて思いもしなかった。なんだかすごく照れくさくなって、思わず視線を逸らす。
「……オレは優しくないさ。手放せないだけだ。フローディはすごいよな。本当の意味で大切なものを守ろうとしてる」
「そうだよ。ボクはそのために強くなるんだから。ユーリエは意外と弱虫だよね」
照れくさくなってしまって、つい意地悪なことを言ってしまった。
「そんなことねーよ」
「そんなことあるよ。自分の懐に入れたものを壊されないように必死になってる」
「そういうフローディだって臆病だよな。大切なものを守りたいっていうくせに、自分の側に無いと不安で、離れそうになれば必死で追いかける」
売り言葉に買い言葉。次はお互いの欠点を語り始めた。滑り出した言葉は止まらない。喧嘩することは多いけれど、こんな風に相手を貶すようなことをいうのは久々だ。
「それにフローディは頑固なんだよ。一回言いだしたら聞かない」
「それはユーリエも同じだろ。ユーリエなんかへタレじゃん」
「別にヘタレてねーよ」
「ヘタレだよ。それなのにボクに隠し事しようとしたりしてさ。何それ。ボクが喜ぶとでも本気で思ってんの?」
このまま行けば自分が不利であると悟ったユーリエは、ぐっと言葉に詰まる。しかし次の瞬間にはふっと笑ってフローディのことに話を変えた。
「フローディはあれだよな。昔から自由奔放すぎだ。いつも振り返ったら居ないんだから」
「それはユーリエが置いていくからでしょ!」
お互いのことを話すうちに、幼いころのことにまで発展し、収集がつかなくなりそうになった。そこで占い師はぱんと手を叩き、話を止める。はっとして横を向く二人。正直その存在を忘れていたために、なんだかとても恥ずかしい。




